#4日目


―ザザザ…

なんだ…?

記憶は元からなんとなく不思議に思うところがあった。

「そこ」にあるべきものが抜け落ちている。

まるで記憶に綺麗に穴が空いたように…

―何なんだよ…!?

とか、そういうものではない。

と、脳が認識しているかのような、違和感さえない『欠落』…。

ただ、オレは先ほど、心の底から恐怖した。

…というか、に。

きっと、そこにカギはある。

―…何も…出てこない。

そう。

何度も何度も…先ほど見た刃物を想起し、想像し、頭に押し付ける。

その度に頭がチカチカし、その度に胃液が逆流しようとする。

…だが、何も…分からない。

―…分からない

オレは何の記憶を失っている?

そもそもんじゃないか?

そうだ、オレはこれが普通なんだ。

現に、今までじゃないか

しっかり、刑務所でもオレは模範囚だ。

「うあぁぁぁぁぁッッッ……!!!!」

夜の刑務所に、オレの咆哮ほうこうが響き渡る。

たぶん、すぐにいつもの看守サンが来る。

そしたら、ちゃんとオレの事件について話をしてもらおう。



…ここ最近、囚人番号20番が騒がしい。

まるでと戦っているかのように…。

そして、それはちょうど私が休憩時間の時に訪れた。

―プルルル…

「今は休憩時間のはずだろ…?」

非常識だと思いながら、電話に応じる。

聞いてみれば、囚人番号20番が突如として発狂したとの報告。

きっかけは『刃物』だと思っていた…。

誤算だったか…

とにかく、急いで行かなければ…!


現場に着くと、囚人20番は至って普通の様子で、そこにいた。

「あ、看守サン。」

「…20番…?」

「ああ…看守サン、すまん。看守サンを呼ぶにはこうするしか無くてね…」

「…それはいい。…何があった?」

これだけは確実に言える。

それだけは、なんとなく理解した。

「それで…ちょっとお願いがあってですね。」

「…ふむ…外出か?模範囚ではあったが、貴様は先ほど騒ぎを起こしたばかりだ。そう簡単には…」

「違う。」

…今までとは違う、断定する強い口調。

「…オレが望むのは、『刃物』です。」

「…脱獄でも考えているのか?」

「違いますよ…そこの辺りからでもいい…渡さなくていい…ただ…『見せて』くれればそれでいい。」

「貴様…」

「オレはずっと、なんとなく…無くした記憶のことはもうどうでもいいかと思ってました。」

ぽつぽつと、彼の覚悟が。

その口から語られる。

「…ですが、何が起こったことさえ分からないまま…あがなえる罪はない。」

「だから、オレは。」

「お願いです、看守サン。」

は、これを乗り越えないといけないんだ。」

確かに、強い覚悟を持ってそれを語った。

少なくとも私にはそう見えた。

思い出してみれば、彼はずっと記憶のない…脱け殻だった。

それが、今はまるで過去がまた再生されたかのように、確かな生を持って、覚悟して語りかけている。

…少なくとも、私には拒絶できない。

基本的に、看守は軒並み護身用にスタンガンのみを持ち、それ以外は持つことが許されない。

刃物などは、囚人にしてみれば使い方は山ほどあるから持ってのほかだ。

そして、私は

もし、彼が私に覚悟を見せたとき。

そのときに渡そうと思っていた。

それを見せ、彼の反応を見る。

彼は、次第に過呼吸になり、頭を抱え、頭痛に耐える。

だが、片時もナイフから目を離さず。

しっかりと、過去と向き合っている。



報告書

囚人番号20番が記憶を取り戻そうとしていました。

彼の行動からも、その言葉には信憑性があるとして、その言葉を受け入れ、私はたまたま持ち歩いていた刃物を見せ、記憶の覚醒を促しました。

無断で行ったこと、それをまず謝罪させていただきます。

ですが、今回のことで彼は…



と思われます。

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