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秋乃晃

真実は、いつもひとつ!(だから編集でなんとかする)

 じいちゃん家の近所の洞窟に逃げ込んだドラゴンの動画は、おれの想像以上にバズった。やったぜ。おれのツ――Xのアカウントには、いろんなアカウントからDMが飛んできた。どうせCGだろ、みたいな失礼なもの(おれは命からがらドラゴンから逃げてきたんだぞ! ブロックじゃいブロック!)から各種メディアまで。海外のニュースサイトからの連絡はその現地の言葉を翻訳しなくちゃならなくて結構つらかった。対応に追われながらの一週間は、おれの人生の中でも最も忙しかった一週間かもしれん。


 DMん中には『ドラゴンの行方を追っています』というものがあった。本業モンスターハンターの方かと思いきや、ググったら実在する企業の名前が出てきちゃったからマジなやつ。

 ドラゴンのそばに死体があったじゃん? 編集で消したんだけども。「妹の死体がありませんでしたか?」って送られてきて、編集の時に何度も見返した動画のアップロードしたバージョンを見返しちゃったよね。

 あの死体がそのDMの送り主さん(早乙女さんとおっしゃるらしい)の妹さんらしくて、ほならおれが言わないでいたら何も悪いことしてないのに隠蔽工作してるみたいでやな感じだから、場所も教えた。

 そしたらその日のうちに、おれの村では初めて見るぐらいのたくさんの大型車が押し寄せてきちゃって。オオゴトになっちゃったよね。村の人総出で「なんだなんだ」の野次馬根性丸出し。お客さん方はおれらに興味なし。

 すんごい近代的な武装をして数十人がかりで洞窟に攻め入り、小一時間後にはドラゴンを大胆カットして運び出していた。胴体を輪切りにして、トラックに積む。

 殺しちゃったのか。あらま。なんか上手いことならなかったのかね。でも対話不可能だからなあ。ドラゴン相手に交渉はできないよな。おれもめっちゃ威嚇されたしよ。


 ドラゴンの頭部は、最後に運び出された。

 その金色こんじきの瞳が、おれを


 おれは耐えきれずに目を逸らした。……おれが何を引け目に思うことがあるだろうか。いや、ない。洞窟の奥にドラゴンがいるってのに、知らんぷりして、ここで生活して行けばよかったってのか。ドラゴン、暴れるかもしれないよ。言葉通じなかったし。


 おれの動画のおかげで、ドラゴンは退治され、村の平穏は守られたってことでひとつ。

 早乙女さんたちからも感謝されたし、よかったんだよこれで。


 ここでは言えないぐらいの謝礼金をいただいて、おれとじいちゃんの暮らしぶりはちょっとよくなった。


 ――そんなわけで、次の動画を用意しなくちゃ。


 金は使えばなくなる。おれとじいちゃんの二人暮らしを維持していくためにも、新進気鋭の動画クリエイターとして、次のネタを探さないとだ。じいちゃんはすげえ発明家だから、じいちゃんの発明品を順番に紹介していく動画でもいいし、じいちゃんに流行りのゲームをやってもらうゲーム実況動画でもいいんだけども〝ドラゴン〟の次の動画としてはネタが弱い気がするんだよなあ。先駆者がいるから。


 で。

 ツイ――慣れねえなこれ。XだよX。Xで見かけた都市伝説の真相を解明する動画を撮りに行っちゃおう。ってわけで、おれは謝礼金で購入したミニバンを走らせて、神社なう。ドラゴンを撮影したときと同じブイログカメラが相棒だ。またいいを撮ってくれよな。


「夏ですなあ……」


 入道雲。セミの鳴き声。高く伸びるヒマワリ。ザ・夏。夏いねえ。


 石段を一歩ずつ登っていく。この辺ちょいと過疎ってるもんで、昔のおれみたいな『長期休みの間だけ田舎に預けられる都会っ子』ぐらいしか子どもの姿はない(今のおれがじいちゃんと暮らしているのは、じいちゃんが要介護状態だからだ)。基本的にじじばばしかおらん。


 『虫取りするガキをニコニコ眺めるお姉さんの謎』


 おあつらえ向きに虫取りに興じているガキが、……いた。いたよ。この神社、昔っからカブトムシの狩場として有名だったからなあ。ナイスすぎる。おれの読みが冴え渡りすぎている件。その様子をニコニコと眺めているお姉さんもいる。白いワンピースに、つばの広いキャップをかぶっている清楚系美人さん。


 早速ブイログカメラを構えたら、ガキのほうがおれに気付きやがった。

 虫取っててええんやで。


「おにいさん、何?」

「ん。ユーチューバー」

「チャンネル登録者何人?」


 うっ。数字。数字がものを言う世界。数字こそステイタス。


「盾持ってんの?」


 うっ……盾にはまだぜんっぜん届かない数字……。あともう一回、いや二回は再生数が万を超えないときちい……。それでもダメかもしれん……。

 おれが口ごもっていたら「なんだよお。つまんね」と言い捨てて虫取りに戻っていった。ヒカキンと知り合いなんだぜうらやましいだろぐらい言いたかった。全然知り合いじゃないが。おれの知名度、まるおともふこ以下だよ。くそう。おれもみそきんを送られたかった。まだ食べたことないし。


「あの、おにいさん?」


 足音もなく近寄ってきたお姉さんの声に「うわっ!」と声を上げてしまう。

 セミファイナルよりびっくりしたわまったく驚かせやがってハッハッハ。


「ねえちゃん、そんなクソザコど底辺配信者、無視しようぜ」


 図星すぎてぐうの音も出まへん。ガキが。これ見よがしに美人お姉さんの手を握りやがって。お姉さんの手じゃなくて虫を取ってろよ。虫掴んだ手でお姉さんの手を握るな。なんかバイキンついてるかもしれないだろうが。

 つーか、なんで戻ってきたんだよ。虫逃げるぞ。それともこの辺一帯の虫をおれが追い払ってやろうかゴキジェットでな。


「クソザコど底辺配信者さん……?」


 そんな綺麗な透き通った瞳と有村架純さんのようなお顔をお持ちなのに口汚い言葉を復唱しないでくれ頼む。その小首を傾げるポーズは素敵ですね。


「あなたはそのクソガ、いいえ、そちらの男の子とはどういったご関係で?」

「弟ですが……その、弟が何かご無礼を?」


 ははあ、なるほど。そういうことね。完全に把握したわ。姉と歳の離れた弟くんね。


「なんもしてねーよ!」


 なんもしてないってことはないだろ。

 お姉さんが美人じゃなかったら一発殴ってるところだわ。


「おれは最近この辺に越して来たんですが、近くにお住まいなんですか?」

「母の田舎がこちらに近くて……弟がどうしても『カブトムシを捕まえる』と言うので、今日はわたしが付き添いで」

「それでニコニコしてらしたと」

「わたしも昔はやんちゃだったもので、つい微笑ましく……」


 やんちゃ。そうは見えない。清純派で、温室育ちの御令嬢といった雰囲気がある。


「もういいだろ! ねえちゃん、あっち行こうぜ!」

「あ、えっ、……すいません、これで失礼します」


 弟に乱暴に引っ張られて、フェードアウトしていくお姉さん。田舎がこちらに近いってなら、もしかしたらそのうち夏祭りでうっかりばったりの再会もありえる。浴衣姿! いいね! うん! 運命の再会を楽しみにして、今日のところは帰っ


 ――この話おもんなくない!?!?!?!?!?


 おもんない。動画にしてもしょうもなさすぎる。なんだよこれ。『虫取りするガキをニコニコ眺めるお姉さんは、ガキの姉でした』なんて、ちっともおもんないやん。


 帰って素材を見せたら、じいちゃんからは「美人に鼻の下を伸ばしていただけじゃろ」と鋭いツッコミを喰らった。つらい。ど正論パンチがえぐいて。ミニバン走らせながらわかっちゃいたことだよ。いや嘘。お姉さんの可憐さを思い出してウキウキしてた。ごめん。じいちゃんも夏祭り行こうな。


 となれば、編集でなんとかするしかないよなあ!?


 せや、アフターエフェクツや。おれは形から入るタイプなもんで。アドビのクリエイティブクラウドのコンプリートプランに月6480円を払っているのだ。6480円も払っているんだから、使わなきゃ損ってもんよ! 活用しまくらないと!


 ええと……お姉さんの顔は隠して……あっ、名前聞くの忘れたな、おれとしたことが。ニコニコしているお姉さんだから、口元は残しとかないとニコニコしてるかどうかわかんないな。よしよし。足を消しゴムマジックよろしく消しちゃって。幽霊っぽい感じにして。BGMはトワイライトゾーンにしよう。

 おお! それっぽくなってきた!

 あとは、ガキのほうか……ガキは、虫を捕まえることでお姉さんを蘇らせようとしてる、って筋書きでどうだろうか。よくね? ちょっとファンタジーすぎるか?

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