4.一肌脱ぐ男

言っとくけどマジでお前のお願いを聞くわけじゃないからな。

あくまで一人ぼっちが寂しいというお前に共感しただけだ。

人の世界で暮らせば寂しさも紛れるだろうし、お前と結婚したいって奴も現れるだろうさ。


「ふふっ、おまえはてれやさんですね。わかってますよ」


人の話聞こう?

まぁ百歩譲って俺はいいけどさ、他の人間に迷惑掛けたらダメだぞ?

そんなことしたら今度こそ凍り漬けにして叩き割ってやるからな?


「ひえっ……! あ、あのけんでこうげきするのはやめてほしいのです……! いたすぎてなみだがでちゃうのです……!」


良い子にしてたら何もしねーよ。

……お前の身体、もう血は出てないみたいだけど、未だに切り傷だらけだな。

ドラゴンの力ならすぐに治せるんじゃないのか?


「ふつうのこうげきだったらそもそもあたってもきずになりませんし、もしこうげきがとおってもすぐになおります。だけどおまえのこうげきはなにかおかしくて、すぐにはなおりません。いったいあのけんはなんなのですか?」


悪いがプライベートだ。話すことはできない。


「むーっ。つまにかくしごとをするのはいけないことなんですよ?」


だからお前は妻じゃねえって。

ってか泣き止んだんなら背中から降りてくれる?

おじさんもう更年期だから腰に負担掛かっちゃうの。


「むっ! それはいけません。おっとのけんこういじはつまのしごとなのです!」


そう言うとバッと背中から飛び降りて、腰をぐいっと掴まれた。

やだ、マウンティングされちゃう……。


「……? へんですね、おまえどこもわるくなんてないじゃないですか」


……何?

そういうの触っただけで分かる感じ?


「なーちゃんはすごいですからね。よーくみただけでだいたいのステータスがわかります」


ほぉ~凄いな。鑑定系のスキルか?

ステータスならなんでもわかるの?


「いえ、だいたいです。おまえだと…………? おまえ、なんかへんなじょうたいいじょうにかかってませんか?」


すげえ。そんなのも分かるんだ。

さすがチート種族だな。


「えいっえいっ」


なぜかパシンパシンと俺のケツが叩かれた。

何? マウンティングされてる?


「じょうたいいじょうをなおそうとしたのです。ですが……だめみたいです」


あ、そうなの。

まあそんな簡単に治ったら今まで苦労してないんだよね。


「なーちゃんはたいていのじょうたいいじょうならすぐになおせるのです。でも、これは……なにかきょうりょくなのろいがかけられているような……そんなかんかくがするのです」


……当たりだよ。

呪われてるんだ俺。


「こんなのしりません……どこでこれをかけられたのですか?」


それ以上は禁則事項です。


っていうかもう日が暮れかけてるんだけど。

竜車もないし体力もないし、冷静に考えたら街へ帰れないんだぜ。

何の準備もない野宿とか嫌すぎる。


「む。ならなーちゃんにまかせてください。おっとのいえへひとっとびですよ!」


言うが早いか、ドラゴンガールの背中から翼が生えてバサッとはためいた。

部分的に変化できるのか。ケモ度でいうならレベル1相当だな。


「いきますよ!」


ぐいっと腰と肩を掴まれて空へと舞い上がってしまった。

やだ……お姫様抱っこされてる……トゥンク。


上着一枚羽織った全裸少女とおじさんの空中ランデヴーが始まった。

相変らず俺の意思はガン無視であった。




***




飛竜ワイバーンより、ずっと早い!!


いや、早いのは早かったけどね?

コイツ話も聞かずに飛び出したもんだから、街に到着したのはとっぷりと日が沈んだ後でした。

途中から飛ぶのが楽しくなっちゃったんだろうな。空中戦闘機動みたいなのやり始めたし。

おかげで酔って吐きそうになったわ。




──商業都市リシア。

ここらじゃ結構大きな街だ。まぁすぐ近くに王都があるんですけどね。


「ここがおまえのハウスですか」


街だよ。これ全部が俺の家なわけねえだろ。


「まち! にんげんのしゅうらくですね! なーちゃんはじめてみました!」


そうかいよかったねえ。ほらとっとといくぞ。

俺の唯一の楽しみであるメシ作りが待ってんだよ。


「このなかにおまえのハウスがあるんですね!」


ああそうだよ。

あんまりうろちょろして人に迷惑を掛けるなよ。


「そんなこどもみたいなまねはしません!」


お前生まれたての赤ちゃんなんだろうが。


……いかん。改めて思うと重大な見落としがあった。

今のコイツは全裸だった。

一応上着だけ羽織らせてるけど、下半身丸出しの女の子を連れて街中を歩くわけにはいかない。


「どうしたんです?」


もうちょっと恥じらいが欲しいなって。

恥じらいは大切なスパイスなんだぞ?


「はじらい???」


クソッ、赤ちゃんめ……。

ていうかマジでどうしようかな。

間違いなく門番の衛兵に止められるよな。


……仕方ない、一肌脱ぐか。




***




「……!? おい! そこのっ! 止まれ止まれ!!」


ちょなんすか衛兵さん。俺早く帰りたいんだけど。


「なんて格好で徘徊してるんだお前は! なんでパンツ一丁なんだ!?」


なんでって……そりゃあ服奪われたんすよ。

よくあるでしょう冒険者なら。


「あったとしてもだ! そんな恰好で街中をウロつかれては困る!」


なんすか。そういう法律でもあるんすか。


「あるに決まってるだろうが! 公衆へ迷惑をかける行為は聖典法によって明確に禁止されている!」


ちっ。やっぱりどこの世界だろうが露出は厳禁ってか。


でもよぉ衛兵さん。命からがら逃げてきた奴にこの仕打ちはないんじゃないか?

服を奪われた俺はどうすればよかったんだべさ。

家に帰らなきゃ服を着れないだろ。


「むっ……それは……!」


おっ言い淀んだぞ。

良心がある奴なら話が通じるな。


「ねぇ、おまえ。もしかして、なーちゃんにおまえのふくをきせたから、おこられてしまっているのですか?」


おいちょっと黙ってろ。

今良いところだから。


「……今、その後ろの少女から、とんでもない発言が飛び出したような気がするのだが……」


気のせいです。それより見逃してくれません?

成人男性だって公衆の面前でパンイチは恥ずかしいんですよ。


「やっぱりなーちゃんにきせたふくをかえしたほうがいいんじゃないですか? なーちゃんならだいじょうぶですよ?」


何も大丈夫じゃねんだよ!

コラッ脱ぎ脱ぎするんじゃありませんっ!

いいから俺に任せて黙ってなさい!


「……二人とも、詰所まで同行願おうか」


クソッッッ!!!

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