両片想いのツンデレ幼馴染にプロポーズをもう一度

恣迷

ショートストーリー


「ハルちゃん、大きくなったら僕のお嫁さんになってよ」


「えぇぇ……イヤ。だってトウマ、泣き虫で男らしくないんだもん」



 大好きな幼馴染に、こっぴどくフラれた12年前。


 今でも俺の気持ちはあの時のまま。


 今年もまた、この季節がやってきた。



~~~~~~~~~~



「すみません、前日予約はさっきの方がラストだったんです」



 俺の目の前には『間に合わなかった』っと、がっくり肩を落とす男性が立っていた。



「お約束はできないんですけど、キャンセルとかもあるかもしれませんから」


「そうなんだね!? ありがとう! それに賭けてみるよ」



 トナカイの着ぐるみに身を包み、俺は路上でクリスマスケーキの前日予約を受け付けていた。



冬馬トウマ君、お疲れ様。今日はもう上がっていいよ。明日はイヴだけど、明日も明後日も、本当にいいのかい?」


「店長、お疲れ様です。残念ながら特に予定もないので気にしないで下さい。短期のバイトって、今の俺には、本当にありがたいんです」



「それならいいんだけど。よろしく頼むね!」


「ハイ!!」



 部活で忙しい俺にとって、この短期集中バイトは本当に助かる。たまたま部活のオフや、部活が早く終わる基礎体力強化の日と相まって、俺は短期バイトに採用されることとなった。



 クリスマスだからって、俺には何の予定もない。そのことも大きな理由ではあるんだけど。

 


「冬馬君。はい、今日の分」


「ありがとうございます!」



 そう! このバイトは短期で、更に日払いという俺にとっては、最高の条件だったりする。



 なぜかって? 今からちょうど2週間ぐらい前ーーーー



~~~~~~~~~~



「冬馬君、おはよ」


「ゆうこさん、おはようございます」



 俺が家のゴミを捨てに玄関から出て少しすると、向かいの家から同じようにゴミを持った女性が出てきた。



「今日は一段と冷え込んだわね」


『寒いですよね。あっ、俺、持っていきますよ』っと、ゆうこさんへと歩み寄る。



「冬馬君は相変わらず優しいのね。ありがと」


「そ、そんなこと」



「うちの春香ハルカも少しは見習って欲しいわ」



 そうボヤいたゆうこさんから、俺は無言でゴミを受け取り、ゴミステーションへと向かう。なぜかゆうこさんは家へ戻る訳でもなく、俺の横へと並んで歩いてくる。



「冬馬君、背伸びたね。ほんっと、男前になちゃって」


「そんなこと言ってくれるのは、ゆうこさんだけですよ」



 昔からゆうこさんは、何かと俺のことを良く褒めてくれる。



 ゆうこさん一家が引っ越してきたのは、俺が3歳の時。それからしばらくして、家族ぐるみの付き合いが始まった。春香とはその時からずっと一緒。同い年だった俺たちは、幼稚園も、小学校も、そして中学校もずっと一緒。


 そして俺と春香は高校まで、一緒だったりする。



 そんな幼馴染となんとなく距離ができたのは、中学生になってから。両家合同イベントにも、自然と春香は参加しなくなっていった。



「…………君?」


「トウマ君!?」




「あっ! す、すみません、ゆうこさん」


「あら、私に見惚れちゃってたかしら?」



 小悪魔のように笑うゆうこさんは、なんだか昔から変わらない気がする。きっとそんなことはないんだけど、綺麗だってことは変わっていない。


 幼い頃に『おばちゃん』って呼んだ俺は、猛烈に怒られた。その時から『ゆうこさん』っと呼ばされるようになって、いまだに俺はそのまま『ゆうこさん』と呼んでいる。



「春香ね、今年はマフラーが欲しいって言ってたわよ」


「そうんなんですか?」



「あの子、まだサンタさんがいるって信じてるの」


「えぇ!?」



『冬馬君、秘密よ秘密』っと、唇に人差し指を当てながら、またどこか悪そうな、そんな笑みを浮かべている。



 そして俺は、サンタになるべくバイトを探したのだった。



~~~~~~~~~~



「突然ですが今日、シングルベル会やりまぁす!!」



 クラスの男女数人が、黒板の前に立ったかと思うと、そんなことを元気よく発表した。



「おぉぉーー!!」

「いいねぇ!!」


 場の空気も重なり、次々と賛同の声が上がる。



「せっかくのイヴだし、明日は終業式! 部活休みの奴も多いだろうから、暇な奴はいこうぜ!!」



 いつも賑やかな時間の昼休み。俺たちの教室は、異様な空気に包まれていた。



「シングルベル会、参加する人ーー!?」



「「「はーい!!」」」



 けっこう多いな……って、ほぼほぼ全員じゃないか!?



 俺はクラスメイトを見渡しながら、一番気になる相手に目をやった。


 

「あっ……」



 春香も手を挙げてない。予定、あるのかな?



 ついつい春香を見つめてしまっていた俺は、ふと彼女と目が合った。予想通りというか、なんとも切ないというか。俺は春香にキッと睨まれる。


 残念ながら俺、なぜか嫌われている。今ではほとんど、口もきいてもらえないほどに。



 5歳のクリスマス。俺は春香に一度フラれている。結婚の約束なんて、たぶん、幼馴染にはよくある話。普通なら、そこでOKしてもらえるんだろうけど……そうじゃなくて。


 今でもその時の言葉を、ちょっと引きずっている自分がいる。



 それでも、やっぱり春香が好きだった俺は、どうしても振り向いて欲しくて、ずっと春香と一緒だったと思う。


 そんな二人にに距離ができたのは、俺が部活に入ってからのような気がする。



 少しでも男らしくなりたくて。春香を守れるような存在になりたくて。俺はラグビー部へと入部し、今でもラグビーを続けているんだけど。


 皮肉にも、俺が頑張れば頑張るほど、春香との距離は遠くなっているような、そんな気がした。


 

「春香は来ないの? あっ!! デート!? いいなぁ」



 前に出ていた女子生徒の一人が、そう大きな声で口にする。周りにいた男子生徒からは、溜息だったり、怨み言が吐き出されていて。まるで教室が怨念のふきだめとなっているみたいだった。


 当の本人は、この状況になぜかキョトンっとしていて。なんだか浮いているような。



 俺はというと、覚悟はしていたモノの……12年の片思いに終止符が打たれた、その瞬間。


 まあ、そりゃそうなんだよな。ゆうこさん譲りの美貌と、俺以外のみんなに優しい春香は、中学生の時から、ずっと学校中の男子にモテまくっていたから。



 やっぱり彼氏がいたのかって、わかっていた現実を改めて突きつけられた気がした。



「あれ? 冬馬君も来ないの? もしかして……春香と?」



「おい!! 冬馬! そうなのかよ!?」


「お前ら確か、幼馴染だもんな!!」



 人の傷口に塩を……



 小、中と同じ学校に通っていた男子生徒が、まるで自分だけ知っている秘密を、みんなに暴露するかのようにドヤ顔で俺を見ている。



 とりあえずこの異様な場を収めるため『違うから』っと、簡単に否定だけする。



 クラス中の注目が俺に集まる中、俺は重い気持ちを振り切るように、再び春香の方に目を向ける。俺に映ったのは、今まで一番険しい表情で顔を真っ赤にさせながら、俺を睨みつけている幼馴染の姿だった。


 あぁぁ、俺と誤解されたこと、間違いなく、めちゃくちゃ怒ってるんだな。



「バイトなんだよ」


 俺はそう、ただ事実を伝えただけなんだけど。



「冬馬君、バイトなんてしてなかったじゃん?」


「ホントは彼女いるんでしょ?」


「ショックぅぅ」



 な、なんでだ?



 『えーー』っという声と共に、クラスの女子があっちこっちでコソコソと話をしている。春香と特に仲の良い女子生徒が、彼女の元へと集まり、何やら深刻そうに話をしているようだった。


 俺の視線に気がついた春香は、目を細め、明らかに何かを疑っているようで。なぜか凄く悲しげな表情を浮かべた後、わかりやすく顔を逸らされた。



 そんな教室では



「シングルベール♪ シングルベール♪」



 俺の気持ちとは程遠いほど、明るい替え歌が鳴り響いていた。



~~~~~~~~~~



「春香、ママさっき、冬馬君に会ったんだけど、本当にカッコよくなったわよねぇ」


「ま、ママ? 急にどうしたの」



 そんなこと……ママに言われなくたって、ずっとそう思ってるし。



「それに重たい物をさりげなく持ってくれて。昔から優しいのよねぇ、冬馬君」



 冬馬が優しいのなんて……誰よりもわかってるんだから。



「ぐずぐずしてたら、誰かに取られちゃうよ、冬馬君。ママ、後で春香が泣くことになっても、知らないんだから」



 ママとそんな会話をしたのは、少し前のこと。小さい頃からママは『冬馬君は絶対カッコよくなるから』って、口癖みたいに言っていた。


 そんな冬馬の幼少期は、泣き虫で、いつも私の後ろにくっついていて。うちのママが甘やかすから、本当に甘えん坊で。でも、そんな冬馬が、本当は大好きだった。



 5歳のクリスマス。お嫁さんになってって言ってくれた冬馬。幼馴染によくある、将来の約束。二人の思い出に残るような場面。幼いながらにひねくれていた私は、彼に酷い断り方をした。


 それなのに優しい冬馬は、そんな私ともずっと一緒にいてくれて。



 なのに……



 中学でラグビー部に入部した冬馬は、身長も伸びて体も逞しくなってきて。徐々に女子生徒から評価が上がっていた。どんどんカッコよくなっていく冬馬を直視できなくなって。気がつけば、まともに会話すらできなくなるほど。


 高校に入ってからも、状況が悪化するばかり。日増しに冬馬との距離が、遠くなっていくようにさえ感じていた。



 ママの『冬馬君は絶対カッコよくなるから』って言葉。当時は笑って聞いていたのに……今では泣きたくなる。もうこれ以上、私から離れて行かないでって。



 全部、素直になれない。私がいけないのに……





「ねぇ、春香! 春香ってば! 聞いてるの!?」


「えっ? あっ、ごめん」



「ホントは春香、冬馬君とデートなの?」


「ち、ちがうよ。私は今日、ママとクリスマスケーキ作るって、約束したから」



「えぇぇ、じゃあ冬馬君、本当にバイトなんだぁ」



 ううん、絶対違うと思う。ママからも冬馬がバイトしてるって話、聞いたことないから。


 そう思った私は、ふと冬馬と目が合った。その瞬間『ぐずぐずしてたら、誰かに取られちゃうよ』って言葉が、何度も頭の中で繰り返された。



~~~~~~~~~~



「クリスマースケーキ、本日は完売です!!」



 疲れたぁ。この時期のケーキ屋さん、ハンパない。マジで半端ない。



「冬馬君、お疲れ! 今日は例年より早く完売したよ」


「それは良かったです」



 サンタの衣装を着た俺は、慣れないつけ髭を触ってみせる。



「はい、今日の分。欲しいものは買えそうかい?」


「実は昨日、もう買ったんですよ」



「え? もしかして」


「大丈夫です! 明日まできっちり働きますから!!」



「すみません、売り切れ……ですか?」


 

 あっ、昨日の



「申し訳ありません。今日の分は完売したんです」


「そうなんですかぁ」



 店長の言葉に、今にも崩れ落ちそうな男性客。俺はそんな男性客を見て



「あっ! 奥にひとつ残ってますよ。ちょっと待ってて下さいね」


「ほ、ほんとかい!?」



 俺は家族用に取っておいたクリスマスケーキを男性客に手渡した。



「冬馬君、それは……」


「いいんですよ、店長」



「こ、これは君のじゃないのかい!? 受け取れないよ」


「お客さん、いいんですって」



 男性客は申し訳なさそうに『でも』っと続けようとしたので、遮るように俺は自分の話を始めた。



「僕も幼い頃、父親が買いそびれたことがあってですね。それで母さんが、母が凄く不機嫌になっちゃって。しまいには喧嘩しちゃって。だからそのケーキを、お譲りしますよ」


「そうは言っても」



「僕はひとりっ子で、うちには小さい子もいませんから、お気になさらずに。メリークリスマス!」


 男性客はまだ少し申し訳なさそうにしながら『じゃあ、遠慮なく買わせておらうよ』っと、財布からお札を一枚手渡してくる。



「お釣りは受け取れない。もう、お金で買えないモノを譲って頂いたのだから。君の好きなモノを買って欲しい。メリークリスマス」



 呆気に取られた店長と俺を尻目に、男性客は消えるように店からいなくなった。



「なんだか心を打たれたよ、君の行動に」


「クリスマスケーキって、特別ですから」



「私は今まで、お客さんの笑顔だけを考えてこの仕事をしてきたけど、そういったこともあるんだな」


「さっきの話には続きがあってですね」



 ・・・・・・・・・・



『ピンポーーン』



「あら冬馬君、どうしたのこんな時間に?」


「ゆうこさん、はるちゃん……ぐひっ、えぐっ」



「トウマ、どうしたの?」


「パパとママが喧嘩して。ケーキ無いって」



「あ! そういうことね。春香、冬馬君をお家に入れてあげて。ママはちょっと冬馬君のお家に行ってくるから」


「はぁーーい! トウマ、行こう」



 春香に手を引かれながら、泣きべそをかいていた俺は、リビングへと連れて行かれた。



 その年から、クリスマスはいつも春香と一緒。家族ぐるみの付き合いが始まったきっかけは、クリスマスケーキだった。



 ・・・・・・・・・・



「あっ、店長すみません、ちょっと電話が」



 ゆうこさんからだ。どうしたんだろう?



「もしもし?」


「冬馬君、春香と一緒じゃない?」



 電話越しのゆうこさんは、なんだか慌てているようで。



「違いますけど、どうして?」


「まだ帰ってきてないのよ!」



「デートじゃないですか?」


「誰と? 冬馬君と?」



「ち、違いますよ! 俺はバイトですし。春香、今日は予定があるって学校で」


「そんなはずないわ。今日、一緒にケーキを作るから早く帰ってくるって……ちょっとごめん、電話切るわね」



「え? もしもし? もしもし?」



 春香に何かあったのか!? 



「店長、すみません! 今日はもう終わりですよね!? 俺ちょっと行きますんで!!」


「あっ、あぁって、そのまま行くのかい!?」



 俺は店長の言葉もよく聞かないまま、店を勢いよく飛び出した。



~~~~~~~~~~



 「はぁ、はぁ」



 無我夢中で走っていた俺は、家の近所の公園まで帰りついていた。


 近道をする為、公園を通り抜けようとした時、ブランコのベンチにポツンと座っている女子生徒を発見する。


 すぐに春香だと気付いたものの、ずっとまともに会話もしていないこともあって、なんて声を掛けたらいいのかわからずに。


 俺はゆうこさんへ連絡をしようと、スマホを取り出す。



 「シングルベル会の……」



 スマホの通知に、クラスのグループから何通も投稿されていた。



 そうだ!



「シングルベール♪ シングルベール♪」



「とう……ま?」


「サンタさんだ」



「ぶっ……もぉ、なによ」


「春香こそ何やってんだよ? こんな時間まで。みんな心配してるぜ」



「デートは?」


「はっ?」



「デートだったんでしょ?」


「こんな格好でか? バイトだって教室でも言っただろ」



「でも……」


「春香こそ、デートだったんじゃないのかよ?」



「誰と?」


「いや、その……彼氏と」



「いないよ、彼氏なんて」



 少しだけ笑顔を取り戻したような彼女は、再び下を向く。


 春香とこんな風に話したの、いつぶりだろう。



「……だったの?」


「え?」



「ホントにバイトだったの?」


「じゃなきゃただの不審者だろ。いや、サンタさんか」



 春香は『そっか』っと呟いて、スッとブランコから立ち上がった。



「俺とじゃ嫌かもしれないけど、帰ろうぜ」


「イヤ、じゃないよ……イヤなんかじゃない!!」



 そう強く否定した彼女の頬には、なぜか涙が伝っていて。



「ど、どうしたんだよ、春香」


「わかんない」



 わ、わかんないって……



「俺も一緒にゆうこさんへ謝ってやるから」



 無言で立ちすくむ春香は、すすり泣いているようで。昔は逆だったんだけどなって、そんなことを思った俺は、春香がしてくれていたみたいに『ほら』っと、手を差し出した。



「ふぇ、冬馬?」



 少しだけ戸惑ったようだった春香は、すぐに俺の差し出した手に、その小さな手を合わせてくる。最後に手を繫いだのが、いつだか覚えていないけど。


 数年振りに繫いだ幼馴染の手は、氷を思わせるように冷たくて。長時間外にいたのが、すぐにわかるほどだった。



「春香、一緒に帰ろう」


「うん。冬馬の手、温かい」



「走ってここまで来たからな」


「冬馬、ごめんね」



「俺はいいから、ゆうこさんに謝れよ」


「今日のことじゃなくて。ずっとごめん。冬馬、ごめんなさい」



「ん? あぁぁ俺、春香に嫌われたんだって……って、春香!?」



 繋いでいた手をパッと離したかと思うと、春香は後ろから勢いよく俺へと抱きついてきた。



「違う! 違うの。好きなの、大好きなの冬馬のこと。ずっと、ずっと冬馬のこと。あの時……今でも後悔してる」



 突然のことで、身動きできなくなっていた俺は、春香に返す言葉もすぐに出てこなくて。



 そんな俺の背中へ、春香はぎゅっと顔を埋め込んでくるように『もう……遅いよね』っと、震えながら呟いた。



 腹部に回された春香の小さな手に、俺はそっと手を添える。



「イヴなのにさ、俺たちの街には、一度も雪なんて降ることはなかったな」


「え? うん、そうだね」



「月が……本当に月が……綺麗だ」



 少しの沈黙が聖なる夜を迎え入れたように。



「ずっと、ずっと前から、月は綺麗だったよ」



 12年越しの片思い。本当は両想いだったみたいだ。



 そんな幼馴染は『冬馬の手、昔から温かいよね』っと、泣いているのか、笑っているのか、わからないような顔をしながら、再び俺の手を繋いでくれた。



~~~~~~~~~~



「あなた、帰ってきたわよ!!」


「春香!!」



 あの後すぐに、俺はゆうこさんへ連絡を入れた。春香はというと、ただ単にスマホの充電が切れていただけだった。



「ただいま」



 ゆうこさんは手を繋いで帰った俺たちを見て『おめでとう』っと、優しく祝福してくれる。春香の親父さんは、色んな意味でなんだか涙目になっていた。



 春香は俺と繋いでいた手を急に離し『ちょっと待ってて』っと、家へ入っていく。どこか傷心した親父さんも、一緒に家へと帰っていった。



「冬馬君、本当にサンタさんになったんだ」


「こ、この格好は」



 ゆうこさんは『例の件は任せておいて』っと、俺にウインクしてくる。やっぱり綺麗だなって、ちょっぴりドキッとした。



「ごめん、お待たせ。もぉ、ママはお家に帰ってよ」


「はいはい、お邪魔虫は消えますよぉだ」



 そう言いながら、俺へとサムズアップしたゆうこさんも、家へと戻って行く。



「冬馬、メリークリスマス!!」


「え?」



「うふふ、驚いた? 本当はね、今年の合同クリスマス会、久々に私も出る予定だったんだ」


「そうだったの!? 俺は毎年出てたけどね」



「冬馬が出ないと、うちのママが荒れるから」


「う、うん。それはそうと春香、プレゼントすげぇ嬉しいよ」



「開けてみて」



 プレゼントは割と小さ目な箱に入っていた。俺は包装を丁寧にほどいていく。



「俺が欲しかった時計じゃん!? な、なんで」



春香は得意げに『ふふふ、サンタさんはね、いるのだよ』っと、俺の付け髭を引っ張ってくる。



「冬馬、おやすみ」



 呆気にとられていた俺をおいて、春香はサッと家へ戻っていった。


 俺はプレゼントの時計を早速腕につけ『確かに、サンタさんはいるんだよ』っと一人呟やいた。



~~~~~~~~~~



 AM7:45



 俺は昨日、遥香が腰を掛けていたブランコに一人座っていた。ブランコの不安定感が、なんとなく落ち着かない、俺の気持ちを表しているようで。


 すぐに俺と同じ学校の制服を着た女子生徒が、マフラーを首に巻いて近づいてくる。



「冬馬」


「春香、メリークリスマス」



「私のところにもね、サンタさんが来てくれたの」


「俺みたいに、良い子にしてたからか?」



 少しほっぺを膨らませて『もぉ』っと口にした春香の顔は、紅潮しているようで。



「春香のことが、ずっと……今でも大好きなんだ。俺の、彼女になってくれないか?」



 昨日、ちゃんと伝えられなかった言葉を、春香と向かい合って口にする。



  俺の言葉に、ちょっと俯きながら、マフラーのさっきを摘むようにして触っている春香。パッと顔を上げたかと思うと、明後日の方を向きながら『イヤ』っと返してくる。



「え?」


「イヤ」



 なんで? ここは成功の流れじゃないの!?



 まさかの返事で全てが停止している俺に、春香は勢いよく抱きついてきた。そのまま上目遣いに俺の顔を覗き込みながら



 「12年前のクリスマス。あの時みたいに言ってくれなきゃ……イヤ」



 俺はツンデレな幼馴染に『俺のお嫁さんになってくれますか?』っと、もう一度プロポーズしたのだった。



       『あとがき』


その夜の合同クリスマスパーティにて



完全に酔ってる春香の親父さんから『冬馬、春香を……春香を幸せにしてくれよ』っと、涙ながらに何度もお願いされる。


そんな状況を見かねたゆうこさんが『二人でちょっと夜風に当たってきなさいな』っと、俺と遥香の親父さんは庭に出された。



「でも、冬馬ならいいんだ。いいんだよ」


「あっ、ありがとうございます」



「ゆうこのやつな、ずっと男の子が欲しいって言ってて。でも、あまり体が強くなかったから。冬馬……ここに引っ越してから、そんなことも言わなくなったんだよ。たぶん、冬馬を自分の息子みたく思ってるんじゃないか」


「えっ?」



「俺はお前に、ゆうこだけじゃなく、娘まで取られるのかよぉぉ」



いやいや、親父さん……



「俺は親父さんも、ゆうこさんも、本当の両親みたく思ってますから」


「とうまぁぁ」

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