読めない文字と記号の偉大さ

 小屋の中は思ったより綺麗だった。

 見渡す限り大きな風穴もないし床もしっかりしている。キッチンはカビが生えて無く数日前掃除したかのようだった。


「案外綺麗だね。もっと汚いかと思ってたわ」

「そうだな」


 氷華が奥にある部屋のドアを開ける。

 そこには二台のベッドがあった。

 ベッドにかかっているシーツはシワが無く、ピシッと敷かれていた。


「やったベッドだ!」


 氷華がベッドにダイブする。その時ホコリが舞わなかったから誰かが最近まで住んでいたのだろうか。

 莉央もベッドに寝かせて小屋の中を探索する。


「ん?」


 部屋の片隅に小さい本棚があった。

 革張りの重厚な趣の本が何冊か並んでいて少し興味が湧いた。

 本棚に近づいて一番右端にあった本を手に取る。

 タイトルは何なのかと思い表紙を見てみるが。


「読めない……」


 意味不明な文字と思われるものが書かれていた。

 じゃあなんでルシア王国の奴らは喋れていたのか。

 もしや日本語やらを覚えたのか?

 地球人を騙すためにようやったなあいつら。普通に尊敬するわ。

 ペラペラをページを捲ってみると地図のようなものが目に入った。


「なあ皆これ見てくれ」

「何だこれ? 地図か?」

「読めない文字しか無いわね」

「でも記号っぽいのを見てくれ」


 俺はおそらく山脈だと思われる記号を指差す。

 それは山の形をした記号だった。


「これは山脈か?」

「そしたらこれは畑かしらね」


 氷華が麦の形をした記号を指差す。


「じゃあこれがルシア王国か」

「ってことはここ国境近くなのか?」

「西と東の国境近くにしか山脈は無いものね」


 国境には太い線が引かれているから分かりやすかった。

 あの王が言っていたことは正しいのだったらカルバン帝国かアメリア帝国かのどちらかに行き着くだろう。


「あーもう止め止め! 疲れた!」

「そうねもう寝ましょう」

「朝だけどな」


 俺たちはさっきのベッドがある部屋に行く。

 当然俺は莉央が使っているベッド、涼雅と氷華はもう一つの方を使った。

 俺たちはすぐに眠りについた。



「おい、寝たか?」

「ああ、行くぞ」


§


『おいっ大地! 起きろ!』


 涼雅の念話で目が覚めた。

 ガタゴトと揺れるから寝覚めが悪い。

 ん? ガタゴトと揺れる?


『なんか知らない人に捕まっちゃたみたいね』


 俺たちは馬車の中にいた。布で遮られているから外の景色は見えなかった。

 いつの間にか莉央も起きていた。

 相変わらず腕が方っぽ無いが大丈夫なのか。


『莉央起きてて大丈夫なのか?』

『うん。大丈夫』

『それなら良いんだが……そういえば俺たち念話使えなかったよな』

『あーそれ俺と氷華が色々やってたら出来たんだよな。多分すぐ出来るような魔法だったんだろ』

『なるほどな』


 俺たちが会話している時にも馬車は進む。


「――――!」

「――っ」


 馬車の外から二人の男の声が聞こえてきた。

 何語か分からないが笑っていることだけわかった。


『とりあえず逃げるかぁ』

『そうね』


 俺と莉央が首肯した時。


「――――! ――――っ!」


 若い男の声が聞こえた。相変わらず何を言っているか分からないがその男が来たら馬車が止まった。


『誰かしらね』

『敵じゃないと良いな。これ』

「――っ」

「――っ! ――――……。」


 外の喧騒がパタリと止む。

 馬車の布が取り除かれた。


『――――?』


 そこに居たのは金髪碧眼の少年と赤毛の少女。

 何を言っているかやはり見当もつかないが少年の顔色から心配してくれているのが伺えた。


「君たちもしかして日本人……?」

「え?」


 聞き慣れた日本語で少年が言った。

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世にも楽しい異世界召喚〜異世界来たので冒険したい〜 常夏真冬 @mahuyu63

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