第14話 迎②

「むむ。分断されましたな...。」


 扇雪みゆきと“赤髪”が対峙しているとき、おかっぱ少女軍人柳生やぎゅう但馬守たじまのかみもある人物と対峙していた。

 継ぎ接ぎだらけのぬいぐるみ達が周囲に浮いている少女。


 “縫々”


 それが少女のコードネームであった。


 不気味。そう表現したいが、どこか作り物のような気がして、それがまた不気味である。


「あなた...さむらい?」


 “縫々”は但馬守たじまのかみに尋ねる。


「ん?私は軍人でありますが...。」


 但馬守たじまのかみは納刀状態で攻撃を防ぐ。とはいっても“縫々”自身の攻撃という訳ではなく、但馬守たじまのかみの後ろにいつの間にか現れたクマのぬいぐるみのものであった。


「わたし...さむらい...きらい...」


「ん~。私は軍人でありますが...話を聞いてないですな...。」


 但馬守たじまのかみが自由にしていた右手を刀の柄に添えた事を“縫々”が視認した後、ぬいぐるみはバラバラになっていた。


「...あいつと同じ剣筋...きらい...」


「ん?あいつ?だれで...。」


 但馬守たじまのかみが誰であるのかを聞くよりも前に“縫々”の首が飛んだ。


「!?」


「厄介な奴ですね。えぇ。」


 日本の女学生のような上は着物に馬乗り袴にブーツ。左目にはモノクルをかけている茶髪ポニーテールの女性。


 但馬守たじまのかみはこの女性の名前を知っている。


伊勢守いせのかみ。何故ここにいるのでありますかな?」


「あら、但馬守たじまのかみ、久しいですね。えぇ。」


 柳生やぎゅう伊勢守いせのかみ


 但馬守たじまのかみと同じ柳生やぎゅう永家の出身の“宗”が名前に入った人間。


「“奈落”から脱走したのでありますかな?」


「“奈落”?あぁ、あのときのですね。えぇ。脱走なんてしてませんね。えぇ。」


 (脱走していない?そんな、馬鹿な話が...。)


「私はある人物に救われましてね。えぇ。」


「ん?ある人物?」


「そうですね。えぇ。“六合りくごう”達と同じ人間とでも言うべきでしょうかね。えぇ。」


「...。」


 但馬守たじまのかみは刀の柄に手をかける。


 それを見た伊勢守いせのかみはしゃがみこみ刀の柄に手をかける。


「“水月すいげつ”でありますな...。」


 伊勢守いせのかみの構え。それは、柳生やぎゅう本家より分かれた対占星術師のために存在する永家の剣術の一つ、―水月すいげつ―と呼ばれるものである。


  単純な抜刀術であるが、故に、厄介ともいえる。


 日本の剣術は占星術師達すら斬り殺す。


 とも言われるほどに、海外からは恐れられている。


「まあ、私からしてみればどうでもいいい話でありますがな。」


 刹那、刀の刃と刃がぶつかった。


「「!?」」


 但馬守たじまのかみの刀は折られた。だが、それ以上に伊勢守いせのかみの首元に但馬守たじまのかみの蹴りが入ったことで両者ともに動揺することになる。


(防がれてしまいましたな...。対魔式というやつでありますかな...。)

(なるほど、これが柳生やぎゅうの異端児...)


 両者は距離を取り、互いに隙を伺うことになった。


 反撃と初撃。


 どちらも決まることがなかったために、両者の相性は最悪であることを二人は理解した。


 膠着。


 痺れを切らした方の負けであり、隙を作らなければならず作ってはならない。


 故に二人は...


「「!?」」


 ----------


「あそこに来ているのは教会でも一枚岩ではないと...。」


 本国で優雅に紅茶を飲む女性は、報告を聞く。


「“聖女派”、“枢機卿会議派”。ある意味“公教会”である我々も分派扱いされてるみたいですけどね...。不本意ですが...。」


「それで、ミカゲさんは死んでいないのですね...。重傷で済んだのが奇跡といえるところですかね...。ん?え?もう向かった?はあ~。」


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