利尿剤の服用免除

 私がオムツへ漏らすことに今更慌てているのは、理由があった。


 今日は四十九日。

 夫を、お墓に納骨する日なのだ。



 流石に幼稚園の外となると、大学もオムツ替えであれこれ指示するのは難しい。


 葬儀ということもあり、今日ばかりは薬もトイレも免除となったのだ。



 そう、トイレに行って良いのである。

 にも関わらず、当たり前のようにオムツに、しかも余裕があるにも関わらず出してしまったのだ。



 お漏らしが、完全に癖になりつつある。

 その事を頭から払うように、私はオムツをすぐ外し、股間を洗う。



 話を戻す。

 寺でオムツ替えなど、出来るわけもない。

 よって免除されたのだ。






 問題は、私の体に薬がどれだけ残留しているかだ。


 朝昼晩と三錠ずつ毎日服用し続け、最後に服用したのは昨日の朝。


 にも関わらず今オムツを当てているのは、尿意を催すペースが変わっていないからでしかない。


 娘の確認の時点でオムツが乾いているのは、直前に替えていたから。

 確認に気づいたのも実際は尿意の痛みで目覚めたからである。



 本当なら、昨夜だってトイレに行きたかった。

 だが、本当にいつも通りのペースで尿意を催した。


 お陰でいつも通りにオムツを当て、定期的に替えながらオモラシせざるを得なくなっていたのだ。





 用意した喪服を見る。

 和装の喪服である。


 本当に、本当に洋装の喪服でなくてよかったと思う。




 葬儀の時と今の一番の違いは、当然オムツである。

 あのときは実験前なので、普通にパンツを履いていた。


 これまでの尿意を考える。

 24時間程経過しているにも関わらず、私の尿意の高まるペースは……気持ち遅くなった気はするがその程度であった。


 よって、オムツ無しはあり得ない。



 ……問題は、何枚当てていくかだ。

 当然法事なので、それなりに長い時間拘束されるはずである。


 だがそこには事情を全く知らない人しか居らず、いざというときの助け等無い。



 初めて園児服を着たときの恥辱を思い出す。

 ……あのときはまず丈がおかしかった。

 オムツを全く隠せないスカートは毎日交代で洗濯し、今も2枚干している。


 今回は着物。丈は万全。

 


 一枚だけ当てて、着物を帯なしで纏ってみる。

 幼稚園での基本……本来の想定での枚数。


 ……元々、和服というのは体の凹凸が目立たないような作りということもある。

 だが、一枚では、今の私には全く信頼が持てない。

 幼稚園でも、度々溢れさせ怒られている。

 

 それでも基本が一枚なのは、オモラシを教えさせ、オマルなりトイレなりを使わせるためである。




 二枚当ててみた。

 なんとなく違和感は有る……が、その程度だ。


 だがこの厚さは、幼稚園の通園用の厚さである。

 幼稚園のバスの座席は汚さない。

 だが、到着次第すぐにでも替えねば、溢れる危険が伴う。





 三枚。

 ……現実的に、必要な最低ライン。買い物になんとか耐える厚さである。

 だが、15cmという厚さは、流石の和装喪服を持ってしても、無理がある……ように見える。


 

 ……大丈夫。大丈夫。

 そうでなくとも、これ以上減らす訳にはいかない。


 これしか無いんだ。

 帯を締めた。


 もちろん、先祖代々の高い喪服などではない。

 ワンタッチの帯だ。


 腰が締まり、オムツが強調された……用に見える。

 やはり無理があるか……そう考えたが、袖丈があった。


 手をおろしていれば……目立たない。


 覚悟を決め、ふと気づく。




 ……替えをどうしよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る