第11話 雰囲気の重要性

 ――雰囲気は人を魅了する。

 これまでに読んだ小説で、好きな作品を思い浮かべてほしい。その作品の持つ雰囲気は、おそらくその人にとって好みのものであろう。


 文体、展開、人物の性格、ほかにも雰囲気に関わるものがあるかもしれない。とかく雰囲気は小説に欠かせないものではなかろうか。


 これが怖い、この人物が好き、それにはどうも雰囲気が関わっているようなのだ。キャラクターに個性があるとしても、活躍する場(ストーリー)が合っていなければ、けしてそのキャラクターが、いきいきとすることはないのではないか。


 つまりキャラクターは、読者のなかでは死んだ存在になっているのではないか、という疑問である。


 たとえば、小説家になりたい主人公が、親や友人に「無理だ」と言われながらも執筆を続け、(才能があるにも関わらず)とうとうメンタルが崩壊してしまう、という小説があったとしよう。


 ここでは一見して、「キャラクターが活躍する場は、あまりにも悪いんじゃないか」と思う人が出てくるだろう。しかし、僕が言いたいのはそういうことではない。


 ――作者にとって、登場人物はなぜ必要なのだろうか。


 これを考えたとき、書きたい作品があるからこそ、登場人物がいるのではないか、と僕は思う。


 だから、活躍する場というのは、必ずしも登場人物をしあわせにするものではないように思える。むしろ、不幸になっていくにつれて、新しい気づきを得られるかもしれない。活躍する場をわざわざとしたのも、ここに重きがある。


 だから、場合によっては登場人物さえ不要になる。


 『部屋の中の本』(刻堂こくどう元記もとき)は、登場人物が一切出てこない短編小説だ。


 時々、作者という存在が現れそうになるものの、それを逆手に取って、上手いこと雰囲気そのものにしている(怪談を語る人のように)。


 だから、登場人物には作者さくしゃという言葉も含まれない気がする。むしろ、幻想的な世界を形成しているようにしか、思えてならない。そして、部屋の中の本が自然崩壊するとき、読者は何を思うだろうか。


 僕はこの独特な世界観がとても好きだ。カクヨムで公開されているから、ぜひ読んでほしい。


 ところで、文章による雰囲気の違いはわかりやすいように思う。たとえば、


 ――筆者は幾度となく原稿を破いてきたが、いまだ拙作に自信を持てない。


 ――僕は、かなりの枚数をボツにしたにも関わらず、いまだに自作品に自信を持てない。


 雰囲気が、ずいぶん違ったのではないか。どちらが良いということはない。好みの問題だからである。


 しかし、それだからこそ文体は重要なのだ。ひとつの文体で貫くか、あるいは他の文体も習得するか――これはもう、作者の自由である。ただ、他の文体を習得したいならば、今すぐ作品を書きながら練習したほうがいい。


 なにせ、時間がかかる。それでいて、書きたい作品の雰囲気に合う文体が、いま書いている文章ではミスマッチするかもしれない。


 たとえば、ギャル語ばかりの本格ホラー小説は、読者に真の恐怖を与えないかもしれない(とても読んでみたいのだが)。


 だが、テンポというのは大事だと思う。句読点の位置は、雰囲気を表しやすい。たとえば、


 ――いや、違うだろ!


 ――いや違うだろ!


 雰囲気の違いが、お分かりいただけただろうか。場面によって、どのキャラクターが言うかによって、冷静なツッコミとも受け取れる。


 こういう意味で、とても珍しい作品をカクヨムで発掘した。ホラー小説『てとりすげーむ』(うわさのはちみつ)である。ある意味では、これも実験的小説かもしれない。


 山田やまだ悠介ゆうすけという小説家をご存じだろうか(映画『リアル鬼ごっこ』の原作者)。噂のはちみつなる作者は、とても山田悠介に似ている。山田悠介を知らないならば、「もしも」の世界を書くのが上手い人だと思えばよい。


 ――もしも自殺スイッチを持たされたら。(『スイッチを押すとき』山田悠介)


 という意味での「もしも」の世界。

 息をするように、作者と山田悠介はわかりやすい文章、読んでみたくなる設定が、同調しているように感じた。


 室内自体の描写もほしいところだが、残忍なゲームの状況描写は欠点を十分におぎなっていた(グロ要素には注意)。そこには、リアルだからこそ恐怖がある。

 ぜひこちらも読んでほしい。


――

 刻堂元記さん、噂のはちみつさん、掲載の許可をくださり感謝します。この場をもってお二人へ、読者からも拍手を送っていただきたいです。お二人のご健康とご活躍を、心よりお祈り申し上げます。

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