第2話 出会い

俺は、鏡の前に立って自分のビジュを確認した。艶のある漆黒の長い髪で、目は青緑に近いような、鮮やかで爽やかな色をしていた。うん、モブキャラにこんな感じのヤツはいなかったから大丈夫だな。

それからは大変だった。母曰く、それまで無口だった娘が急に喋り出したと思えば性転換が云々とか言い出し、おかしくなったのかと思って精神科に行かせても特に異常がなかったこと、イヤイヤ期が来なくて本当にしっかり成長してくれるか心配だったこと、そして幼児なのに10年近く後のカレセへの入学に向けてトレーニングを始めたこと…。などがあったらしい。俺が転生者だったことには気づいていないらしいが。

転生してから2年が経ち、今年で5歳になる。まだ小学生でもないのに一人称が俺だとまた心配されたりするだろうからと思い、今は喋る時の一人称を我にしている。

明日は街に待った小学校の入学式の日だ。2年経ったにも関わらず、未だに幼少のテティス様らしき人を見つけることができていない。

ただ、俺にはルナーン様に限って手違いはないと確信していた。だからそうも心配していなかったが。



もう夜の8時になり、寝ることになった。


「いい、パルス?学校では絶対に変なことは言わないでね。変なことを言っちゃうと、お友達ができなくなっちゃうからね」

「うん。一人称も私にすればいいんでしょ?」

「また一人称だなんて言葉使って…。いい?そういう周りのお友達が分かんないようなことは言っちゃダメだからね?」

「うん」


最近は幼児らしい喋り方も慣れてきたし、よっぽど周りからハブられることはないと思う。俺は明日を楽しみにしつつ眠りに落ちた。



それにしても、ゲームやアニメの方で散々思ったが、本当にこの世界は異世界の割に社会構成は日本に近い。一部の家電、スマホや自動車など、異世界アニメにあまり出て来そうもないものは存在していないが、テレビやラジオなどは存在している。ただ、しっかりモンスターは存在しているし、戦争も起きる。この世界は一部の

例外を除いて殆どの職業の男女の就職率が逆転している、つまり女性の方が力仕事などが得意なわけだ。

ただし、男性は他の冒険職に就く場合はあっても剣士になる場合は殆どない。だから、この世界で一番大きい剣士学校カレッジオブセイバー、通称カレセも指導者以外の男子禁制だった。

入学式の会場である近所の小学校では桜が満開に咲き誇っていて、入学式に相応しい雰囲気だった。


「母上、少し学校の周りを見に行ってきてもいいですか?」

「いいけど、さらわれたりしないでね。いや、パルスに限ってそれはないか」


俺はひたすらにテティス様を探し回った。ルナーン様がしくじったとは考えたくなかったし、信用したかったから。

しかし、あちこち探し回ったが見つからなかった。入学式開始まではあと10分、入場完了まであと5分も無い。最終手段として、校舎裏を探してみることにした。案外興味本位でこっちに来て迷ってるかもしれない。


そして人気の少ない薄暗い場所に行くと、そこには何人かの子どもたちがいた。服装からして、同じように入学式に参加する子どもだろう。しかし、何か揉めているようだった。よし、少し様子見しよう。


「お前なあ、自分がカレセコースに進むからって調子に乗ってんじゃねえよ。いつも同じ絵本ばっか読んでて。気持ち悪い」

「で、でも、あの人はちゃんといたはずだよ。お父さんのお友達に、その人の子供の子供の子供の…、って人がいるって聞いたもん」

「神様の子供なんて、そんなこと言うヤツ馬鹿じゃん。だからお前もそんな馬鹿なんだよ」

「やめてよ。もう私も君たちも行かなきゃでしょ?」

「うるさい!!お前がいるからダメなんだ!」


そう言っていじめのリーダー格らしき小僧がいじめられっ子を殴った。俺は、自分の直感に感謝した。それと同時に、沸々と怒りが沸いてきた。

そのいじめられっ子こそが、テティス様だった。俺はもう我慢できない。


「おい、そこのボウズども」

「ボウズ?オレたちは今ちょうどケンカしたかったところだったんだ。死ねェ!!」

「ホント、小僧はすぐに死ねとか言うよね」


俺は積んできたトレーニングの成果を発揮した。その動きの見え透いたパンチを避け、後ろに回り込んで足を引っかけ、思いっきり転ばせてやった。


「わぁぁぁん!!ママ、ママァ!!痛いよぉ!」

「そこのをいじめたお前が悪い」


俺がそんなことを言うと、その小僧は押し黙ってただすすり泣くだけになった。他のいじめっ子も怖気づいたのか、そのリーダー格の小僧を協力して運びながら逃げていった。


「キミ、大丈夫?」

「うぅ、ひぐっ…。あ、ありがとう…。」

「無理しなくていいよ。私の名前は星川パルス。キミの名前は?」

「わ、わたしの名前は…、ひぐっ…、あ、あずまテティス。よろしく…」

「うん、よろしく。それで、どうしていじめられてたの?」

「じ、実は…、うっ、うぅっ、わぁぁぁぁぁぁぁん!!」

「む、無理して話さなくていいよ」


幼き日のテティス様は俺に引っ付き、胸元に顔をうずめてもっと泣き始めた。忘れてはいけない、俺の心は俺のままだが、体は女だ。まだこの頃のテティス様には恋という情は芽生えないし、もし芽生えたとしても女である俺に向くものではない。それでも、俺はこれからこの子に精一杯尽くすのだ。


続く

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