第7話 それからどしたの

 幽閉生活にも慣れ始めた僕は、アリエスにとあるお願いをした。


「筋トレ……ですか?」

「はい」


 塔に来てからというもの、食事、読書、勉強、寝るの四工程のみで一日が終わる。

 石礫のペンダントを付けていれば、王宮内のどこで何をしていようが問題ない。

 だけどペンダントは未だ使われず、寂しく壁に掛けられたままだった。

 

「そうですね……どのレベルの筋トレをお望みでしょうか?」

「とりあえず体幹トレーニングと、フリーウェイトあたりですかね。自重トレーニングはもう卒業しておりますので」

「あまり高負荷なトレーニングはお体に悪影響ですよ? それに魔導師に過度な筋肉は不要です」

「わかってます。ですがアリエスさんも授業で言っていたじゃないですか。魔法を扱う者にとって接近戦は最も苦手とするもの、ゆえにある程度の体術会得は必須です。って」

「それはそうですが……筋肉モリモリな

魔導師なんて聞いたことがありませんよ」

「あはは……さすがにそこまでは目指してませんて……飛躍しすぎですよ」

「それもそうですね。フフフフ」

「あははは!」


 こうして僕はある程度のトレーニング器具を手に入れ、一日の工程が四つから五つに増えたのだった。

 塔内の部屋といえど、広さ的にはそれなりにあったので、器具を置いても大して問題にはならなかった。

 そして体を鍛えていけば、試してみたくなるのも自然な流れだ。

 トレーニングを始めて半年後、僕は王宮騎士団に交じり王宮式剣術を学んでいた。

 石礫のペンダントを付けていれば、僕がどんなに木刀で素振りをしようが、盛大に転ぼうが、全く認識されない。

 ペンダントの力は僕が持つ物、身に着けるものにも適用されるので、結構気軽に何でも出来る。

 たとえ道端で小石がコロコロ転がっていようが気にも留めない、それと一緒だ。

 大剣、小剣、斧、槍、弓、様々な武器を試した結果、僕に合っているのは小剣と槍だった。

 使いやすい得物が分かった僕は、それぞれの武器で達人級と呼ばれる騎士の型や体捌きなどを、見様見真似で学んでいった。

 盗んだ、とも言えなくもない。

 

「ガイアス様は魔導師と騎士、どちらを目指しているのですか……」

「どっちも、って言ったら贅沢ですかね……あはは」

「まったく……貪欲なお方ですねぇ」


 そうして僕はよく食べ、よく学び、よく戦った。

 なにせ五年後、適正が出なければ僕はここを出ていかなければならないのだ。

 結論から言ってしまえば。

十五歳で適正が出るというのは、可能性としてはほぼゼロであるといえた。

 僕が求められている適正は地に特化した適正だ。

 世間的に言えば適正レベル:Sクラス。

 適正にはEからSまでランクがあり、もちろんSクラスが最上級だ。

 四元教の大幹部である、地の使徒の座を継ぐにはそのSクラスの適正が求められる。

 兄姉達はもちろん全員Sクラス。

 将来使徒の座に収まる事は確定だった。

 もちろん魔法は四元素だけじゃあない。

 けどこの国で重要視されているのが、四元素だという話だ。

 全ての源、この世界を創造した根源たる四元素。

 光と闇がなぜ入っていないのかというのは……僕にも分からない。

 宗教ってそんなものです、とアリエスが苦笑いしながら話していた。

 余談ではあるけれど、この国の出生率はとても高くて、一家族に少なくとも五人は子供がいる。

そして貴族達は魔法適正によって成り立っている。

 出生率と貴族がどう関係あるのかというと、四属性のどれかの魔法適正がBクラス以上でなければ貴族として認められず、平民として扱われる。

 逆を言えば親が平民だったとしても、その子供がB

ランク以上の適正を叩き出せば、貴族として成り上がる事が出来る。

 そして貴族であっても、子供がBランク以下であれば平民に逆戻り。

 そういう背景があって、この国は出生率がとても高い。

 もっとも子供を増やせば経済的な負担も増えるので、平民では中々子供を増やせない。

 貴族は財力があるので、多めに子供を作れる。

 それに父母共に適正が高ランク同士であれば、その子供も高ランクの適正が出る事が多い。

 なので貴族から平民に落ちる事はあまりなく、平民から高ランクの適正が出る事もあまりない。

 割合的に言えばEからCが約七割、BとAが約二割、残り一割がSとなるけれど、適正Sを持つ者はほとんどいない。

 そして適正を持たない者は下民として扱われ、王都には住めず、各地の村へと追いやられる。

 王家であるグランシャリオ家は、必ずSランクが産まれるという不変の理があったが……僕だけそこから外れた、逸脱者だった。

 話が少し逸れてしまったけれど、世間一般的にも十五歳で、というのはほぼ聞かない。

 一縷の望みに賭けてはいるけど、僕の中ではもう王宮を出る事は確定事項なのだ。

 だから一人で生きていく為に、学べるものは徹底的に学び、取り込み、自分の生きる糧にする。

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