烏の鳴くところ

つばきとよたろう

第1話 烏の鳴くところ

 小倉駅から出発する、モノレールの巨大な高架橋から離れるように路地へと入る。道は急に細くなり、建物のごちゃごちゃした所をたどっていく。幅の狭い道を時々、どこからか現れた車が急ぐように走る。そのどれもが路地に寄り添うお店に配達に行く業者の車だ。この辺りには隠れ家的なお店が多い。

 今は朝の早い時間帯だから、ひっそりとして、人影もほとんど見られない。道を急ぐ訳ではないから、しばらく覚えたばかりの道を、道沿いの景色を見ながらとぼとぼと歩いた。どこからか響く唸るような音は、遠くで走る車の音だろうか。いつも聞こえてくる。いつの間にか耳を澄ませている。

 すると、急に恨みつらみを叫ぶような声が聞こえてきて驚かされた。見上げれば、たくさんの烏が中空を舞っている。怒っているみたいに羽をバサバサさせ、五月蠅く鳴いている。普段なら一二匹が、朝に出されたビニール袋一杯の生ゴミを漁る程度なのだが。烏はますます数を増やしていく。

 空が黒くなるほどだった。真っ黒な羽を広げて、敵味方も分からずに威嚇し合っている。どさどさどさ、何かに叩き落とされるように黒い固まりが落下してきた。死んだように地面にうずくまっていたが、目を覚まして飛び立った。目に見える物は全て敵と言わんばかりに飛び掛かってきた。耳の近くで風を切る音がする。堪らず早足でその場を逃げ出すと、烏は旋回して中空を羽ばたいた。何があるのだろう。

 少し離れると、十階ほどのビルの屋上に黒い塊が飛び交っている。そこだけ闇が訪れたようだった。よく見ると、ビルの屋上には小さな鳥居と社がある。そこへ向かって、飛んでいるのだ。しかし、社に近づこうとすると、烏は何か見えない壁にぶつかって墜落しそうになる。墜落しながらも、また羽ばたいて社に向かっていく。あれに攻撃しようとしているのか。何が烏を追い詰めているのか分からないが、そこには不吉な物しか存在しなかった。顔を背けて、その場から急いで離れた。

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