第7話 自分との対話

自分との対話

                  エミリー・ブロンテ作

                       額田河合訳

夕暮れはたちまち過ぎ去った

もう休まねばならぬ時刻だ

過ぎ去った一日は何をおまえに残したか?

今おまえの胸に宿るのはどんな思いか?


「過ぎ去った一日ですって? 残していったのは

 意味のあることはほとんど何もできなかったという思い

 山のような努力をむなしく費やしてほとんど何も手にしていないという――

 悲しい思い ただそれだけ!


「時が死の扉の前に立って

 こっぴどく私をなじるの

 おまけに 良心ときたら 疲れを知らぬ舌で

 黒い非難を私に浴びせかける


「良心なんてうそつきだと知っているし,

 時は運命をこそ責めるべきだと思う

 なのに 弱虫の後悔ってやつが私の目を曇らせる

 そして私を彼らの前にひれふさせてしまうのよ!」


では、おまえは喜んで眠りにつくのだな?

喜んでこの海を去り,

おまえのかいのない嘆きのすべてを

静かな永遠の中に投げ入れてしまうのだな?


おまえが去るのを見ても悲しむものは何一つない――

「さようなら」とすすり泣く声ひとつもない

ならば、おまえの心がこれほどに苦しんできた場所に

これ以上とどまりたいと願う理由があるのか?


「ああ! 何という悲しみ! 数え切れない鎖が強く

 私たちを私たちの肉体に縛りつけているわ

 魂はいつまでも未練を引きずって

 けっしてここを去ろうとはしない


 それに 戦士の額を名誉の月桂冠が飾る時なら

 休息も美しい けれど

 名を汚された時 本当の勇気ある心は

 休息よりむしろ戦うことを望むはず」


確かに おまえはもう何年も戦い続けてきた

おまえの生涯すべてを通して戦い続けてきた

いつわりをさげすみ 恐怖をねじふせてきた

この世になすべき何が残されているというのだ?


「そのとおりよ,この腕は激しく戦ってきた

 多くの者が恐れることをあえて成し逃げてきた

 たくさんのことをし 何もかも投げ出してきた

 それでも忍耐を学ぶことがまだ残っているわ!」


墓に目をやるがいい やがておまえが眠るはずの

おまえの最後の そして最強の敵だ

その眠りが嘆きでしかないとしても

泣かぬことだ それが忍耐というもの


敗北するためだけの長い長い戦い――

心静かに耐えるしかない敗北――

それでもおまえの夜の休息がやすらかであることも

輝かしい朝の訪れることもあるかもしれない

(A.20 0ctober 23. 1842-February 6.1843)

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