37.発情少女の爆弾処理

ジーナがバレッタに引き摺られていき、食堂には俺とエウリィの二人だけとなった。


「久しぶりにふたりっきりだね、お兄ちゃん♡」


向かいに座っていたはずのエウリィが、目にも留まらぬ速さで隣に移動して身体を寄せてきた。

その素早さたるや、ジーナにすら劣っていない──。


「ジーナが来てから全然構ってくれなかったから、寂しかったんだよ?」


結構な頻度で一緒にいたと思うのだが……。

まぁ、エウリィもまだまだ子供だ。甘えたい年頃なのだろう。


頭を撫でようと手を上げた瞬間に、一瞬で腕の隙間を掻い潜って脚の上に乗っかってきた。

た、対面座位……!


「色んな子に手を出すのもいいけど、ちゃんと釣った魚にも餌をあげないとダメだよ? お兄ちゃん」


お、おう……。いつ釣ったかは分からないが、まぁいいだろう。俺は責任は取る男だ。

可愛い可愛いエウリィのためならなんだってやってやるさ。


「優しいお兄ちゃん……大好きだよ? んっ……♡」


ちゅっ、ちゅっ、という音と共に首筋に柔らかい感触が伝わってくる。

前戯が始まってしまっていた。なぜ?

最近のこの子はちょっとギアが外れ過ぎていると思う。

サキュバスでも憑依してるのだろうか? 悪霊退散! 悪霊退散!

憑いてないのならもう少し対象年齢を引き下げてほしい。


「んー……。もう、お兄ちゃんってホントガード硬いよね」


その後も続くエウリィの猛攻を何とか凌ぎ、宥めることに成功した。

すぐにR-18展開へと持っていこうとするんじゃありません。メッ!


「むぅ……最初に手を出すならわたしにしてね? 絶対だよ? じゃないと拗ねるからね?」


残念ながら手も足もおちんちんも出ないのであった。

イエスロリータノータッチの掟は順守しなければならないからな。



冗談はさておき、エウリィはとても俺に懐いてくれている。

僅か一月と少しばかりの付き合いだというのに、随分と心を開いてくれたものだと今更思う。

エウリィ自身が元から明るくて活動的な気質だったということもあるだろうが……他の人にもこんなに距離が近いのかと思うと、少し不安になってくるな……。


「お兄ちゃん。わたしが誰にでもこんなことをするのか……とか考えてるでしょ」


表情で考えを読まれてしまった。きょ、強キャラにありがちな洞察力だ……!

決して俺が分かりやすいとかではないはずである。


「わたしがこんなことをするのはお兄ちゃんだけだよ?」


鼻と鼻が触れ合いそうな程の距離にエウリィの美少女フェイスが迫ってくる。

エカーテさんによく似た可愛い寄りの顔立ちだが、エウリィはややツリ目で、凛々しさがプラスされている。

こういう色気のある表情をすると、途端に年相応の少女らしさが薄れて大人びた雰囲気を纏ってしまうのだ。

やっぱりサキュバスか何か憑いてるんだと思う。お祓いの必要性を感じるな……。


「わたしが愛してるのはお兄ちゃんだけ。わたしが尽くすのはお兄ちゃんだけ。お兄ちゃん以外の男はみんなゴミなの」


まだギアが上がる……だと……!?

どうしてこんなに病状が悪化しているんだ!


「誰にも渡さない……絶対に……! お兄ちゃんは私だけのもの……!」


わぁ……なんか最近聞いたことあるようなセリフだぁ……。

瞳のハイライトが無くなり紅潮する頬。完全にヤンがデレてしまっている。

いつの間にか爆弾処理班としての出番がやってきてしまったようだぜ……!


「わたしの体はお兄ちゃんのもの。わたしの全てはお兄ちゃんのもの。だからお兄ちゃんも、わたしだけのものになって……?」


途轍もない欲望を幼い少女からぶつけられてしまい、思わず武者震いしてしまった。

向こうの世界だと即お縄だぜ……!? もしかしたらこの世界でもお縄かもしれないが。


だがしかし、俺は立ち向かわなければならないのだ……!

ハーレムルートを征くならば、これしきの逆境は笑って乗り越えなければならぬ……ッ!

ギャルゲで鍛えた恋愛スキルを見せてやろうじゃないか!




──エウリィ、よく聞いてほしい。


こんなことしなくたって、俺はちゃんと君たちのことを守る。

決して蔑ろになんてしない。エカーテさんもエウリィも、大切な人だからな。

だからそんな無理なんかしなくたっていいんだ。


視線を逸らさず、しっかりと見つめ返した。


「………………」


ピシっと音を立ててエウリィの表情が固まった。

やがて瞳のハイライトが戻り、徐々に顔全体が赤くなっていく。

それを隠す様に俺の胸に顔を押し付けると、小さな声で呟いた。


「無理なんかしてないもん……! もう、最初の頃の設定は忘れてよ……!」


どうやら恥ずかしがっているらしい。

演技しているところにマジレスするのはよくなかっただろうか。

だけどちゃんと言わないと伝わらないこともあるとおじさんは思うの。


「あぁ~~~もう、あの時のわたしのバカ……! お兄ちゃんとの出会いを最初からやり直したい……」


頭をぐりぐりと押し付けられた。


──出会った当初のエウリィは、ここまで人懐っこくはなかったのだ。

愛想はあったものの、一線を引いているというか、どこか壁があるというか……。

まぁそれが普通の反応であり、当たり前なのだろう。

宿の主人と客という関係なのだから、必要以上に親しくなる方がおかしい。


だが、俺が母親のエカーテさんと距離を縮めようとする度に、エウリィは自分自身を盾にしてきた。

具体的に言うと、今のように自分を差し出して媚びてきたのである。

母親を男の魔の手から守ろうと必死だったのだろう。優しく、賢しい子だ。


だが俺は御覧の通り性欲が無いのでエカーテさんとの仲は一定以上に発展しないし、何もしなかったのである。

そしてそんな俺を信頼してくれたのか、エウリィは心を開いてくれた。

今では御覧の通り、素で仲良くなった……と思っている。

計算がいくらか入っているのは間違いないだろうが、好意自体は本物だろう。

さっきのはいささか演技過剰気味だったと思うけれども。


「ねぇ、お兄ちゃん」


エウリィが俺の顔を見上げて言った。


「わたし、お兄ちゃんのこと、本当に愛してるからね?」


ああ、俺もエウリィのことを愛してるさ。


「……はぁ……。もうちょっと出会いが違ってたら、わたしもレーヴェちゃんみたいになれたのかなぁ……」


よく分からないがどうやら本気に思われていないようである。心外な。俺はちゃんと愛しているというのに。

仕方ない……賢しいメスガキは分からせてやる他ないだろう。ギュッと抱きしめてやれば圧倒的なラブが伝わるに違いないさ。


そう思い、エウリィを引き寄せて強く抱擁した。


「あっ♡ お兄ちゃんここで始めるのっ? んっ、いいよ♡ わたし、今日は丁度いい日だからっ♡ 赤ちゃんいっぱい作ろうねっ♡」


コラッ! すぐにR-18展開へと持っていこうとするんじゃありません!


「お兄ちゃんから抱きしめてきたのに!」


これは親愛のハグだ!

性欲を高めるんじゃありません!


「わたしは性愛のハグがほしいのっ!」


開き直るんじゃないの! 女の子がはしたない!


「あーっ! なにイチャついてるんですか! なーちゃんがめをはなしたすきになんてことを!」

「チッ、もう戻ってきた……」


コラッ、舌打ちしないの!

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