「第四十話」ダルクリースの『剣聖』

「息子を、誇りに思っていた」


ジグルドは蹲るソラの元にしゃがみ込み、その背中を擦った。


「優しく、強く……殺すという選択を取らない事を決めた、ジークが誇りだったんだ」


だが。ジグルドは、吐き出すように言う。


「君の言う通り、例え殺してでも生きていてほしかった。どれだけ手を汚しても、どれだけ外道になろうとも……生きたまま、帰ってきてほしかった」


ジグルドは、そっと顔を上げた。彼が目を向けたその先には、静かに涙を流すスルトがいた。ただ黙って、自分の父親の本音を見ている息子である。


「今まで、本当に済まなかった。私は大馬鹿者だ……失った者ばかりに目を向け、残ってくれていたお前を蔑ろにしてしまった。許してくれとは言わん、だが……どうかまだ、私の息子でいてくれないだろうか?」

「……っ!」


スルトは激しく頷いた。抑えていた感情は溢れ、そのままスルトは崩れ落ちる。ジグルドは顔をクシャクシャにしながら、ただその頭を下げていた。深く、深く……これ以上無いぐらいに、深く。


「セタンタ……いいや、クランオール殿」

「な、なんだよ」

「たった今、呪いは解除した。同盟も解消する」

「……いいのかよ、それで」

「ああ」


ジグルドはゆっくりと立ち上がり、残る最後の一人に目を向けた。冷めた目でそれらを見ていた、アイアス……憎きダルクリースの人間に。


「……私が憎んでいるのは、あの日のダルクリースの『剣聖』だ」

「ああ」

「だから、今ここで謝罪を。入学式の日に、私の息子が危害を加えたこと。……本当に申し訳なかった」


アイアスは浅い溜め息を付き、ジグルドの方を見る。その様子は不機嫌でも上機嫌でもなく、ただ淡々と言うべきことを言っている……そんな感じだ。


「そのことに関しては、水に流してやる。人間は馬鹿だから間違える、だから誰かがそれを正してやらにゃあならねぇんだ。──だから、な」


アイアスは持っていた刀に手をかけ、ジグルドを横切って走り出した。

向かう先は、光が差してくる窓ガラスである。


「俺はお前の性根を叩き直すぞ!」


斬撃、アイアスの抜刀と同時に部屋の壁が吹き飛ぶ。爆風とともに全てが吹っ飛んでいき、爽やかな風が入ってくる。誰もがアイアスの突然の行動に驚き、しかし、ただ一人……ソラだけは腰の刀に手をかけていた。──鬼のような形相で、こちらを見る一人を睨みつけながら。


「ダルクリースの……『剣聖』……!」


空中に佇むその少女は、ニヤリと笑った。険悪に、獲物を捉えた捕食者のように。

それと対峙、刀を構えるアイアスは、恐ろしく低く……その場にいる誰もが震えるような声で、その名を口に出した。


「やっぱお前だったか、蛍」

「──ええ、お久しぶりです。師匠」


殺意に満ちた声は、氷のように冷たく冷徹だった。

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