三十七夜目 縁
『縁』というものはいろいろある。
人の縁。
学校や職場の縁。
本の縁。
そのとき必要なものと出会い、必要でなくなれば縁は切れていく。
だが、一度切れたと思った縁も、必要ならばまた繋がっていくも。
そんな『ご縁』というものを強く感じる経験がある。
ペットたちとの出会いと別れだ。
そしてこれから話すことは、私が出会った二匹、トモエとリンについてである。
二〇一九年七月十八日の午前八時前。
私の元に一枚の写真が前夫から送られてきた。
段ボールに入った子猫の写真である。
なんとも愛らしいキジトラの子が一匹映っている。
『猫ほしい?』
という一文に、私は目が飛び出るくらい驚いた。
事情を詳しく聞くと、子猫は野良猫で保護されたものらしい。母親はいたとは思うけれど、近くにはいなかったし、市民プールのボイラー室にそのまま置いておくわけにもいかない。とりあえず飼ってくれる人がいないかと事務所で保護したけれど、いないようなら明日には保健所へ連れていく。すでに連絡は入れてある――ということだった。
こんなことがあるだろうか。
数日前に『猫がほしい』とSNSで言っていた私。
まるで計ったように飛び込んできた保護猫の話。
ただ、ここでストップをかけなければ子猫の命はないことだけは明白。
一匹くらいならなんとかなるだろう。
そう決めて、私は前夫に「保健所に連れていくくらいなら、うちに連れてきて」と返信した。
そうしてホッとしたのも束の間。前夫から再び連絡が入る。
『一匹じゃなくて二匹だった』
何言ってんの?
である。もう一度、写真を見てくれというので確認してみた。
キジトラちゃんの下に丸まった黒い塊みたいなものが映っていた。タオルが置いてあるのだと勘違いしていたのだが、あとで送られてきた写真を見て、それがもう一匹の黒猫ちゃんであることを知ったときには愕然となった。
一匹ならなんとかなる。
けれど二匹となると、掛かる経費もなにもかも二倍になってくる。
命を預かる重みはようよう理解している。
理解しているからこそ、自分の状況と鑑みて可能であるというジャッジはできない。
『飼ってくれる人を探すから、とにかく保護して』
どちらか一匹の命は選べない。ならば、どうちらも救う道を考えるしかない。
会社の人たちに声を掛け、飼ってくれそうな人を探す。即答する人は誰もいない。家族に聞いてみるから待ってという人の答えを待つことにした。
でも、本当に飼える人は現れるだろうか。
二匹一遍に引き取ってくれる人がいるなら、その人に二匹とも頼もうと思った。
自分はすでに二匹抱えている。
子供たちだって育ち盛りで、この先まだまだお金はかかる。
でも――
お金の問題は働けばクリアできる。
うちの先住犬、猫が許せばいいじゃないか。
ちーたのときだって、ひながダメならあきらめようと思った。
だったら今回も、ひなとちーたに聞けばいい。
彼女らがダメなら諦めがつく。
そのときもう一度、保護してくれる人を探そう。
私は腹を括った。
結果から言えば、相性は抜群だった。
ちーたは素晴らしい父性を発揮し、かいがいしくこ猫たちのお世話をした。
子猫たちはひなにも懐いた。
その姿に、私は強い運命を感じた。
ずっと危惧していたことがあった。
ちーたのことだ。
ひながこの世を去ったとき、彼が後追いするのではないかと、私はずっとずっと心の中で心配していた。
それくらい、ちーたはひなに懐いていた。
だから、彼が後追いしなくてもいい状況になってくれないかと、心の底から願い続けてもいた。
それが叶ったのだと思った。
ひなを見届けてくれる子が増え、ちーたの寂しさを紛らわす存在が増えた。
さらに猫が増えたことで、猫を取り合うという子供たちのケンカもなくなった。それぞれに推しの子ができたからだ。
二匹の登場によって、私たちの家族の歯車はきれいに回り出した。
この出会いから三年後のひなが他界するときには、三匹に見守られるように彼女は息を引き取った。
縁はあるのだ。
それがどういう形でもたらされるものであれ、縁はある。
こうして、なるべくして我が家の一員になった二匹の子猫は現在、大きく育ち、とても元気に暮らしている。
ブラッシングが大好きで、甘えてせがんでくるトモエ。
食べることが大好きで、暇さえあればヘソ天で寝ているリン。
彼らが元気で長生きできますように。
そうできるように、自分はこれからも愛情持って彼らと暮らしていきたい。
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