即退場の元凶王子に転生した祖父ちゃんは婚約者の悪役令嬢フラグをへし折りたい

シヅカ

孫、元凶王子に憤る。


『クレア・エピフィラムーン!聖女アイリス・エンシェルを虐げた悪行を認めぬ貴様を未来の王妃に迎える気はない!ルミエル・ソレイユ・ダンディリオンの名において貴様との婚約を破棄する!』

「何度見ても腹立つな、このバカ王子。」


 僕はゲーム画面を見ながら茶番を繰り広げる王子に呆れ果てた。目の前で流れているムービーは第一王子のルミエルが婚約者の令嬢を断罪する場面だ。


 真実の愛を見つけたとかなんとか言って聖女に覚醒した平民の少女を侍らせた状態で集まった貴族達の前で婚約者に恥をかかせる彼に僕は憤りを覚えた。


 この作品、【太陽と月の幻想円舞曲】はRPGパートとノベルパートに分かれている。選択肢や仲間の数によって戦局を左右するファンタジーゲームだ。僕は今月配信される追加ストーリーのために最初からプレイしていた。


 DLCの『ブルーフェニックス戦記』は本編クリアが条件になっていて、現代日本から異世界転移した小学生と自立型古代兵器の交流を中心に本編での伏線を回収しつつ真の敵と戦う内容だ。

 自立型古代兵器は両親が子どもの頃に流行ったロボットアニメを彷彿とさせるデザインなので僕自身はとても気になっている。


「王子、本当にバカじゃないの!?」


 ゲーム機をぶん投げそうになりながら顔面蒼白でフラフラと後退するクレアが可哀想で仕方なかった。

 実はこのシーン、クレアの回想である。クレアは無実の罪を捏造されて悪役にされたのだ。


 彼女は未来の国王となるルミエルを支えようと血の滲む努力を重ねてきた。だが、それを「王妃になるのだから当然だ」とクレアの努力を認めたり労うことはなかった。

 この断罪がきっかけで彼女の心は壊れてしまい魔女へと変貌してしまう。魔女でありラスボスとなったクレアから世界を守るために主人公は仲間を集めて絆を深めながら立ち向かうのだ。


 因みに【太陽と月の幻想円舞曲】は選択式アドベンチャーゲームでもあり主人公の性別でシナリオが変わる。

 どちらかを主人公にすると選ばれなかった片方は魔女クレアの右腕として洗脳されて敵になってしまうのだ。

 主人公の属性が光ならばサブ主人公の属性は闇になり、選択肢や戦い方によってサブ主人公を救うことも可能になる。


 DLCでは全てに絶望したクレアを甘い言葉で闇堕ちに誘う悪しき存在が登場するようだが僕にとって一番の悪は王子のルミエルだと思う。

 王となる彼は国と国民を守る役目がある。でも王となる運命を抗うように彼は恋を知って恋に狂って一番の味方を失うどうしようもない愚か者だ。


 元凶であるルミエルはプロローグで魔女に変わり果てたクレアによって国ごと吹き飛ばされる運命となっている。

 主人公の仲間となる聖女のアイリスは精霊王の加護によって災厄を免れるがアイリス以外の人間は全てルミエルに巻き込まれて帰らぬ人となるのだ。


 この後に起こる悲劇を知らずにアイリスの肩を抱くルミエルのしたり顔があまりにも腹立たしくて苛立ちが頂点に達した僕は一旦セーブしてゲーム機をベッドの上に置いた。


「あー、ダメだ!他のことしてメンタルリセットしよう!」


 僕は気分転換をするために本棚からライトノベルや漫画を取り出してはトートバッグに詰めていった。

 明日はお祖父ちゃんの家に行く日だ。最近の僕はお祖父ちゃんと読み友である。お祖父ちゃんが昔のアニメを教えてくれたように僕も今の作品を教えている。

 お祖父ちゃんの感想を聞くのが大好きでつい色々勧めてしまい、それで妹と競い合ったりお祖父ちゃんに苦笑されたり両親に叱られたりもした。


「今回はどうしようかな。」

「薫!悪いけど開けるわよ!」


 あれこれ悩んでいると部屋に突然母が入ってきた。スマートフォンを片手に顔面蒼白の母によって開け放たれた扉から電話で何処かに連絡する父の声が聞こえた。


「な、何だよ!ノックぐらいしてよ!」

「大変なのよ!お祖父ちゃんが、」


 連なるように出された母の言葉に僕は頭を強く殴られたような衝撃を受けた。


 抱えていた沢山の本を床に落としたがそれどころじゃなった。


 指先がどんどん冷たくなっていくし、電話で親戚とやり取りする母の声が遠くになるほど大きなショックを受けた。


「お祖父ちゃんが、死んだ?」


 昨日まで元気だったお祖父ちゃんの顔が脳裏に過った。

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