第22話 本物はどっち?

  髑髏大蜘蛛どくろおおぐもは、その巨体を炎に包まれた。


『うぐぅぁあああああッ!!』


 さぁ、降参宣言させるぞ!


 僕は封印帳を開く。


「まいったか?」


 こいつが「まいった」といえばこの帳面の中に封印できるんだよな。

 

「さぁ、早くまいったと言え! このままだと燃えちゃうぞ!!」


『ぐぬぅううううう……!!』


  髑髏大蜘蛛どくろおおぐもは最期の力を振り絞った。

 その巨体は真っ黒い霧と化す。


わっぱごときにわれが負けるもんかぁあああああ!!』


 周囲は真っ黒い霧に包まれる。


 いなくなったぞ?

 もしかして倒しちゃったのかな?


 と、思うやいなや、僕と 毛毛丸けけまるは分離した。


「え!?  解脱げだつって言ってないのに?」


変化へんげが解けちまったぞ!?』


 でも、 髑髏大蜘蛛どくろおおぐもはいなくなったしな。

 この霧が晴れれば問題ないのかも。


『うわぁああ!! 優斗ぉおお!!』


 突然、 毛毛丸けけまるが真っ黒い蜘蛛の糸に捕まる。


「け、 毛毛丸けけまる……!?」


 どうやらまだ 髑髏大蜘蛛どくろおおぐもはいるようだ。


『おい優斗、用心しろよ! オイラの毛がバチバチいってらぁ! まだあいつの妖力は消えてないぜ。でもよ、火傷のダメージで襲って来れないんだ。倒すなら今がチャンスだぜ!』


「う、うん。……とりあえず。もう一度、憑依変化をやってみようよ』


『おう! いくぜ!  憑依ひょうい!』


変化へんげ!」


しぃ〜〜〜〜ん。


 あれ?


変化へんげできないぞ?」


 今は同じ気持ちなんだけどな?


『この変な霧のせいだぜ。嫌な空気が 変化へんげを邪魔してんだ!』


 そうか、 髑髏大蜘蛛どくろおおぐもの仕業だな。


 火吹きリスの炎ノ助も困っていた。


『おい。優斗。これはどうすんだ?』


「うん。とりあえず、蜘蛛の糸に絡みついた 毛毛丸けけまるを助けあげようよ。炎ノ助も手伝ってよ」


『おう! それはいいけどよ……。あ、あれ見ろよ!』


「え?」


 そ、そんなぁあああ!?


「け、 毛毛丸けけまるが二人いるぞ!?」


 まるで鏡にでも映っているかのように。

 そこには 毛毛丸けけまるが二人いた。


『じゃあよ。俺は右の奴を助けるからよ。優斗は左を助けてやれよ』


「いや、そういうことじゃないって! これは罠だ!!」


『罠だと? どういうことだ?』


髑髏大蜘蛛どくろおおぐも 毛毛丸けけまるに化けているんだよ!」


『なにぃいい!?』


「火傷のダメージがあるから、僕たちが近づいて来るのを待ってるんだ」


 軽い気持ちで近づいたら、ガブって食べられちゃうぞ……。

 一体、どっちが 毛毛丸けけまるなんだ?


『優斗! オイラが本物だぜ! あっちが偽物だ!!』


『惑わされるなよ! あっちこそ偽物だぜ!! オイラが本物! あっちは 髑髏大蜘蛛どくろおおぐもが化けてんだ!』


 ああああ……。

 声がそっくりぃ……。

 どっちが本物なんだぁああ??


『優斗ぉ! 早く 髑髏大蜘蛛どくろおおぐもをぶっ倒そうぜ! この糸を外すのを手伝ってくれ!』


『おい優斗ぉ! こっちが本物だって! あんな奴は無視してこっちの糸を切ってくれぇえ!!』


 ええええええ!?

 そう言われてもぉおお!?


『優斗ぉおお!!』


『優斗ぉおお!!』


 どっちだぁ……?


『オイラが本物ぉ!』


『騙されんなよ! あっちが偽物だぜ!!』


 同じ声。

 同じ仕草。

 全く同じ見た目。


『『 優斗ぉおおお!! 』』


 ……困った。

 ものすごく困る。


「……よぉし、こうなったら」


 本心を伝えてやろう。


 これしかない。





。僕、困っちゃったよ。どっちが本物かわからないや」





 すると二人の 毛毛丸けけまるは笑った。

 右はこう言う。


『おいおい。俺は 毛毛丸けけまるだぜ。シロって誰のことを言ってんだよ? ボケちまったのか?』


 左はこうだ。


『しょうがねぇな。早く蜘蛛野郎をぶっ倒してよ。一緒に風呂に入ろうぜ』


 ああ、本物がわかったよ。


「炎ノ助! 右の奴に火の息だ!」


『あいよ! 正体がわかったんだな! それぇ!!』



ボワァアアアアアアアアアアアッ!!



 右の 毛毛丸けけまるは炎に包まれる。

 すると、


『ぎゃぁあああああああああ!! どうしてわかったぁああああああ!?』


 その姿は大きな蜘蛛へと変わった。


「シロって名前はね。僕が 毛毛丸けけまると初めて出会ったころにつけた名前なのさ」


『ぬかったわぁああああああああああああ!!』


 さぁ、降参宣言だ。


「まいったかい? 早く言わないと体が炭になっちゃうぞ?」


 蜘蛛の炎はさらに勢いを増す。





「まいったぁあああああああああああああ!!」





 やった!

 降参宣言成功だ!!


 その瞬間。

 封印帳がピカーー! っと強烈な光を発した。


 まぶしい、と思ったのも束の間。

 光は 髑髏大蜘蛛どくろおおぐもの体を包み込み。

 そのまま帳面の中へと突入した。



ドシュゥウウウウウウウウウウウウウン!!



 見開いたページには 髑髏大蜘蛛どくろおおぐもが絵になって封印されていた。墨汁で書いたような不思議な絵。ちゃんと漢字で名前まで書いてある。


「やった! 封印成功だ!!」


 真っ黒い霧は晴れて、 毛毛丸けけまるの糸も消えていた。


『やったぜ優斗!』


「うん!!」




 僕たちはネズミ神社へと戻った。


 すると、母さんが僕を抱きしめる。


「優斗! よくやったわね!!」


「え? なんで知ってるの?」


「雲外鏡を通してね! 全部見ていたの! みんなで応援してたのよ!」


 ああ、なるほど。


「すごかったわぁ……。優斗ってあんなに強くて勇敢なのね。お母さん、見直しちゃった」


 母さん同様、妖怪たちも大喜び。

 みんなが僕を褒めてくれた。


 社の中には牛田社長たちが寝ていた。

 その騒ぎで目を覚ます。


「ありゃ、ここはどこだ?」

「しゃ、社長……。私たちはなにをやっていたんでしょうか?」


 肌の色が普通に戻っている。

 どうやら 髑髏大蜘蛛どくろおおぐもに操られていた術が解けたようだ。


『あんたたちは操られていたでありんす。優斗さんが悪い妖怪を封印して、あんたたちは助かったでありんすよ』


 そう言って 目目連もくもくれんはたくさんの目で見つめた。

 また、彼女の後ろには大勢の妖怪たちが顔を出す。


「ぎゃあああああああ!! おばけぇえええええ!!」

「ひぃやぁあああああああ!!」


 そう言って、社長たちは再び気絶した。


 やれやれ。

 森の近くに自動販売機があるし、あそこならベンチがあるから寝かしておこうか。

 気がついたら勝手に帰るだろう。


 妖怪の存在に気づかれても困るしな。

 気絶してくれた方が良かったかも。


 僕はスマホの録画ボタンを停止した。


「録画は完了だよ」


「ふふふ。いい動画が撮影できたわね」


「うん!」


「じゃあ、あとは母さんが編集してアップするわね」


 さぁ、どれだけ人気が出るかなぁ?

 楽しみだ。

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