第4話 俺、モテ期到来?!その時、幼馴染みは…。

いつも重たい心と体を引きずるようにして、登校していたクラスカースト底辺の俺=突張元春。


しかし、夏休みの間に20kgの減量に成功し、細マッチョな体を手に入れた俺は、以前の俺とは違い、心も体も身軽になって、自分の教室の扉を勢いよく開けた。


ガラッ!


「皆、おはよう!」


教室内のクラスメートににこやかに笑いかけ、挨拶をすると、目が合った数人が戸惑ったような顔をしつつ、挨拶を返してくれた。


「「お、おはよう…。」」」


それと同時にざわつく教室内。


「(えっ。クラスにあんな男子いたか?)」

「(転校生かな?ヤバッ!細マッチョで、結構イケメンじゃね?)」

「(うん、ヤバイヤバイ!カッコイイかも…♡)」


今まで、俺に侮蔑と哀れみの視線をくれていたクラスメートが、明らかに俺に称賛の視線を送りながらヒソヒソ話をしている中、悠々と自分の席についた。


「あっ。彼、突張くんの席に座っちゃったよ?」

「どうする?教えに行ってあげよっか?」

「行っちゃお、行っちゃお!」


カースト上位の女子二人組、星宮沙織ほしみやさおり花澤夏恋はなさわかれんが、頬を赤らめて俺に近寄って来た。


「あ、あのさ。君、転校生かな?そこ、クラスの関取的立ち位置の突張元春くんの席なんだよね。だから、君の席じゃないと思うよ?

よかったら、あたしの隣りの席空いてるから、こっちおいでよ!」


「あっ。沙織抜け駆け〜!あたしの隣りも空いてるから、こっちにおいでよ!」


「…!!」


あまりに外見が変わった俺を、突張元春本人だと思わず、二人は転校生だと勘違いしているようだった。


いや、クラスの関取的な立ち位置って何だよ?星宮の隣りは、夏休みで転校したクラスメートの席だから空いているのは分かるが、花澤の隣りは、陰キャの薄影佐郎うすかげさろうだから、空いてねーだろ?


薄影青ざめてこっちガン見してるし…。


色々突っ込みどころはあれど、今まで必要最低限しか俺に目を向けなかった星宮と花澤が、今や、俺に対する好意を隠そうともせず、隣りの席を勧めてくれている事に悪い気はしなかった。


「いや、俺、転校生じゃなくて、突張元春本人だから!夏休みに一念発起して、痩せたんだよ。」


「「えーっ!!ウソぉ!!君、本当に突張くんなの?」」


星宮と花澤は驚愕に目を見開き、顔を見合わせている。


「ああ。食事と運動を組み合わせて体を絞ったんだ。最初はキツかったけど、成果が出て来ると段々やりがいが出て来て、後半は楽しくダイエットに取り組めたよ。」


「へ、へぇ〜!突張くん、努力したんだねぇ…!あたしも夏休みダイエット試みたけど、3日で挫折しちゃったよ。」


「あたしもダイエット続かないんだよね。突張くんはエライなぁ…。」


目をパチパチさせながらも、星宮、花澤は体重管理という人類共通の課題(特に女子にとっては切実だろう。)を制した俺に対して、さっきまでとは違う興味を向けてきた。


「ん〜、二人共見た感じ、ダイエットする必要なんかないと思うけど、もしやるなら、

最初から過度なダイエットすると、辛いし続かないから、最初は無理なくできるものにした方がいいと思うよ?

俺がやってたダイエットの計画は、スポーツトレーナーの資格取るために勉強中の姉に

立ててもらったものなんだけど、興味あるなら、どんなんだか聞く?」


俺がキラッと目を光らせてそう聞くと、二人のカースト上位女子は、目を輝かせて食いついて来た。


「うん♡聞く聞く!!」

「突張くん、教えて〜?」


よっしゃ!狙い通り!!

俺は目論見通りに事が運んだ事にニヤリと笑った。


ダイエットして痩せたからといってすぐに彼女が出来るわけではない。

外見がよくなったからといって、成績も運動もそうできるわけじゃなく、女子慣れしていない俺には、長年イケメンを張ってきた男子のように、洗練された立ち振る舞いや、会話などできる筈もない。


虚勢を張ったところで、すぐにメッキが剥げてしまい、彼女が出来ないまま、一時のモテに終わってしまう事は目に見えている。


夏休み、最後の数日、「明日君に恋をします」という恋愛ドキュメントの番組を一気見して過ごした俺には、女の子にとって、イケメン度だけでなく、中身も重要だという事は、痛い程分かっていた。


あの、ハワイ編のカミーくん、すげーイケメンだったのに、痛い言動の末、本命のアサカちゃんにフラレて号泣していた姿は、胸にささったぜっ!ううっ…。


そこから学んだ俺は、身近な話題で女子とのアプローチを図る事に決めた。

女子の悩みを聞きつつ、上からにならないように、優しくアドバイスする。


“イケメンだけど、威張らず、気さくに話を聞いてくれる、頼りになる彼”

俺の目指す立ち位置はこれだぜ!!


「まず、食事だけど、俺は糖質を制限して、タンパク質はきちんと取る、ステーキダイエットって奴をやってて…。」


「えー!ステーキ?ダイエット中にそんなガッツリしたもの食べて、いいの?」

「あたし、ソレ、聞いたことある!ステーキ肉は、基礎代謝高くなるから、痩せやすくなるんだって!」


驚く星宮に、思い出した知識を披露する花澤。


「へ〜、そうなんだぁ…!」

「話には聞いてたけど、ステーキダイエット、本当に効果あったんだぁ…!」


すっかり興味津々の二人に、俺はにっこり笑って、ダイエットの詳しい内容について語ったのであった。


❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇


そして、翌日の昼休み。


「あたしも突張くんに、教えてもらったダイエット試してみようかな?」


「あ、うん。試してみて、途中で分からない事あったら、何でも聞いて?」


「突張くんって、カッコよくなった上に性格もいいし、最高だよね♡♡?」


「いや〜。そんな事ないよ。//」


星宮さん、花澤さん含め、何人ものカースト上位の女子達を侍らせ、悦に入っている俺の姿があった。


クラスメート男子の怨念の籠もった視線を感じてはいたが、俺にとってはそれすらも自分の地位が急上昇した事の確かな証であり、

優越感で内心笑いが止まらなかった。


あまりに変わった俺の姿を突張元春本人と認識する事ができなかったのか、相撲部部長の須毛先輩に絡まれる事もなく、俺は快適な学校生活をエンジョイしていた。


ただ一つ、不満があるとすれば、幼馴染みのかのんが始業式も今日も学校に姿を見せず、

新しく生まれ変わった俺の姿を見せらない事だ。


もしかして、俺の変わりようを誰かから伝え聞いていて、夏休み前にした約束=土下座して謝る&パンツ丸出しで逆立ちをする罰ゲームをやらされるかもと恐れているのかもしれない。


後で、今まで封印していたスマホを起動して、『別に罰ゲームはやらなくてもいい』とL◯NEメールを送ってやるか。


俺としては、今まで俺を散々バカにして来たかのんに、俺がカッコよくなり、ハーレムを築いている姿を見せつけ、ギャフンと言わせられればそれで満足!


ま、あいつが泣きついてくるなら、幼馴染みとしての縁はギリ切らないで置いてやるか…。


そんな事を考えていると…。


ガラッ!


「み、皆、お、おはよ…。」


その時タイミングよく、小柄なツインテールの女生徒がヨロヨロしながら教室に入ってきた。


「かのんちゃん、久しぶり!もう昼だよ?昨日も学校来なかったし、どした〜?」

「顔色悪いし、やつれてるし、大丈夫?」


いつもよく話している数人の友達が、心配してかのんの元へ駆け寄った。


「だ、大丈夫。回復が微妙に間に合わなくて、今日の午前中までドクターストップかかってただけだから、平気平気。」


かのんの奴め…。あんなに真っ青な顔をして、嘘までついて…!

よっぽど罰ゲームするのが嫌だったとみえる。


「えー、それって本当に大丈夫なの!?」

「辛いなら保健室行く?」


心配する友達にかのんは首を振った。


「本当に大丈夫。それより、もっちゃんは?」

「あ…。突張くんならそこに…。」


「え?」


かのんは友達の指し示す方に視線を送り、ハーレムの女の子達に囲まれ、自分の席に座っている俺と目が合った。


そして、俺は夏休み前日にケンカ別れして以来の幼馴染みと再会を果たしたのだった。


さっきまで黄色い歓声を上げていた女子達は、口をつぐみ、教室内は一瞬シンと静まり返った。


「あ、あの…。どなたか知りませんが、そこ、もっちゃんの席ですよね?もっちゃんはどうしたんでしょうか?」


「!!」


かのんも、今の俺の姿が突張元春その人だと気付かないらしい。恐る恐る聞いてくるかのんに、俺は不敵な笑みを浮かべた。


「ふっ。どうしたも何も本人だ!久しぶりだな、かのん!」


「?!!も、もっちゃん本人?!嘘っ!!

顔と体の輪郭が違うし、そんなわけ…!

で、でも声はもっちゃんだし、顔立ちもどことなく似て…?!

ハッ。もしかしてCG?!」


「CGなわけあるか!」


驚き、慌てふためいた末、よく分からない結論に至ったかのんに俺は突っ込んだ。


「お前に宣言した通り、ダイエットして痩せたんだよ?どうだ、恐れ入ったか?」


痩せて細マッチョになった俺と周りに形成したハーレムを見よ!


今こそ生意気な幼馴染みにギャフンと云わせてやるぜ!


かのんは、一瞬ツインテールをびびっと逆立てると一言叫んだ。


「ぎゃふん!!!」


アレ、瞬速で言ったわ。


かのんはそれから、呆けた顔で俺に背を向け、壁に向かってぽてぽて歩いて行き…。


「んっ!んしょっ!」

「か、かのんっ?!///」

「「かのんちゃんっ?!///」」


スカートが捲れ、苺柄のパンツが丸出しになるのも構わず、壁に向かって倒立した。


「大変、皆!壁になって!」

「「「「りょ、了解!」」」」


慌てた女子達は、かのんを庇うように立ち、周囲から見えないように教室の一角にバリケードを作った。


「よ、よいしょっ。あ、きゃあぁっ。」


かのんは、逆立ちをしたまま、向きを変え、数歩歩こうとして、そのままバランスを崩した。


「お、おい!危なっ…!」


ドサッ!


慌てて、倒れそうになったかのんを抱き止めると、以前より更に軽くなったかのんは、俺の体にしがみついて泣いていた。


「ううっ。うあぁんっ。」


「な、泣くほど嫌なら、やんなよ!!俺だって鬼じゃねーんだから、別に罰ゲーム無理にやれとは言わねーよ!」


「違うっ!そうじゃないっ!ち、ちっとも、もっちゃんのお腹プユンとしない!!あたしの大好きなもっちゃんのお肉!一体どこへ行っちゃったの!?うわああぁんっっ!!」


「は、はあ?」


今一状況が分からない、俺にかのんは、乱れた衣服を正す余裕もなく、泣きながら床に額を擦り付けて俺に頼み込んだ。


「もっちゃん、バカにしてごめん。謝るから、元のお肉たっぷりのもっちゃんに戻ってぇ!!もう、トランポリンもできないし、安◯先生(たるんだお腹や下顎のお肉をポニュポニュすること)も出来ないよぉ!!そんなのもっちゃんじゃないよぉ!あああぁっ!」


「い、いや、かのん?!ちょ、泣くなよ!頭上げろって!」


痩せた俺を見て、かのんはてっきり悔しがると思っていたのに、何故、悲痛な叫びを上げて悲しみの涙を流しているのか理解出来ず、俺は戸惑うばかりだった。


「突張くん!かのんちゃんの気持ち、まだ分からないの?」

かのんの友達の一人が、俺を責めるようにキッと睨んできた。


「かのんの気持ちって何だよ?」


「なら、言うけど!かのんちゃんは以前の太ったままの突張くんの事が大大大好きだったのよ!」


「えっ。」


驚いて俯いているかのんを見ると、耳まで真っ赤になっていた。


「マ?」


俺が漏らした呟きに、かのんはコクコク頷いた。


「も、もっちゃんに…、意識してもらいたくて…おしゃれも頑張った…。」


「かのん…!」


上目遣いで、恥ずかしそうにそんな事を言ってくるかのんに、俺は目を見張った。


じゃ、じゃあ、何か?かのんが高校デビューしたのは、俺に可愛いと思ってもらいたかったからだっていうのか?


夏休み前に、痩せて彼女を作ると言った俺にあんなにも反発したのは、そのままの太った俺が好きだから、痩せて欲しくなかったから?彼女なんか作って欲しくなかったから?


だとすれば…。


煽られていると思い、スルーしていたかのんからのメールの内容を思い出し、俺は胸が痛んだ。


『ねぇ……。も…と…はる…。メールみてるんでしょ?わたし…、もう…、あまりにながいロスで、きんだんしょうじょうが…。

おねがいだから、せめて、もとはるのすえたようなにおい…を…。ひとかぎ…だけ…でも…。』


あの時、もしかしてかのんは俺に会えなくて寂しさのあまり、本当に体調を崩していたのではないだろうか。


姉が主張するように、俺のTシャツをかのんのところに届ける事で、やっと体調を回復していたのかもしれない…。


そこまで考えて、ふと我に返った。


ん…?

何で俺のTシャツで回復すんの??

俺のTシャツ何に使ってるの??


一瞬すんとしてしまった俺に、カースト上位の星宮と花澤も神妙な顔で知らなかった事を教えてくれた。


「かのんちゃんの気持ち、女子達は皆知ってたから、突張くんとの仲を温かく見守ってあげようという事になっていたの。

突張くん、あまりにカッコよくなってたから、ついつい話し込んじゃった。ごめんね…。かのんちゃん。」

「あたしも調子こいちゃってごめん。かのんちゃん。」


二人に謝られ、かのんはふるふると首を振った。


「もっちゃんが優しくてカッコイイし、惹かれるのは分かる。取られたくないなら、私が早くちゃんと告白するべきだった。」


「「かのんちゃん…。」」


そして、かのんは俺に正面から向き合い、俺に告げた。


「もっちゃん。小1の時、初めて会った時から、お腹の肉も含めてあなたの事が大好きです!どうか私と付き合って下さい。

そして、これからはダイエットなんかしないで少しずつでいいから、元のプルンとしたもっちゃんに戻って下さい!」


「かのん…!」


「「「「「「かのんちゃん…!」」」」」」


周りの女子が温かく見守る中、俺はかのんの告白を受け、正直に自分の気持ちを伝える事にした。






「それは…、出来ない。」


「へっ…?!」


目の光は消え、真っ白になるかのんに俺は強く主張した。


「すまない。かのん。俺はダイエットして得た軽くてカッコイイこの体を気に入ってんだ!もう一回太るなんて考える事は出来ない。それに、女子にもモテるしな。お前の事は嫌いじゃないけど、今すぐに一人に絞るのはちょっと…。しばらくこのハーレム状態を満喫してから、ゆっくり彼女を決めたいかな?」


正直に自分の気持ちを熱く語り過ぎてしまった俺は、かのんや他の女子達の肩がぷるぷるし始めたのに、気付いていなかった。


「だから、彼女になりたいのなら、俺のハーレムに加わってくれれば、彼女候補の一人にしてやるよ。なっ。」

「ふんぬっ💢!!」

「わっ!」


かのんの肩をポンと叩くと、思いっ切り振り払われた。


「もっちゃんのゲス野郎ーっ!!うわああぁっっ!!」

「ど、どうしたんだ、かのん?!」


泣き出したかのんに俺が驚いて焦っていると女子達から一様の突っ込みが入った。


「「「「「「いや、どうしたんだじゃねーだろよ!」」」」」」


「もう、もっちゃんなんか、捨てて他の男に走ってやるーーっ!!今から、相撲部の部室へ飛び込んで、最初にぶつかった人の彼女になってやるーーっっ!!」


「なっ。何だってぇっ?!」

「「「「「「かのんちゃんっ?!」」」」」」


俺と女子達が引き止める間もなく、かのんは泣きながら教室を飛び出して行ったのだった。



*あとがき*


読んで頂きまして、フォローや、応援、評価下さってありがとうございます

m(_ _)m


皆様に応援頂きましたおかげで、ラブコメランキング64位までいけました!

本当にありがとうございます✨😭✨


今回タイトル回収しまして、残り2話になりますが、最後まで見守って下さると嬉しいです。

今後ともどうかよろしくお願いします。














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