第9話

◇◇◇


 ーーーぴーぴーぴー、


 鳴り響く警報音に、僕は現実世界へと連れ戻される。

 VRMMOに入る専用機械に備わっている健康管理システムが働いた証拠だ。


「ああああぁぁぁぁぁ!!」


 絶叫と共に手を押さえようとして、けれど押さえられない状況にぐっと歯噛みする。脂汗がぼたぼたとベッドに流れ落ち、“無いはずの”右腕に痛みが走る。


 “幻肢痛”

 切断して存在しないはずの手や足に痛みを感じる状況を指し、交通事故などをきっかけに手や足を切断した後に、失ったはずの手や足の感覚があり、そこに痛みを感じる状態。


 僕は自らの肘から先がない右腕を見下ろして乾いた笑みを浮かべる。

 天才ヴァイオリニストといわれた男の末路がこれだと知れれば、世間はを大いに自分を叩くだろう。ゴシップ雑誌は好き勝手に僕のことを書き、それに感化された人々はインターネットで僕についてありもしないことを真実のように書き連ねて正当化する。よくある手口なはずなのに、痛くも痒くもない嘘ばかりなはずなのに、言われ続けるうちに真実味を帯びてしまう後を経たない誹謗中傷に、多くの日本人被害者は膝をつく。悪くないことに頭を下げる。

 これが外国ならばどうだろうか。

 日本人はすぐに逃げる。頭を下げて、よく分からない作り上げられた謝罪を繰り返して、そして何事もなかったかのように表舞台から姿を消す。けれど、外国は徹底的な抗戦体制を示す。やっていないことはやっていない。やってしまったことはやってしまったと、自分自身が行った行動に対してしっかりと責任を持つ。僕はこういう外国のやり方を好ましく思う。でも、日本人としての慎ましさやおもてなしの心ににも愛着を持っている。


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