第6話 力でどうぞ
取調室にいたら謎の助け舟。
あいつとやらが町に現れたらしい。
これ幸いと僕は主人公を操作して外に出る。警官たちは皆が大慌てで僕の脱走に気がついている人はいないようだった。
「どうすんの?」死後の世界のほうで天使様が、「あいつとやらと戦いに行くの?」
「そうしたいけど……とりあえず逃げる」
「そうなんだ。もったいない」
「まだ操作方法もわかってないからね」
僕がそう言うと天使様はつまらなさそうに、
「ゲームの世界なら最強なんじゃなかったの?」
「そうだよ。でも……まだ最強じゃない」ちょっと勘違いされているようなので説明しておく。「ゲームが上手い人って最初から上手いわけじゃないんだよ。誰だって最初は初心者なんだ」
「そりゃそうだろうけど……」
「うん。もちろん応用できる場合はあるよ。前に似た操作性のゲームをやっていたとか、前作をプレイしたことがあるとか」
その場合は最初からある程度うまい場合もある。
しかし、それはあくまでも偶然。たまたまである。
最終的に物を言うのは……
「結局は練習量だよ」センスも重要ではあるが……「コマンドとか……僕たちは何回も何回も繰り返すんだよ。それこそ何千何万と……数えきれない量の練習をこなしてるんだ。だから百発百中で成功させられるんだ」
最終的には練習量が重要だ。体に染み込ませるレベルで練習するのだ。無意識にコマンドが入力できるくらいには練習しないといけない。そうじゃないと勝負にすらならない。
「この世界の僕は、まだ積み上げてない」僕は主人公を適当に操作しながら、「だから警官が大騒ぎするような相手とは、まだ戦えないよ。チュートリアルにしては強すぎると思う」
本当にゲームなら挑むけれど。とりあえず挑んでリトライするけれど。この世界にはリスタートもリトライもないのだ。無理はできない。
「とりあえず適当に逃げるよ。警官に見つかって連れ戻されても厄介だし……路地裏とか人の少なそうなところを」
そうして人のいない狭い道に入ったのが運の尽きである。
「……?」主人公の歩く道に、人が倒れていた。「……警官……?」
その時点で引き返せばよかった。僕は何を思ったかその薄暗い場所に近づいて行ってしまった。
路地裏の少し開けた場所。その場所に、10人ほどの警官が倒れていた。
そして立っている警官が残り3人と……
『もう終わり?』ど派手な巫女服を着た女性が1人。『もうちょっと頑張りなよ。ボクを捕まえたいなら……あと10倍の人数は連れてこないと無理やで』
その女性は露出の多い巫女服を着ていた。目だけマスクで隠されているが、美人なのが伝わってくる。
長い手足と細い腰つき。そして短い黒髪。
1番目につくのは……その自信満々な表情だ。おそらく彼女が警官重数人を倒したのだろうけれど、呼吸はまったく乱していない。
挑発的で余裕綽々。そんな女性。
気になるのは彼女が大きな袋を担いでいることだ。サンタクロース……ではないだろう。
『怪盗マイル』警官が刃物を突きつけて、『大人しくしろ』
『今さら大人しくすると思う? ボクはキミのお仲間を10人倒してるんやけど?』ボクっ娘かつ関西弁……良いな……『大人しくさせたいんやったら、力でどうぞ』
挑発を受けて警官が3人同時に彼女――マイルに飛びかかる。
マイルは警官のタックルを飛び上がって避けて、そのまま蹴りを叩き込む。そして警官の刀を奪い取り、柄部分で殴り相手を気絶させる。
残った1人を足払いで転ばせ、腹部に容赦のない追い打ち。
わずか数秒でケリはついた。警官たちは全員地面に転がり苦しそうにうめいていた。
『さてと……』マイルは主人公に気づいて、『キミはボクの邪魔をする人? 邪魔するなら容赦せぇへんけど』
……この人が……この怪盗マイルが警官の言っていたあいつか。
どうやら彼女は盗みのあとらしい。おそらくあの抱えた袋には盗品が入っているのだろう。
ここで選択肢。
◆
選択肢A 「俺の道を邪魔したのはお前だろう」
選択肢B 「泥棒は見逃せんな」
選択肢C 「お前の未来の恋人だ」
選択肢D 「お前と戦ってみたい」
◆
……ゲームだったらCなんだけどなぁ……ちょっとその度胸はない。
ここは……
『お前と戦ってみたい』
警官たちを見る限り、死んでいる人はいない。かなり手加減をしてくれるタイプのようだった。
死なないなら回復できる。ならば……チュートリアルとしては悪くない。さっきは戦わないで逃げると言ったが、前言撤回である。
『それは、ボクの邪魔をするってこと?』
『そうかもしれないな』
『あはは』子供みたいに屈託なく笑う彼女だった。『なかなかおもしろい人やね……いいよ。次の警官たちが来るまで、遊んであげる』
というわけで……VSマイル、開戦である。
チュートリアルにしては、強そうだ。
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