第12話


「プリント、持ってきました」

「そう。ありがとう」


 母はいつもと変わらず、愛想なく対応する。

 

「お見舞いに上がっていいですか?!」


 そんな母が、葉佑の突然の申し出に、眉根を寄せた。


「あの子、風邪なの」

「はい! だから、お見舞いしたくて!」


 母はあからさまにため息をついた。


「悪いけど、今日は帰って。あの子、寝込んでるから」


 口からでまかせを吐く母に気づくわけもなく、葉佑は帰ろうとした。


「あの、これ、和希ですか?」


 下駄箱の上、これ見よがしに置かれた写真に、和希は首を傾げた。


「ああ」


 見つけてもらえたことを母は喜んだ。


「唯希って言うのよ。もう、いないけど」


 そして、悲しむ。


「え? どうして……」

「あの子のせいで死んだのよ。それは、誰の目にも明らかだった」


 今度は怒りを露わにして、腕を誰かの代用品にして、強く握る。

 そんな母を前に、葉佑の血の気が引いていくのが分かった。


「あの、和希くんに、会わせてください」


 葉佑のさらなる申し出に、母は冷たく笑う。


「いないわ」

「どこに、居るんですか…?」

「さあ? 知らないわ。私に聞かれてもね」


 突き放すような言い方に、最初は誰だって絶句するものだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る