最終日

「今月もお疲れ様でした裕子さん。

 おかげで我々も良い論文が出せそうです」


「……えぇ、それは良かったです」


 ここは大学。

 私は毎日のレポートとは別に、月に一度の健康診断を兼ね話をしていた。


 幼稚園のサポートもあり、脱水症状を起こす頻度も減った。

 体重も、開始前ほどではないが、病的な痩せ方からは戻りつつある。


 



 あれから三ヶ月。

 長い……本当に、長く、そして濃い、一刻も忘れたい日々となった。


 だが給与が出た。

 間違いなく、今年の年収は今日までの分のみであっても、人生最高額となるだろう。



 ……この調子で行けば、途方もない額であった借金も、すぐ完済できる。

















「ところで、園児のみなさんとお別れの挨拶をする様子が全く見られないとのことなのですが……

 そこのところは大丈夫なのですか?」




 はずであった。








「……え?」



「大丈夫ですか?

 今月は実験の最終月ですよ?」






 この給与を貰い続けながら、借金を完済する気であった私には、完全に寝耳に水であった。



「え……」


「えぇと、資料にも三ヶ月と記載しましたし……事前にお話したとも思いましたが……まさか……」




「あ、はい……継続する気でした」


「一応、娘さんは卒園までは在籍していただくことは出来ますよ?」



 懸念の一つは……娘のお受験とかの苦労をさせ無くて良いと喜んでいたのがぬか喜びとなったものの……

 ……一応、……大丈夫だ。一応は……


 普通の小学校に行って、それまでの受験させられる環境を整えられれば……



 だが……


 



「あの……もうしばらく、この実験台にさせていただくことは……」


「……お気持ちは大変ありがたいのですが……理由がいくつか有りまして……」





 そう、研究所としても続けられるなら続けたいのだ。

 実際、私はようやく手に入れた実験台である。



 それでも無理な理由はいくつかある。




1:私が慣れつつある。

2:夏の猛暑とオムツの相性

3:薬の影響の懸念




 1は……確かに羞恥に対し慣れが生じつつあるのは事実であった。

 流石に、三ヶ月という時間は長かった。


 それでも恥ずかしいものは恥ずかしいのだが、最近は自分から全て言えるようになった。

 長時間替えられない、外出等の環境を除き、もう溢れさせることはなくなっていた。







 問題は2以降だ。

 現在は7月。


 すでに日中は30度を越える。



 そのような中、ただでさえ分厚い……しかも漏らしたオムツを三枚も当てて活動。

 更に水分を著しく失わせる利尿剤を服用しながら続けるのは、自殺行為も同然であった。


 万が一救急搬送されるようなことがあれば、どうなるかは考えたくもない。


 だが、それでも……

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