友情!努力!勝利!

桜莉れお

この後、上司にこっぴどく怒られた

「俺達に足りないものは何だと思う……」


 円卓に座る男女4人。そのうちの1人(リーダーと呼ばれている男)が、腕を組みながら他3人に対して問うた。

 飴を舐めながら携帯ゲームをする妙齢の女。鏡を見ながら前髪を何度も整えては戻す金髪の少年。新聞の中にあるスーパーの広告を見る無精髭を生やした女顔負けのキューティクルを保った長髪を持つ男。と、現段階でさえ特徴のあるメンバーである。


「友情」

「努力」

「勝利」

「ジ〇ンプかよ」


 思わずすぐにツッコミを入れてしまった、リーダーと呼ばれている男は頭を抱える。

 間髪入れずに質問の返答が返ってくるあたり、ギャグかよなんてツッコミが喉から飛び出そうになるがすぐさま呑み込んだ。


「てか、この世界的に少年漫画だから合ってるだろうが」

「言うな後輩君、誰もが目を逸らしてきた話題だぞそれは。あと俺先輩ね?」

「それより、俺17時からニコマルスーパー行きてぇんだけど」

「おじさんは黙ってて。主夫顔負けみたいな雰囲気出しておきながら、料理できないでしょ貴方!」

「つか、私たちみんな転生者じゃん。しかも有名な作品でしょこれ」


 突然だが、彼らは転生者である。

 そして転生先は彼らが生きている頃に流行となっていた現代ファンタジーの日本を舞台にした少年漫画を原作にしたゲーム。


 内容としては、宇宙から飛来した生物を倒すべく、班行動だが主人公である男子高校生とヒロインである女子高校生と恋愛模様を描きながら世界を救うアクション漫画。……ではなく、モブだけでは留まらずほとんどの主要キャラが死んでいくというなんともまぁ情緒が死ぬクソ仕様なアクション少年漫画である。


 ちなみにリーダーと呼ばれている男の推しは、ヒロインの友達の子(原作で死亡確定)のため居住基地の廊下ですれ違った瞬間その場に崩れ落ちた過去がある。


「とはいえ、モブキャラな俺達はとはいえ世界を救う必要があるんだぞ」

「でもさー、まだゲームのメインストーリーの1年前じゃん」

「まぁそうだけどな」


 所詮はモブキャラだが、務めを果たす必要がある。その心を胸に、彼ら4人は(たまにぐうたらしながら)戦闘員として戦ってきた。

 そして、こうして談話している最中にも出動要請のアナウンスが入る。ぐちぐち言いながらも、戦闘員として出動するべく戦闘着に着替え始める。


 その中、リーダーと呼ばれている男は軍服のような戦闘着の前ボタンを閉めながら「そういやよ……」と口を開く。


「アニメとかゲームでさ、コードネーム的なやつでハウンド1とかあるじゃん」

「ありますね」

「まあそっすね」

「それがどうしたのよ」


 何が言いたいんだこの人(こいつ)、と他3人は口にしないが呆れていた。

 リーダーと呼ばれている男は、普段はそこまでではないが、戦闘時には頼りになる男である。しかし、日常生活が結構ちゃらんぽらんなところがあるため、全然尊敬できないと他3人は結論付けたのである。


 そんなことを考えているとは露知らず、後ろを振り返らずにリーダーと呼ばれている男は口にした。


「――あれ、やりたくね?」


 その場に沈黙が走る。


 確かに彼らは前世で1度はとっくに成人し、なんなら社会人として働いていた記憶を持つ人間であったり、とっくのとっくに魔の思春期を終えた大学生しかここにはいない。何処か正常な思考が残ってはいるとはいえだ。


 だが、それも相まってはっちゃけたかった。


 転生という不思議な体験とはいえゲームだもの、楽しくやりたい。


 ここにいる全員が脳内で考えていたことは1つになった。


「「「やろう」」」


 結局のところ、転生したとて少年心は変わらないのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

友情!努力!勝利! 桜莉れお @R_Ouri08

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ