第3話 運命の出会い(残虐表現あり)

 二人はしばらく歩いていると、アルベルトの家に到着した。


「ここが私の家だ。さぁ、お入り」

「すげぇ……豪邸じゃねぇか」


 二人はそのまま家の中へ入っていく。その家は、あまり治安の良くないこの町には似合わない、外装、内装共に美しい豪邸だった。

 今まで泥臭い環境で生き抜いてきたライナスだが、彼は元はと言えば貴族の息子だ。

 彼にとってこの豪邸は実家のような安心感を感じさせるものだった。


「おっと、これを君に返しておこう。君の大切なものを盗んでしまって申し訳ない。?」

「なぜ俺の名を知っている!?」


 アルベルトはポケットから何かを取り出し、それをライナスに見せる。

 それはライナスが肌身離さず持ち歩いていた、彼の家族の写真と名前が埋め込まれたロケットペンダントだった。

 いつのまにかアルベルトの手によってすられていたのだ。アルベルトはペンダントをライナスに返し、話を始める。

 

「私はこう見えて盗みと暗殺が得意でね、ついやってしまったよ。君とスリの少年が私を尾行していることも知っていた。だが、このペンダントを見た時、君があのマッカーサー夫妻の息子だと確信したのだ。私の友人だったあの夫妻のね」

「なんだと……!? 俺の両親がアルベルトさんの友達だったってことか?」


 アルベルトの正体が凄腕の暗殺者であり、同時に自身の両親の友人であることを知り、動揺するライナス。

 

「まだが小さい頃のことだ。お互い貴族として交友があったのだが、ある日突然マッカーサー家は没落したと聞いたよ」

「俺の一家は戦争に巻き込まれて、両親は死んじまった。だが兄貴のマティアス・マッカーサーだけは今もどこかにいると確信している。兄貴に似た男が荒野の無法地帯付近にいるという目撃情報があったからな」


 貴族育ちのライナスがあえて無法地帯に身を置いていたのは、行方不明になった兄を探すためだ。

 兄に似た男の目撃情報は人違いの可能性があるが、少しでも可能性があるのなら危険な場所に近づいてでも兄を探し求めるライナスだった。

 

「そうか、よく頑張って生きてきたね。辛い旅だったろう? 兄のマティアス君を探しているということは、君は弟の方だったか」

「あぁ、俺はライナス・マッカーサーだ。ガキの頃は俺もこんなお屋敷に住んでいたんだぜ。今は無法者どもを狩って、奴らから資源を奪って生き延びている。言っておくが、カタギの人間には危害を加えたことは無い」


 ライナスが一通り自己紹介を済ませた後、居間の奥から召使いがやってきた。夕食の準備の知らせだ。


「ライナス君、一緒に食事をしようか」

「良いのか!? それじゃあお言葉に甘えて……」


 お腹を空かせたライナスは活き活きとした表情でアルベルトと共に食堂へ向かう。

 テーブルに並べられているのは、ライナスにとって今までの生活では考えられないほど豪華で上品であると同時に、懐かしさを感じさせる料理だった。

 彼は席に着くと早速料理に食いつこうとするが、その直前でかつての裕福だった幼少期の食生活を思い出す。行儀よく食事をしていたあの頃を。


(ここで食事をするからには行儀良くしないといけないな)

 

 彼は丁寧な手つきで料理を口に運び、ゆっくり味わいながら食べていく。アルベルトはその様子を見ながら言葉を発する。


「やはり私の目は間違っていなかった。君のような育ちの良い子があんな荒野にいるべきではない」


 アルベルトが優しく声をかけたその時、ライナスの目から涙が溢れ出てきた。

 家族を失って以降、誰にも手を差し伸べられることも無く孤独に生きてきた彼は、ようやく手を差し伸べてくれる人間と出会うことができたのだ。

 ライナスは涙を袖で拭いながら言う。

 

「俺だって……あんな不幸さえなければ平和に暮らしたかったよ!」

「そうか。では今日から私の家で暮らさないか?」

「……え? できるならそうしたいけどよ……そんなうまい話あるわけないだろ?」


 大人ですら今日を生きるのに精一杯な時代だ。見返りも無く孤児を引き取るなんて考えられない、何か裏があるのではないかと内心疑うライナス。


「私が君に衣食住を提供する代わりに、君には私の仕事を手伝ってもらおう。この町の治安を守るため、君は町の外にいる無法者を狩って欲しい」

「今まで通り無法者どもを狩れば良いのか? なら楽勝だぜ」

「よし、取引成立だね。欲しいもの、戦いに必要なものはいくらでも用意してあげるよ」

「それはありがてぇ!」


 この日からライナスはアルベルトの家で暮らすことになった。

 与えられた部屋、衣服、ベッド、バスルームはとても豪華なものだ。

 無法者としてみすぼらしく生きていたライナスは、数年ぶりに貴族の生活に戻ることができたのだ。


 そして翌日、ライナスは自身の強さをアルベルトに見てもらうため、二人で町の外へ向かった。

 町を離れてから数分後、ライナスは無法者の群れを見つけるとその群れに近づき、中指を立てて挑発する。


「このガキ、ふざけた真似しやがって! 大人をナメたらどうなるか思い知らせてやる!」


 無法者たちがライナスを囲い、持っていたトマホークで斬りかかろうとする。


「へっ、こっちはもっと強い武器を持ってんだ。てめぇらなんか敵じゃないぜ」


 ライナスは両手に二丁の銃を持ち、無法者たちへ向けて発砲していく。

 銃弾は着弾と同時に爆発を起こし、被弾した無法者は爆発の衝撃で胴体の一部が砕け散って即死、被弾していない無法者たちも爆発の衝撃で吹っ飛ばされていった。

 かつてはこの特殊な銃弾を作るコストが高く連発することは出来なかったが、今はアルベルトが材料費を負担してくれるおかげで惜しまず使うことができる。

 爆発の衝撃で吹っ飛び体勢を崩した無法者に対しても、ライナスは追い打ちをかけて発砲し、爆殺していく。

 その様子を離れた場所から見ていたアルベルトは微笑んでいた。


「フフ……思ったよりはできる子だ」


 ライナスは難なくその場にいる無法者たちを全滅させることができたと思ったその時、彼の背後からバイクに乗った無法者数人が猛スピードで突進してきた。


「死ねやクソガキィィィ!」

(やべぇ、さすがにこの速さと数じゃ反撃できねぇ!)


 このままじゃ敵一人は倒せても残りの敵の攻撃を防ぐことはできない。

 ライナスがもう駄目かと諦めかけたその時、無法者たちに何が起きたのか、バイクごと一瞬でバラバラに切り刻まれていった。

 ライナスは目の前の状況が把握できず、怯えて腰を抜かしている。


「ライナス君、よく頑張ったね。でも深追いをし過ぎては駄目だよ」

「これってアルベルトさんがやったのか……?」

「言っただろう? 私は暗殺が得意だと」


 アルベルトの手には長くて細い鋼線が握られていた。鋼線からは血が垂れており、それを使って無法者たちを切断したのが分かる。

 アルベルトの強さを目の当たりにしたライナスは、この男だけは敵に回してはいけないと悟った。


「君の強さはこの目で確認させてもらったよ。良い戦いっぷりだったが、今の君では一人で無法地帯を歩くのは危険だ」

「まぁな。今までも危ねぇ目にたくさんあってきたし、ここまで生き延びることができたのは奇跡だぜ」

「君が無法地帯で難なく戦えるようになるまでは、私がしっかり稽古をつけてやろう」

「お、お手柔らかに頼むぜ……」


 無法地帯で孤独に生きてきた少年は、町の安全を守る心優しい紳士に拾われたことによって真っ当な道を歩もうとしていた。

 貴族としての暮らしを再び手に入れたライナスは、アルベルトの元で技術を身に着けつつ、兄の行方を追うのであった。

 

 

 ――完――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ワイルド・ソルジャー ~外伝短編集~ アサシン工房 @mikaelassassin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ