第4話 朝食と少年

 おはようございます。


 枕元の眼鏡を取ってスマホを見れば8月1日。時刻は9時半。

 日はすでに上っていて、窓にかかったカーテンの隙間から外界の光が入ってきている。


 昨晩ベッドに入ったのが24時過ぎ。

 コーヒーを飲んでいたせいでほど眠りにつけなかったが、それでも1時頃には眠れただろう。

 丸眼鏡さんこと俺、快眠であった。


 普段なら遅刻確定の時間だが、今は夏休み。

 学生の喜びをかみしめながらベッドから出て体を伸ばす。

 頭、腕、足。前進が伸びて気持ちが良い。

 今日はいい日になりそうだ。

 

 机の上に載っていた白と水色のカップを重ねて持つ。

 部屋の扉を開けて廊下を通り、洗面台に行く。


 そこら辺にカップを置き、丸眼鏡を一度外す。蛇口をひねって冷たい水を出し、その水を手でばしゃばしゃと顔にかける。

 顔どころか脳幹までさっぱりする。

顔を洗ったので、今度はダイニングに向かう。


 テーブルではちょうど妹が新聞を広げながら優雅な朝を過ごしていた。


「おはよう」


 妹の方を見て言う。


「おはよ」


 ボサボサの頭をした妹は、挨拶を返した。

俺には目もくれず、コーヒー片手に新聞を読んでいるその姿はまるで気の固い爺さんか親父だ。

 というか俺ですら新聞なんて読まないのに、変わった妹だ。


 台所に入り、重なった2つのカップをシンクに入れて朝食を準備する。

 妹が兄の分の朝食を作って待っててくれて、「おはよう、お兄ちゃん」なんてことをしてくれるのは空想の世界だけだ。現実においては、我が妹みたいに不愛想でも、思春期に入ってなおコミュニケーションを取ってくれるだけで大変に素晴らしい妹だと言える、と思う。


 食パンを袋から取り出して、トースターに入れる。タイマーのダイヤルをテキトーに回した。


 焼いている間に冷蔵庫から苺ジャムを取り出す。

 冷蔵庫にはバター、苺ジャム、とろけるチーズがあったが、俺は苺ジャムがお気にいりだ。ちなみに我が妹のお気に入りはバターらしい。

 

 ジャムはそこら辺に置いておき、飲み物を用意する。

 戸棚からガラスのコップを出した。ついでで食パン用の皿とジャム用のスプーンも出した。

 飲みものを取り出すために冷蔵庫を開いたところで、妹から声がかかった。


「兄さん、麦茶持ってきて」

「俺も飲むからちょい待って」


 麦茶の容器を取り出す。麦茶はいい。香ばしい味で夏にはぴったりだ。

 

 コップに麦茶を注ぐ。透明なガラスのコップがどんどん茶色になっていく。

 8割くらいまで注いだところでやめ、妹のほうに麦茶の容器をもっていった。

 

「はいよ」


 ダイニングのテーブルに麦茶を置く。


「うい、ありがとー」


 妹はまだ新聞を読んでいたが、今度は軽くだが視線をこちらに向けてくれた。

 

 食パンが焼けるまでの間、俺は昨晩のカップを洗うことにした。

 白と水色。2つのカップ。

 昨日のは夢じゃなかったんだなぁ、と改めて思った。


 昨晩、俺は不思議な少女と出会った。

 その少女は自らを「俺の幻想」であると語った。

 そして俺はその少女を幻想少女と呼ぶことにした。


 一緒にコーヒーを飲んでいるときに、彼女が俺のパソコンを見ていたことに気が付いたことをきっかけとして、俺はプロット制作に対するアドバイスを幻想少女から賜ることになった。


 とりあえずネタ帳は作った。だが、そのネタ帳には何を書けばいいんだ、と今更になって思う。


 彼女は日常でもいい、とは言っていたが日常を生きていてネタになりそうなことがあるとは思えない。

 「日常の色をネタ帳に書き記せ」って分からんよ。

 例として挙げたのも純粋な光学的な色だったから、水は透明だ、とか書けばいいのか。もっとどうすればいいのかを詳しく聞いておくんだった。

 

 もう、何をすればいいのか分からんよ。

 

 結局、プロット制作の悩みは振り出しに戻った。


 まぁ、ただの夢という可能性もあるしな。

 また頑張るか。


 洗剤のついたスポンジでコップの内側をこすると、コーヒーのシミが落ちる。

 十分に洗ったところで、ついている泡を流水で流した。


 軽く布で拭き、シンクの横の乾燥させる台に置いたところで、トースターのベルがなった。

 こんがりと焼けた食パンを皿に移し、スプーンで苺ジャムを塗る。赤いジャムが、薄い茶色がかかった白い食パンの上に広がっていく。美味しそうだ。


 スプーンやジャムを片付けた後、俺は苺ジャム食パンと麦茶のコップをテーブルに持っていく。

 

 妹はまだ新聞を広げていた。

 熱心に記事を読んでいる。


 チラッと見える1面には、ここ最近、夏には毎年のように見る『節電』の文字。


 邪魔しては悪いのでテーブルは妹と隣合わず、また向かい合わずの斜め前の席に朝食を置いて座った。

 

 一息ついて、まず麦茶を一口含む。刺激がなく、香ばしく優しい味が美味しい。

 口内をしめらせたところで、メインの苺ジャム食パンに手を付ける。

 1口、2口、3口かじる。ガリッと焼かれた耳。赤いジャムの乗った表面はしっとりと、裏面は少しカリッと。

 そして伝わる苺ジャムの甘さ。苺のフルーティな匂いとナチュラルな甘さが心地よい。

  

 4分の1、半分、そして全て。


 1枚の苺食パンを完食した俺は、コップに残っている麦茶を一気に飲みほした。

 苺ジャム食パンの甘さは完全に喉の奥に流されていった。


 おいしゅうございました。


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