16話 ロールプレイング④
私は、美術室に入った。
まず目に入ったのは、倒れたイーゼルとそこから滑り落ちたキャンバスだった。床に波のように広がっている。
ここで台本通りなら、桜井先生は木暮先輩の絵に気づき、こう言う。
『なっ、木暮の絵が!?』
しかし、私は別の言葉を口にした。
「なっ、どうなってるんだ!?」
そして、辺りをキョロキョロと見回し、切り裂かれた絵に気づくと、「なっ、木暮を絵が……」と、恐る恐る絵に近づいた。
ーーパァン!
水瀬先輩の一拍手が鳴り響いた。
「そこまで。葉月君、セリフの前に台本にないアドリブを入れたね?」
「はい」
水瀬先輩の『ダメ出し』に私は答える。
「この『なっ、木暮の絵が!?』のセリフを言うためには切り裂かれた木暮先輩の絵を見なければなりませんけど、こんな風に美術室の入り口までイーゼルや絵が倒れてたら、まずそちらに反応してしまうかな、と感じました」
「オレはっ!」
「あくまで個人の感性の話ですから」
桜井先生が口を開こうとしたのを水瀬先輩が制する。
「葉月君、もう一ついいかな? 台本では『なっ、木暮の絵が!?』ともっとエモーショナルに絵の損壊に驚くハズだが、君の芝居は違ったね?」
「切り裂かれた絵を見たら、信じられない気持ちになってしまって。驚いて声が出ないというか。セリフにあったので無理やり言葉にしましたが、出来れば無言か息を呑む芝居にしたがったです」
水瀬先輩は顎に手をやり、頷いた。
「よく分かった。それでは続けてくれたまえ、葉月君」
再び水瀬先輩の一拍手が鳴り響いた。
私は切り裂かれた絵を見つけたところから芝居を再開するーー
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます