第5話

 どこまでも可愛く綺麗で純粋な君みたいにはなれっこない。

 裸足の彼女は草の上をくるくる爪先立ちで回り始める。その度に足元の花びらが舞って彼女を包み込み、彼女の腕にある花束がきらきらと光る。VRMMOならではの世界観に、出来事に、その眩いほどの美しさに、僕はひゅっと息を呑んだ。

 どこからともなく美しいオーケストラの音色が聞こえてくるような錯覚を覚えながら、僕は彼女のクラゲみたいにふわふわ泳ぐワンピースの裾に視線を落とした。白く長い足を隠すように、けれど彼女が舞うたびに外へと追い出されてしまう裾は、必死に彼女にしがみついているみたいで、僕はなんだか親近感を抱いてしまった。


 彼女が舞い踊る理由なんて存在していない。

 彼女はいつも舞いたい時に舞って踊りたい時に踊る。ただそれだけだ。本能が踊れと舞えと叫ぶって彼女は前に話していた。


「楽しい?」

「うん!」


 ぴょんと足を大きく広げて高く飛んだ彼女は、重力を感じさせない動きで地面へと降り立つ。


「ねぇねぇ、あなたは踊らないの?」

「僕は踊れないんだ」

「そっかぁ」


 一瞬寂しそうな表情をした彼女は、けれど次の瞬間には嬉しそうに笑ってまたくるくると舞い踊る。真っ白な布地がふわりふわりと舞っては戻り、戻りは舞っている姿は、控えめに言って美しい。けれど、どこまでも儚い印象を抱く。


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