第2話 一生涯不遇な小説家(2)

 彼は、お金を稼ぐ才能をまるっきし持っていなかった。もちろん、職を探して面接も受けたのだが、ラヴクラフトには一度も転機が来なかった。

 が不得意な彼は、面接では、誇張もなく質問に答えていき、たとえ自分が不利になろうとも、一切嘘をつかなかったからである。


「下手に意地を張るからだ」

「生きるためには仕方がないだろ」


 と正直に思った人は、多いのではないか。実際、僕もその通りだと思う。しかし、人は誰しも理想を持っていると、僕は考えている。言い換えれば、、とでも言えるだろうか。


 ラヴクラフトは、自分の小説に妥協を許さなかった。これで文字数を増やそう、出版社の希望通りに書こう、という妥協である。ただし、彼も出版社に指示されて、希望に沿った作品を執筆したことがある。そういった作品はどうなったのか。

 ――結局、没後もあまり読まれなかった。


 彼は理想の小説を追求した。無断で出版社に小説を改稿されようとも、罵りながらでも書き続けた。


 そして没後、ラヴクラフトは怪奇小説の権威者として、あるいはクトゥルフ神話の創始者として、世界中に名を馳せるようになったのである。

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