冷蔵庫にはプリンとコーヒーゼリーが詰め込まれていた。
ㅤ風邪をひいた。最悪だ。体調が悪いというのは最悪だ。毎日ほんのちょっとのやる気を絞り出して生きている身からすれば、ほんのちょっとの不調が命取りだ。今日はもうダメだ。何もできない。布団にもぐり直し、自主休講の覚悟を決める。頭が痛い。喉が渇いた。冷蔵庫が遠い。
ㅤあいつの顔が頭によぎる。あいつが今ここにいたら、スポーツドリンクやらプリンやらを冷蔵庫に入り切らないくらい抱えて「どれにする?」と問いかけてくるだろう。そんなに色々はいらない。ただ水がほしい。喉が渇いた。
ㅤあいつは月曜一限の選択科目を敢えて選択するような奴だから、今頃講義を受けているのだろう。いつも余計なときに居るのに、いてもいいときに限って居ない! 脳内で気が済むまで悪態を着いていると、次第に睡魔に飲み込まれた。
ㅤスマホの通知音に起こされた。体はだいぶ楽になっている。部屋の中は暗い。もう夜だ。手探りでスマホを探し当て、電源を付ける。画面の明るさに一瞬怯むが、開いたメッセージ画面の騒がしさは画面の明るさなんかの比じゃなかった。
『今夜はすき焼きだよ!』
すき焼きを食べるスタンプ。スキップするスタンプ。生肉のスタンプ。……生肉のスタンプ? 愉快に彩られたメッセージに返信をするよりも早く、隣の部屋からの物音に気付く。恐らく奴はもうすき焼き作りに励んでいるのだろう。
ㅤさんざん寝たので最早眠気も無いし、今日一日何も食べていない。たまには手伝ってやろうかと布団から起き上がる。少しふらついたが、肉でも食べれば明日は元気になるだろう。
ㅤ期限の良さげな鼻歌の聞こえる隣の部屋への扉に手をかけた。
死のうとしたら親友に死体を食べたいと言われた件について 伊予葛 @utubokazura
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