悪女と呼ばれた私は吸血鬼の国に嫁ぐ~嫁いだからって黙ってると思ったら大間違いですわよ~

ことはゆう(元藤咲一弥)

悪女と呼ばれた私は吸血鬼の国に嫁ぐ~嫁いだからって黙ってると思ったら大間違いですわよ~




 私はフィミア・ローレンス。

 ローレンス伯爵家の長女。

 私は屋敷に戻って一人優雅なティータイムを楽しんでいた。


 少し遡ること──

「フィミア・ローレンス、貴様とは婚約破棄だ! 私はこのアンジェと一緒に──」

「グレイ陛下、私と婚約関係がありながら、その方と浮気をしていましたよね、つまり慰謝料を払っていただきます。勿論そちらが有責ですので、国王陛下にはお伝え致しました」

「なっ⁈」

「それと、その女性貴方以外の男性とも関係をお持ちですよ、そんな方を選ぶなんてよほど目が曇ってますのね、国王陛下が貴方に除籍処分を言い渡すと決めたのも無理はありません」

「んな⁈」

「それに貴方自身も複数の女性と浮気をしてらしたし、その上ギャンブルに国費をつぎ込むこれでは次期国王は任せられないと」

 婚約者であるグレイ陛下──王太子様は口をはくはくとさせて居ます。

 二人とも顔が真っ青。

 私は続けて王太子様の色々な事情を暴露すると周囲の方々はドン引き。

「と、言うわけで二人仲良く辺境で暮らすようにと頑張って下さいね、ああ国王陛下のお慈悲で一ヶ月は支度の猶予が与えるそうですので、では」

 そう言って私はその場を後にし屋敷に帰還しました。


「お嬢様、良いのですか本当に?」

「いいのよ、婚約破棄したのは向こうだし、浮気してたのが分かったから慰謝料大量にとれたからね、少し貧乏な我が家も潤ってお父様とお母様も嬉しいことでしょう」

「ですが! おかげで、金の亡者とか悪女とか言われるようになったんですよ!」

 そう、私は悪女と呼ばれている。

 金髪碧眼の悪女色白の金の亡者などなど。

「言わせておけばいいじゃない」

「お嬢様はそんな方ではないのに、素敵な方なのに……」

「はいはい、メリーは優しいわね」

「本当に優しいのはお嬢様です! 親を亡くして一人途方に暮れていた幼い私を雇ってくれて……」

「人手が足りなかったからよ」

「もう、そんな嘘おしゃって」

 優しくて可愛いメリー。

 私みたいな偏屈な令嬢に仕えて嬉しいなんて、本当可愛い侍女だわ。


「お、おい、フィミア‼」

「何ですの? お父様」

 青白い顔をしてお父様がやってきた。

「い、今し方国王陛下の命令で──」


「お前を吸血鬼が支配する国、メア王国の王太子の妻として差し出すと」


「はぁ?」

 あの国王陛下、息子が愚息で赤っ恥書かされたから嫌がらせですか?

 ついでに不倫で多額の慰謝料も取られたことへの。

「それ、国王からですか?」

「い、いやそのメア王国の王太子がお前を是非妻にしたいと」

「はぁ?」

 どこかの夜会でお会いしたかしら記憶がないわ。

 一体どんな物好きが私を妻にしようと思っているのかしら。

「いいわ、お受けいたしますわ」

「ほ、本当か⁈ 本当にいいのか⁈」

「これ、お受けしないと多分向こうの国に我が国が滅ぼされますわ」

 私はきっぱり言い切った。


「私もついて行きます!」

「メリー、本気⁈」

「はい、私はお嬢様の侍女です‼」

「もう、仕方ないわね……」

 嫁ぐ準備をしていると、メリーも荷物をまとめていた。

 この子はしょうがない子ね。

 好きにさせてあげるわ、私の可愛い侍女。


 嫁入りの準備も終わり、馬車に荷物を積み込んでいく。

 そして国を挙げて出発の儀が行われる。


「フィミア・ローレンス。この国を守る為に行ってくれるな?」

「はい、国王陛下」

 隅っこでこちらを睨む元王太子婚約者


 身勝手な婚約破棄をした結果、色々と暴露されて名誉も何もかも地に落ちて、王籍を除籍処分されてしまった。

 浮気相手は多額の借金を負い、父母に泣きついて払ったそうだが、その後年老いた伯爵の元に嫁がされたと言う。


 やれやれ、不倫する位なら、先に婚約破棄してくっつけばいいのに、婚約期間中に不倫をしているとこうなるんですよ。


 そういえば、そろそろ王都追放でしたっけ。

「元婚約者様ー? 私は最後の王都を楽しみました、貴方も楽しんでくださいましねー」

 と煽ると、元婚約者は顔を真っ赤にして私につかみかかろうと寄ってきたが兵士達によって阻まれる。

「では、失礼します」

「う、うむ」

 王様引いちゃってるけど、構うもんですか。


 馬車に乗り込み、足が風のようになっている風馬かざうまの馬車に乗り、国を出発する。


 普通の馬車なら数日かかるが、風馬の馬車なら一日もかからず。

 そんなのを用意するなんて、この国ではできない。

 メア王国、どうしてそこまで私を欲しがるのかしら?

 と首をかしげて考え込む。

「お嬢様、大丈夫ですか」

「ええ、大丈夫よ。ちょっとどうしてここまでして準備をするんだろうって思っただけよ」

「そ、そうですね。それにお嬢様を名指しで……一体なんでしょう? もし何かありましたら、私が身代わりになりますからね!」

「貴方と私じゃ見目が違いすぎて身代わりにならないわよ」

「はうう」

「でもその気持ちは嬉しいわ、有り難う」

「はい!」

 魔法道具で作られた馬車だから揺れも感じず快適に過ごせる。

 あと、何時間くらいでつくんだろう、そんなことを考えていたら──


「着きました」


 扉が開き御者が言う。

「有り難う」

 私が馬車から降り、メリーが荷物を抱える。

「大丈夫、メリー?」

「はい、大丈夫です!」

 そんなやりとりをしていると、この世に存在するのかと思う程の美丈夫が現れました。

 絶世の美形。

 神が彫刻したのではないかと思うほどの美しさ。


 女の私も少し見とれましたが、直ぐさま口に出します。

「どなた様でしょうか?」

「ああ、フィミア・ローレンス。ようこそ、私はルカード・メア。この国の王太子で──貴方の婚約者です」

 金色の髪は美しく、黄金の目は輝き、白い肌は美しく、声は美しい男の声。

 何でこんな美しい方が私を婚約者にしたのでしょうか?

「君と私を引き裂こうと考えている輩がいる、式の準備は済んでいる、さぁこちらへ」

「え、どなたですの」

「君の元婚約者だよ。結婚式で君を悪女と罵って国民に悪評をつけようと企んでいる」

 あの糞野郎。

 もう少し痛い目見せておけばよかった。

 と思いながら従者達が荷物を運んでいき、私はルカード様に手を引かれて式場へ着いていくことに。

 メリーも慌てて私の方へ着いてきた。


 ドレスは私のサイズ寸分違わぬ美しい黒いドレスが用意されていた。

 黒い薔薇が胸で咲き誇り、レースも美しい、黒なのに、美しい黒のドレスだ。


 メリーと他の侍女達が手伝いながら私にドレスを着せ、化粧をし、髪を結い、鏡を見せる。

 正直これが私かと、思うくらい綺麗に化粧をされていた。


 そして結婚式は滞りなく進んだ。

 美しい黒い花婿衣装のルカード様はそれはそれはおきれいでした。


「ルカード様、一体何故私を婚約者基結婚相手に」

「君が糾弾された場所に居たんだよ私は」

「まぁ」





 それは一ヶ月近く前に遡る──

「フィミア・ローレンス! 貴様の悪行は明白だ、よって貴様とは婚約破棄をし、王都追放を──」

 最後まで言わせることなく口を開いた。

「悪行とおっしゃいましたが、婚約者がある身で他の女としけこんでいるフォルム様はどうなのでしょうね?」

 私の言葉に、婚約者たる王子は顔を青くしはくはくと口を開けた。

「それにその隣の御方、私にいちゃもんをつけて、適当なところで帰って行ってるので悪行があるのは貴方達の方では?」

 王子の隣で被害者づらしていた女性も顔色を少し悪くする。

「このことは国王陛下にもう伝えております、フォルム殿下。貴方とは婚約破棄いたします。そして国王陛下より、あなた方は一ヶ月後王都追放、それまで準備をしておけ、だそうです。これが最後の慈悲だと」

 二人は真っ青になった。

「後、貴方達二人の浮気で婚約破棄するのですから、私が慰謝料を貰うのは当然ですわ、王様からも許可をいただきましたので、それ相応の金額を払って貰います」

「この悪女! 金の亡者!」

「浮気した上、そこの小娘の事を鵜呑みにして婚約破棄しようとした貴方に非しかありませんわ」

 それから徒然と王子の駄目さ加減を語っていく。

「──とこんな貴方が国を継いだら駄目になると王様も理解した上での王籍を除籍処分でもありますの、全部身から出た錆ですわ」

 私はそう言ってから会場の令嬢、令息達に頭を下げた。

「ここにいる皆々様、このような空気にしてしまい、申し訳ございません。あちらのお馬鹿さん二人は無視してどうぞ夜会をお楽しみくださいませ」

 私はそう言って夜会を後にしました。





 と、言う感じです。

 王都からもうじき追放される元王子はどこへ行くんでしょうね?

「メア国には入れないようにもうなってるから此処にはこないと思うけど……素性を隠してくるかもしれないね」

「返り討ちにして差し上げますわ」

 私の方が王子より成績も体術の成績も上でしたし。

「君は強い女性だ、だから守ってあげてくなるのです」


「貴方が本当に傷ついたとき、側に寄り添ってあげたいと思うのです」

 恥ずかしくなるような台詞を真顔で言う為、私の方が恥ずかしくなってしまいます!

「あ、あまりそのようなお言葉をいうのはおやめになってください、恥ずかしいのです」

「そんなところが可愛らしくてたまらない」

 ああ、もう!

 調子が狂いますわ!


「それよりも、この国の事を教えて欲しいですわ。実際目で見てみたいのです」

「分かりました、フィミア」


 次の日、私の母国の料理が朝食にでて驚きました。

 一ヶ月以上前から、シェフを雇っていたそうです。

 一流のシェフなのでしょうか、味などもどれも我が家で食べるものとは格が違いました。


「どこのシェフですの?」


「君の国の元王室のシェフさ、才能を妬まれて追い出されたところを勧誘したんだ」

 全くあの国は、こうやって才能あるものを追い出して行く。

 近いうち破滅しますわよ。


 とは思えど、もう口出しする気はないので後のことは国王陛下と次期国王陛下に任せるのみ。



「では、国を案内しよう」

 そうして少し長旅となる領地巡りが始まった。

 各領地は吸血鬼の貴族が統治しており、領地によって人間の扱いは様々。

 普通に扱う場所もあれば、そうでない場所もある。

「これはいけない」

「そうでしょう、我が妻よ」

「何より医療機関が少ないですわ」

「医療機関……そうですね、我ら吸血鬼は病気にかからぬ故」

「では、父上に判断を仰ぎましょう」

「そういえば貴方様のお父様はどこに?」

「いつもどこかに移動して忙しいですから……ただ、今の時間ですと吸血鬼が日の下でも歩けるような結界を貼り続けている聖女達の元に、食事を自ら運んだり交代の指示を出したりしています」

 通りで日の下でも吸血鬼が歩いていると思いましたわ。

「結婚式の時はどこに?」

「上のテラスから覗いていたそうです、花嫁が私を見たらおびえるだろうと。」

 そんなに恐ろしい方なのかしら、外見が。

「ともかく、このままではこの国も一部が傾きかねませんわ!」

「分かりました、では王宮へ戻りましょう」

 そう言って風馬の馬車に乗り王宮へ戻る。


「アノルド、父上はどこに?」

「国王陛下なら──御真祖様でしたら、先ほど戻られました。今は謁見の間に」

「分かった。行こうフィミア」

「はい、ルカード様」

 私はルカード様に手を握られ、そのまま謁見の間へと向かいました。


 謁見の間は明かりで薄暗く、吸血鬼用の場所なのだなというのが少し分かりました。

「フィミア、足下は大丈夫かい?」

「ええ、大丈夫ですわ」

 とは言え、目が慣れるのが早いおかげで足下は大丈夫。

「父上、お話があります」

「何だルカード」

 コウモリが玉座に集まり、白い髪に、赤い目、白い肌、白いひげを蓄えた美しくもどこか恐ろしい壮年の男性に姿を変えました。

「フィミアと国の各地を巡って参りました」

「私がフィミアでございます、国王陛下」

 挨拶をする。

「おお、其方が我が子が恋しくてやまぬと求めた娘か」

「はい?」

「ち、父上。今はその話ではなく!」

 ルカード様が少し慌てた様子で話を中断させようとする。

「恐れながら、ルカード様と各領地を巡らさせてもらいました」

「ほほぉ」

「はい、父上、やはり地域によって人間の扱いの差が出ています」

「やはりか、私があれほど言っていたのに」

「リスト化しておきましたので時間があればお目通しを」

「フィミア⁈ いつの間に」

「馬車で移動する時間にできますわ」

「我が息子の妻よ、見せてくれ」

「はい」

 私はリストを渡す。

 すると渋い顔をしていた。

「やはり私が苦言を百年も前に呈した馬鹿共ばかりだ、変わっておらぬ」

「そうでしたか」

「フォード大公を呼べ、奴に引き継ぎにふさわしい者を選ばせる」

「フォード大公様ですか?」

 人間に慕われる、吸血鬼の貴族の方でした、確か。

 美しい黒髪に、紅い目の、白い肌、そして武人と呼ばれるのか常に自分の近衛兵達と訓練し鍛錬し続ける御方。

「フォード大公は、この国が侵略されそうになった時たった一人で侵略者達を追い払ったのです」

「それはすごいですわ!」

「本人曰く『あんな連携のとれていない兵士共で我が国を侵略しようとは笑止千万』だそうだけど」

「それはそれですごいですわね……」

「実際私は見てないけど、フォード大公はそれほど偉大な吸血鬼だよ」

「そんな風な圧は感じさせませんでしたが……」

「真面目だからね、私の妃にそんな圧を感じさせてはいけないと思ったのでしょう」

「まぁ」

 そんなやりとりをしていると、フォード大公がおいでになさったわ。

「御真祖様、ルカード様、フィミア様、なんでしょうか?」

「このリストの者をお前が良いと思う者とすげ替えてこい」

「この者達は?」

「家の取り潰しだ、百年経っても反省せぬ馬鹿はいらぬ」

 結構怖いことを淡々とおっしゃってますわね。

「御真祖様、もう一つ良いでしょうか?」

「我が息子の妻よ、申すが良い」

「この国圧倒的に医療機関が足りておりません」

「其方の言う通りだな、だがこの国に来ようと思う医者は少ないのだ」

「ならば私に案があります」

「どのような案だ?」

 私は微笑みました。

「医師達を酷使する我が国からかっ攫ってしまえばいいのですわ。好待遇をつけて」

 もう母国には未練はない。

 なので利用するだけ利用させて貰う。


 私は知り合いの医師に手紙を出した。

 まだ若いのに、働かされすぎて髪の毛が薄くなってしまうほどストレスと闘い続ける医師に。


 この国の現状、そしてもしこの国に来たらこれだけの好待遇が待っていますよという内容を書き記した。

 そして一週間後、医師の集団がこの国にやってきた。


 既に居る医師達と協力して各領地に医師を配置し、貴賤関係なく見てもらえる環境づくり等をした。


 休みなく働かされていた彼らは休みがあると大泣きして喜んでいた。

 この評判は他国にも渡り、他国からも医師が来て働くような環境になった。


 医療が充実するのは良いことだ。


 そして領地の問題は、フォード大公が選んだ吸血鬼が変わりに領地を管理することになり、生活環境も激変した場所が多数出た。


「もう、娘を生け贄に出さなくていいんだ!」

「妻を奪われなくて済む!」


 とか、どんだけ非道な行いをしていらっしゃったのかしらその吸血鬼の方々。

 ちなみにおかげで私は悪女と呼ばれるようになりました。

 何故ですかって?

 今まで御真祖様に見逃されていた悪行が全部私の所為でバレ、家は取り潰し、吸血鬼の面目丸つぶれになった、からだそうです。


 それで悪女呼びされるならば悪女上等です。


「ため池が複数あると便利ですが、この国ではあまりないのですね」

「吸血鬼は水を苦手としますから」

「ですが住んでいる民は人間です、雨が降らない時期などが起きたら大変です」

「そうですね……」


 と言うわけで私主導でいくつかのため池を領地に作らせていただきました。

 人間の方々に指示を出しながらため池を作り、水をためます。

 念のため「吸血鬼の皆様は立ち入り禁止、溺れるから」と立て看板も立たせていただきました。


「流れ水でないので溺れない」


 と、言われたが念のためである。


 案の定、水が溜まってからしばらくして雨が降らなくなり、聖女が祈り続けて数日経つまでを、ため池でしのげたのはいいことだと思った。



 この国は良い国だが、もっと良くしたいと欲がでました。

「他国には人材が豊富ですわ、ですが貴賤の為才能を認められなかったり奪われたりする方々がおります」

「そのもの達を登用せよ、と」

「可能であるならば、私の人脈を活用して見せます」

「許す、やってみよ」

「有り難うございます」

「フィミア、無理はしてないかい」

「無理はしてませぬわ、それよりもルカード様、何か隠し事をされてません」

「何も」

 あ、目がちょっと逸れてます。

 嘘つくときはいつもそれですわよね。

「ルカード様、私は貴方の妻です。貴方の嘘くらいお見通しですよ」

「これは参ったな……」

 ルカード様は観念したように言った。


「実は君を悪女だと言う連中がやってきてね、不敬罪で牢屋にぶち込んだんだ」

「もしかして、ブラウンの髪に青い目の男性と、赤い髪に、緑の目の女性?」

「すごいね、よく分かったね」

「それ、リア国の元王太子フォルムと、その浮気相手になったアリーゼですわ」

 フォルムはともかく、嫁がされたアリーゼは逃げ出したのかしら、せっかく結婚できたのに、年老いて息子に後を任せているようなご老体とですが。

「かなりボロボロだったからね、でも誰もそいつらの事を信じて無くて石なげられていたよ」

「あら……」

 ちょっと可哀想。哀れですわね。

 でも慈悲の心は持ちません。

「処刑や処遇は貴方に任せて良いかしら、私したい仕事があるの」

「勿論だよ、愛しのフィミア」

 そう言ってルカード様は私に口づけをします。

 少し恥ずかしいですが、さて、やることをやらなければ。



 私は身分が低いという理由だけで不遇な扱いを受けている他国の友人達に声をかけました。

 声をかけると言っても手紙を出すだけ。

 こちらでは貴賤問わず研究などを行うだけの準備がある、もし貴方が来たいならどうぞ。


 という内容の手紙に、皆やってきた。

 開発の栄誉を取られた人、身分が低いから基礎しかさせてもらえない人など、色々居ますが、御真祖様が用意した研究所で基礎も大事にしつつ思い思いの研究を始めました。


 その結果──


 魔法を使わない明かりがついた柱が各地に立ち、夜でも人が安心にすすめるようになり、またその明かりは太陽光ではないので吸血鬼にも無害というもの。

 これを筆頭に様々な開発や研究がされました。


 国は豊かになる一方です。





「ルカード聞いているな」

「はい、フィミアが悪女と呼ばれている事は」

 ルカードは父たる真祖の言葉に頷いた。

「その通り、自分達がないがしろにしてきた人材を掘り出して国に勧誘している彼女を悪女と呼んでいる」

「本人は全く気にしてないようですが、私は気にします。愛しの妻が悪女と呼ばれるなど」

「私は国中の会議に出席する、その間留守は頼んだぞ」

「はい、フォード大公もいらっしゃいますし」

「侵略したならそれ相応の報いを受けさせてやる」

「はい」

 ルカードは父が玉座から消えるのを見送ると、ふうと息を吐いた。


「フィミアが悪女だなんて失礼な」





「ルカードお願いがあるのだけれど」

 私は私ではどうしようもできない問題に直面しルカード様を呼ぶ。

「何でしょうか?」

「私の実家をこちらに移して構わないかしら?」

「どうしたのです?」

「元の国でも人材流出があってそれが私が原因だから悪女の家だと評判が悪くなってしまってね、だからお願いなの」

「畏まりました、すぐに手配と手紙を」

「ああ、有り難う」

 それから一週間もしないうちにお父様達がやってきた。

「お父様、ごめんなさいね」

「いやいいんだよ、フィミア」

「ローレンス伯爵殿ですね、私はフィミアの夫ルカードです」

「る、ルカード様有り難うございます」

 お父様は緊張しているようだった。

「フィミア、本当にいいの?」

「フォード大公の領地内に屋敷があるからそこでくらしていいとおっしゃってくれたわ」

「そこなら安全だから安心して暮らしてください」

「おねえさまは、あくじょじゃないのに、やさしいのに、みんなひどい!」

「可愛いマリー、でもお姉様は悪女って呼ばれてるの」

「ひどい、ぷんぷん!」

 幼いマリーはお怒り中、頬を膨らませて可愛い。

「では、移動を──」

「ルカード様!」

 兵士が慌ててやってきた。

「どうしたのだ⁈」

「リア王国が我が国に侵略行為を──」

「フォード大公には⁈」

「既に伝えております」

「他の兵士も呼べ、私も──」

「ルカード様」

 戦地に赴く夫へこう告げる。

「どうか、ご無事で」

「ああ」



 戦争は程なく終結した。

 フォード大公により、敵は壊滅状態に陥ったのだ。

 ルカード様は戻って来ては「フォード大公はお強すぎる」と愚痴を漏らした。

「貴方も十分お強いですよ」

 となだめてなんとかなった。

 それからまもなく国王陛下──御真祖様が戻ってこられた。

「聞いたぞ、リア王国が我が国を侵略しようとしたと」

「はい父上、私と兵、フォード大公が出ましたが……フォード大公の独断場でした」

「ふ、奴はこの国きっての武人、私の次に強い吸血鬼だ」

 ってことは、真祖様はがちでやばい強さなのですわね。

「ところで侵略者共の死体はどうした?」

「いつものように、その国に魔法で送り返しております」

「うむ」

「我が息子の妻よ、リア王国はおぬしの母国だがいかように?」

 国王陛下に問われる。

「母国とはいえ、犯してはならぬことを犯してしまいました。よって罰を」

「承知した」

 国王陛下はいなくなる。

「フィミア、良いのですか。貴方の母国なのですよ?」

「ですが、今の私はこの国の人間で、貴方の妻です」

「フィミア……」

「悪女でしょう?」

「いいや、そんなことはない。君は我が国を思っての発言をしたまでだ」

 と、純粋なルカード様、私みたいな悪女を妻にして大変ですのに。



 翌日、国王陛下から呼ばれました。

「革命が起きた結果、リア国はこの国に侵略行為を行った、故に元王族一族に非はなく、革命を行った軍部の人間共を徹底的に処刑した」

「まぁ」

 そういえば、リア国の軍部はこの国を毛嫌いしてましたものね。

「王族の権威を復刻し、王位に就かせ、二度とこのようなことが起きぬように言った」

「それでお許しになられたのですね、慈悲深い国王陛下」

「私は慈悲深くはないとも、我が息子の妻フィミアよ。なすべき事をなしたまでだ」

 私からしたら慈悲深いにも程があるとおもいますけれども。


「フィミア様、ようこそいらっしゃいました」

「ええ、運営は順調かしら?」


 私は孤児院を作ることにした。

 孤児院この国にはなく、親無き子どもは長の家で育てられるが、その間に虐待などが発覚することがあり、孤児院を作り、育児の専門家達に任せ国は金を出し子ども達を育てるというものだ。

 私も不定期的に見回りに来ており、虐待がないか調査をしている。

 今のところなく、運営は順調だ。


「おきさきさまあのね」

「どうしたのかしら?」

「きのうね、まおくんとりおくんがけんかしちゃっていまもふたりともきげんがわるいの」

「まぁ、それは大変」


 そう言って、私は子ども達の仲裁に入る。

 本来ならば専門家に仲裁に入るべきなのだろうけど、私に入ってほしいということは別の意図や、何かがあるのだろう。


「リオくん、マオくん、ちょっとおいで」

「おきさきさま……」

「……はーい」

「ふたり喧嘩したってきいたけど何があったの?」

「リオがおれのことおやにすてられたくせにって」

「マオがおれのことおやがしんでだれにもひきとられなかったくせにって」

「どっちがさきに言い出した?」

「リオ」

「……おれ」

「どうしていったのかな?」

「たのしそうにあそんでるのがゆるせなかった」

「マオくんが」

「うん、だれにもひきとられなかったのにどうしてわらえるんだって」

「だって、そうじゃなかったらぼくはのたれじぬかそれかうわさがわるいちょうろうにぎゃくたいされそうになってたかもしれないじゃないか」

「……おれもそうだよ」

「ちょっと待って、貴方達の区域の長老そんな悪評あるの?」

「うん」

「ちょうろうにそだてられたやつらにきいてみるといいよ」

「わかったわ、教えてくれて有り難う」

 そう言って二人の頭を撫でる。

「私はねそういう子ども達を減らしたいから孤児院を建てたの、どんな理由であれ育てられなくなった子を育てる場所として」

「……」

「私は貴方達を愛しているわ」

「ほんとう?」

「ほんとう?」

「本当よ」

 そう言って二人を抱きしめる。

「こうして不定期にしかこれないけど、貴方達の健やかな成長を願っているわ」

「……うん」

「うん」

「仲直りしてとは言わないわ、その相手の生まれとかを馬鹿にするような発言はしちゃだめよ」

「はい!」

「はーい!」

「はい、良いわ。遊んでらっしゃい」

 子ども達と離れると、院長と会話を終えたルカードが戻って来た。

「ルカード様話したいことがございますの?」

「この地域の人間の長の話だね」

「まぁ、どうして分かってらっしゃるの?」

 驚く私に、ルカード様は笑って言った。

「耳だけはいいのですよ」

 と茶目っ気を入れて。

 本当に美しくて愛らしい御方。


 その後、私は長老に育てられた人たちを確認し、家族が居る場合は家族に内密に情報を入手した。

 子ども達が言ったとおり、虐待があるのは事実。

 では、裁きに行くとしましょうか。


「其方がこの周囲の村長むらおさだな」

「る、ルカード殿下! こ、これはこれは、私めに何の用ですかな?」

「其方、村長の立場を利用して、孤児になった子ども達を虐待していたな?」

 ルカード様が静かに言い、睨む。

「そ、そんな滅相もございません!」

「お前の孤児になった者達から全員話を聞いて真実かどうかも確かめた、真実の石は彼らの言葉にヒビ一つ入らなかった、つまり真実だ」

「ぐ、ぐうううう!」

「そしてお前の言葉には──」

 白い石にヒビが入り始めている。

「虚偽の報告だと真実の石が伝えている」

「諦めなさいな」

 そう言うと、近衛兵達が年老いた村長を捕縛し連れて行く。

「牢屋に入れておけ!」

「は!」

「儂が引き取ってやったんじゃ、儂が何をしようが自由じゃろうが!」

 とわめく醜い老人に私は言う。

「だからお前は裁かれる、今までの行いによって、罰を与えられる。楽に死ねると思わない事です」

 冷たい目線で老人に言うと、薄汚い老人はひぃと悲鳴をあげた。

「フィミア……」

「幻滅なされました?」

「いや、君は素晴らしい! 被害者の事を思いそういう態度がとれるんだから!」

 ルカード様、褒めすぎです。

「ルカード様、褒めすぎですわ、私、少し恥ずかしいですわ」

「ああ、それは済まない」

「それより、他の地区でも同じようなことが起きていないか確認する必要がでましたわ」

「そうだね、部下にも手伝って貰おう」

「有り難うございます」


 そうして、各地区を回り、虐待していた村長等が居ないかどうか確認し、居た場合牢屋に連れて行き、罰を与えるという流れになった。


 思ったより数が多くて少しばかりげんなりしてしまった。

 吸血鬼による支配で鬱屈した状態になっていた場所ほど、虐待が多く行われていた。


 逆にフォード大公のような領地運営をしている場所は無かった。


「やはり百年前にすげ替えて置けばよかった……」

 すこししょんぼりとなされる国王陛下。

「御真祖様、そんなに気を落とさないでください」

「だがな……人間の寿命は短い、百年も持たぬのが普通だ」

「御真祖様……」

「では、次は問題を起こさないよう、厳しく行きましょう」

「そうだな、厳しくゆくか」

 なんとか元気になって貰いました。


「ところで我が息子の妻フィミアよ」

「はい、何でしょう?」

「其方、働き過ぎでは無いか?」

「そうでしょうか……?」

「ここ最近の国の発展には其方が関わっている、医療も孤児院も、研究も全てだ」

「できることをしてるまでですわ」

「だから、言おう。ルカードと共に少し休むが良い。屋敷は手配している」

「そうですか……では、お言葉に甘えて……」

「父上、聞きました」

 ルカード様いつの間にここに?

「その通りですね、フィミアは少し休むべきです」

 そう言ってルカード様は手を取る。

「では、参りましょうかフィミア」

「ええ」

 そう言って荷物をまとめていわゆる王族の屋敷へと向かった。


 国王陛下は使われていないが、亡くなられた王妃殿下とルカード様はよく利用していたらしい。


 手入れの行き届いた庭、大きな屋敷、そして見える湖。

「フィミア様!」

「あら、メリー。貴方も来ていたの?」

「勿論です、お嬢様居るところ、メリーは駆けつけてますよ!」


 そう、この子、私が遠出するとなると荷物持つやらなにやらをやるために必ずついてくるの。

 また、王宮では私が侍女頭に頼んで私の侍女のままにしてもらったし。

 浮いてしまうのではないかと不安になったけど、持ち前の明るさとやる気で他の侍女達と上手くやれてはいるみたい。

 一応ルカード様に頼んで、真実の石を使って確認したけど、問題は無かったので私は一安心。

「ここは湖が美しい……が、流れ水故私達は遠くから見ていることしかできぬ」

「では、一緒に眺めましょう」

「ありがとう」


 そうして屋敷に入ると、屋敷の従者や侍女達が現れた。

「ようこそいらっしゃいました、ルカード様、フィミア様」

「早速案内をしてくれ」

「畏まりました」

 案内され、ルカード様と相部屋になる。

 ベッドは二つ用意されてはいるが。

「あ、相部屋は嫌かな?」

「いいえ、ルカード様と一緒にいれるなら」

「ほ、本当かい!」

 ルカード様は嬉々とした表情をなされました。

 しかし私は屋敷の中に嫌な空気を感じ取っていました、ルカード様にはおっしゃいませんでしたが。


 それから、私達は一週間ほど庭を散策し、湖を巡り、眺め、手をつないで共に過ごしました。

 その一週間が経ち、王都に戻る最中メリーが泣きそうな声で私に話しかけてきました。

「フィミア様、フィミア様がルカード様から貰ったネックレスが見当たらないんです! それにこの手紙が……」


 手紙にはこう書かれていた。


『ネックレスを返して欲しくば湖の畔に一人で来るべし』


 私はメリーにそっと言いました。

「ルカード様にコウモリになって湖まで来てくれるように言いなさい」

「は、はい!」


 そう言ってコウモリが隠れながら着いてきてくれるのを見ると、嫌な気配。

 数名の侍女達が居ました。

「お前は人間の癖に何ルカード様の妃になってるんだよ!」

「そうよ、私達の手の届かない方なのに、人間なんかが……」

「こんなもの!」

 ネックレスを投げ捨てると同時に、強力な磁力の魔法でネックレスを引っ張り寄せ、自分の手元に戻します。

「ありがとう、手放してくれて。お礼に──」


「湖で遊泳するといいわ」


 私がカツンと足をならすと水の巨人が現れ、侍女達を飲み込み、そして湖の一部となる。


「助けて助けて!」

「いや、いやよ! 死にたくない!」

「ごめんなさい、許して!」


「出そうだけど、ルカード様。どうします」

 怒りの形相のルカード様が侍女達を睨んでいた。

「貴様等、彼女に渡したものを利用して彼女を亡き者にする気だったな⁈」

「ぞ、れば……」

 既に沈みそうになっている。

「そのまま沈むがいい、お前達の所業は父上に伝えておく」

「ルカード様、それでは可哀想ですわ。キチンと罰は罰として受けていただかないと、ここで溺れ死んではとしては軽すぎますわ」

「そうだな、助けられるか?」

「ええ、勿論」

 私はカツンと再び足をならし、水の巨人が侍女達を掴んで陸地に上がらせる。

「近衛兵!」

「は!」

 ルカード様が呼んでいたらしい近衛兵の方々が集まり侍女達を縛り上げ連れて行った。

「フィミア、怪我はないかい⁈」

 ルカード様が私を抱きしめる。

「いいえ、ルカード様、私は無傷です。そしてネックレス……は無傷じゃなかったようですね」

 傷つけられまくっている。

「彫金師に直させよう」

「いえ、これはこのままで。私とルカード様の絆を奪おうとする輩がどうなったかの証拠になりますし」

「そうか、それならそうしよう」


 そして漸く王宮に帰ると、侍女達は王子の妃に危害を加えようとしたということで全員処刑となったそうです。

 まだ、子どもを虐待していた連中も処刑になったらしい、良いことですわ。


 これでしばらくゆっくりできると考えていると、王宮に突然の来訪者が。

 赤い長い髪に青い目の美しい女性と女性と同じ髪と目と幼い男の子。

「フェア王国の王妃のレア様ではないですか、子どもまで抱いてどうしたのです?」

 私が問いかけると、レア様はその場でぶわっと涙を流し泣き始めました。

「ママ、泣かないで」

 子どもである、王子も不安そうです。

 私はとりあえず、城の中の客間へ案内し、夫であるルカード様とともに話を聞くことになりました。


「……あの国王は」

 つい最近国王になったフェア国の王子ルドはなんと王妃レア様のお子様ではなく、側妃のカナンとの間に生まれたばかりの子に王位継承権を与え、レア様のお子様には与えず除籍処分にすると言い出したのです。

 レアの子は自分の子では無いと言い切り、カナンとの子だけが自分の子と言って居るとのこと。


「レア様、一応聞きますが、その子はルド様との子ですよね?」

「はい、間違いありません!」

「……真実の石はひび割れず、誠のようだ」

「……退いたという元国王に連絡しよう、フィミア君は彼女とその息子を頼む」

「はい、ルカード様」

 ルカード様がいなくなると、私は彼女達を連れて国王陛下の元へ行きました。

 そして事情を話します。

「……今の国王、元国王の血は引いておらぬぞ」

「はい?」

「聞いた話だが、王妃とその愛人の子らしい、が子どもが生まれなかった王は苦肉の策として王族の血を引くレア、其方と結婚させることで血をつなげようとしていたらしい」

「ということは、平民の側妃との子には……」

「継承権はないな。私も言って〆てくる」

「私達も連れて行ってはいただけないでしょうか?」

「良かろう」

 無数のコウモリの足場が出来、レア様と息子様と共に乗り、空をかける。


「父上!」

「ルカード、ちょうど良い」

「おお、真祖様。我が愚息が申し訳ない……」

 フェア王国の元国王陛下がいらっしゃった。

「其方が謝るべきは私ではない、この二人だ」

 レア様とレア様のお子様を指し示す。

「すまなんだ、本当にすまなんだ……!」

「いいえ」

 そう言って扉を開ける。

 無数の兵士達が現国王と側妃を捕縛していた。

「何をしている貴様等!」

「それは私の台詞だルド!」

「ち、父上!」

「お前は私と王妃の子ではない! 王妃とその愛人の子だ!」

「な、何をおっしゃるのです父上⁈」

「愛人はのちに処刑したが、お前の処遇に悩んだ。子が生まれぬならば王子扱いをし、王族の血を引くレアと結婚することで王族の血を守ろうとしたのだ」

「そ、そんな! で、でもレアは私との子ではなく別の男との子を──」

「いいえ、レア様の息子は正真正銘貴方とレア様の子よ」

「よし問う、王妃レアよ、其方の息子は国王ルドとの子か」

「はい、勿論です」

 真実の石はひび割れず光ったまま。

「では、側妃カナンに問おう、その子は本当にお前と国王ルドの子か?」

「え、ええ本当です!」

 真実の石がびきりとひび割れ、光を失う。

 ルドの顔色が青ざめる。

「ルド、側妃カナン。貴様等は幽閉じゃ。国王の座には変わりに王妃レアの父フレデリック公爵に代わりについて貰う、レアの息子フィデリカが王になるまでな」

「ち、父上、そんな! お許しを!」

「どこの誰かに分からん噂に翻弄されてレアをないがしろにしたお前の罪は重い! そして側妃、貴様がその噂を流したのだろう自分が王妃になるために!」

「そ、そうよ! 何がいけないの‼⁇」

「カナンよ、やはり貴様は処刑だ! 子どもは孤児院へ! 良いな!」

「いや、いやよ、まだ死にたくない!」

 側妃カナンは悲鳴を上げて連れて行かれた。

 後日処刑が執行された。


 王族を謀った平民の女、と言うことで重い罪だった。


「これで安心ですかね」

「ルカード殿下、フィミア妃殿下」

 現国王のフレデリック様が私達に挨拶に来た。

「レアが居なくなったと聞き慌てたものだ、聞いた話では命も狙われていたという。今命を狙っていた者も処分している最中です」

「側妃見目だけはよかったですからね」

「側妃側の連中は全員処刑、王妃レアと息子フィデリカは安心して王宮で暮らせるようになったという訳ですわね」

「本当だ、私の可愛い娘が酷い目に遭わされていたなんて……親として知らなかったことが恥ずかしいよ」

「その分、これから大切にしてあげてくださいませ」

「ああ、そうするとも」

「フィミア様」

「レア様」

 レア様が子どもを抱きかかえて近づいてきた。

「貴方様のおかげで我が子も私の名誉も守ることができました、本当に有り難うございます」

「いいえ、行動に移した貴方がいたからこそ、私共も動けたのです。ねぇ、ルカード様」

「ああ、その通りだ。どうかご子息と仲良く暮らして欲しい」

「はい」

 レア様は行ってしまわれた、護衛に囲まれて。

 まだ安全ではないのだろう、だが、じき安全になるはずだ。





 後に、若き賢き王がフェア国に誕生し、実母を聖王妃と祭り、国の発展に尽くすことになるのだが、それはまた、別の話。





「やっと国に戻って参りましたね」

「そうですわね」

「フィミア」

「何でしょうルカード様」

「やはり君は働き過ぎる、それに君は聖女のような存在だ、多くの人を救っている」

「働き過ぎは肯定しますわ、でも私は一部の国では悪女と呼ばれておりますわよ」

「悪女だなんてとんでもない、人材を不遇に扱っていた罰だ!」

「ルカード様……」

 本当、なんて優しい御方、美しい御方。

 心も体も美しい御方。

 そうして日々穏やかにすごしておりました。


 が。

「ルカード様!」

「メイフェ?」

 城に令嬢らしき人物が訪れました。

 反応からすると、幼なじみかそれに相当する方でしょう?

「どうして私と結婚してくださらなかったの⁈」

「メイフェ、私は昔から君をそんな風に見られないと言っただろう」

「あんな人間、すぐしわくちゃの婆になってしまいますわ!」

「……メイフェ、私を怒らせたいのかい?」

 ルカード様は静かな声でしたが、侮蔑と怒りに満ちた表情で彼女を見ます。

「なんで、なんで、こんな女──!」

「フィミア‼」

 私はかつんとヒールをならします。

 すると水の塊が彼女を覆います。

 顔だけでている間抜けな姿。

「おてんばなお嬢さんは水でずぶ濡れになるのがお好きと聞きましたので」

「きゅ、吸血鬼殺し! 私を殺したら、お父様とお母様が黙って──」

 ルカード様が私を守るように移動しました。

「我が妃を殺そうとしたお前をもはや幼なじみなどとは思わぬ、ただの犯罪者だ」

「そ、ぞんな、ルカード様!」

「だが、わが妃の手を汚すのは忍びない。お前達!」

「「「は!」」」」

 近衛兵の方々が姿を現し、メイフェという吸血鬼の令嬢を囲みます。

 私は水の魔法を解除しました。

 水は無くなり、床に倒れるメイフェという令嬢を近衛兵は連れて行きました。

「ねぇ、ルカード様。どうして貴方は彼女と結婚しなかったの?」

「彼女は我が儘で人から欲しいものは何でも奪おうとする気質だったんだ、相手も公爵ということがあり、奪われる一方、そんな彼女を妃にしてみろ、国が崩壊する」

「そうですわねぇ」

「一方君は我が国に尽くし、発展させてくれている、なにより君は美しい、ありかたも姿も」

「まぁ……」

 ルカード様の言葉に少し紅くなってしまいます。


 メイフェ令嬢ですが、王子の妃に危害を加えようとしたという罪状で幽閉処分となった。

 日の光が入る塔の中で苦しみながら過ごすことになるらしい。


 メイフェ令嬢の父である公爵は温情を求めたが、ルカード様が許さなかった。

 今までの所業にも加え、今回の事態を重く見て重い罰を与えた。

 メイフェ令嬢の父はがっくりと項垂れて帰って行った。

 これ以上文句を言うと爵位を取り上げられると思ったのだろう。


 それから数日しないうちに、また訪問者が。

「フィミアという娘はどこにいるの⁈」

 私を探しています。

「フェル公爵夫人、何用ですか」

 出ようかなと思っていたらルカード様が対応なされています。

「ルカード様、何故うちの娘をあのようなむごい罰を与えたのです⁈ 日の塔は吸血鬼が入ったら出られぬ苦痛刑の場所、そんなむごい場所に何故⁈」

 日の光は吸血鬼にとって天敵、よほど苦痛なのでしょう。

「貴方の娘が我が妻に危害を加えようとしたからだ、我が妻が魔法に達者だから助かったものの、そうで無ければ大怪我を負っていたかもしれない」

 まぁ、確かにそれはありますわ。

「だからと言って……!」

「フェル公爵夫人、あまり文句を言いますと爵位を取り上げることも検討しますよ」

「そんなに、その女がよいのですか」

「ええ、勿論。どの女性よりも美しい心のありようが」

「人間などすぐ死ぬ生き物、そんな生き物に──」

「黙れ」

 ルカード様は冷たいまなざしをフェル公爵夫人に向けます。

「今すぐ失せろ、でなくば爵位を取り上げ、家を取り潰す」

「っ……‼」

 行ってしまわれました、カツカツとヒールの音が遠のくのが聞こえます。

「ルカード様」

「フィミア!」

 ルカード様は驚いた様子でした。

 私に気づいていなかったのでしょう。

「聞いていたのかい?」

「ええ、もしかして私この国の吸血鬼の貴族に祝福されておりません?」

「そんなことはない!」

「ですがあのような事態がありました、ならば手は一つ」

「何でしょうか?」

「私を吸血鬼にしてくださいませ」


 血の契約を行う事になった。

 血を吸う吸血鬼ではなく、もう一人の真祖として私を吸血鬼にするらしい。

 それを行うのは御真祖様。


 夜、月夜の下で、私の周囲を血が揺らめいて流れています。


「フィミア・ローレンス。血の口づけを」


 私は周囲の血の一部に口づけをしました。

 血が口の中に入ってきて、私はそれを飲み込みました。


 ごくりと飲み込み、体が熱くなりました。

 鉄の味が口に広がったと思ったら蕩けるような甘い味に変わりました。


 体の熱はすぐに熱が冷めました。


 肌がいつもより白く映って水鏡に見えました。

 碧の目は真紅に染まっていました。


「フィミア・ローレンス。これで其方は吸血鬼であり、余と同じ真祖だ」

「いいえ、真祖様。真祖様は貴方様一人です」

「ふ、謙遜する娘だ」

「フィミア……」

「吸血鬼になったこと、嬉しくないですか?」

「いいや、嬉しいとも! でも、これで君は……」

 私はふふっと笑ってルカード様の唇を指で触ります。

「一応真祖ですので、日の光も水なども耐性ありますわ」

「そ、そうか」

「お父様達を見送る時、私一人だけ若い姿なのが寂しいですが……それもまた私の生、受け入れましょう」

「フィミア……君は強い女性だ」

「いいえ、悪女ですわ」

「そんな事は無い、君は誰よりも誇り高く美しい!」

「まぁ」

 ルカード様にそう言われると悪い気はしません。



 人間から吸血鬼になったということで、満足した者達も居れば逆に不満を持つものが現れました。

 フォード大公に領地を取り上げられ、王都でひっそり暮らすようになった者達です。


 吸血鬼の特権欲しさに結婚した悪女。

 と夜会で私の名前が挙がりましたが──

 ルカード様が一括し、これ以上私を悪女にするならば、爵位を没収家を取り潰すと脅した結果、表だっての行動はなくなりました。


 が、裏では悪女の評判はあり、ルカード様はそれを消すのに翻弄しておりました。

「ルカード様、言わせておけばいいのです」

「そんなことはない! 君は悪女じゃない、心の美しい女性だ!」

「まぁ、ルカード様ったら」

 私はクスクス笑います。


「この国に孤児院を建て、子どもを虐待から防いでいるのも君」


「研究者を集め、この国をより発展させたのも君」


「医療者を集め、この国の医療を発展させたのも君!」


「全部君がやってきたことじゃないか」


 ルカード様は悲しそうに言います。

「それが気に食わないのでしょう。貧相な頭の方々は」

 私は嫌みたっぷりに言います。

「はは、それは言えていますね」

「ルカード様、御真祖様に呼ばれてらっしゃるのでしょう?」

「そうだ、父上に呼ばれているのだった、行ってくる」

 護衛が私を守ります。

「少しだけ離れてください」

「え、ですが」

「お願いしますわ」

 そう頼むと護衛が少しだけ私から距離を取る。

「そこに居るのでしょう、姿を見せなさい」

 複数の吸血鬼の貴族達が居ました。

「私に何のご用でしょうか?」

「人間の分際ルカード様と結婚し、あげく吸血鬼になった強欲な悪女め!」

「八つ裂きにしてルカード様の目を覚ましてあげるのだ!」

「そうだそうだ!」

「この国を犯す悪女め!」

 と襲いかかってきました。

 護衛が動く前に、私はヒールをカツンとならします。

 流れ水が私の前を流れ、吸血鬼達を押し流し、水の塊に顔だけを浮かせた状態になりました。

「ルカード様をお呼びになって」

「は!」

 護衛の一人にそう言うと私は彼らに言う。

「そう、悪女よ。国の為、ルカード様の為ならば何でもする悪女よ私は」


「だから国の民の為にキチンとした医療機関を作った」


「虐待されてるという噂から孤児院を作り職員も虐待してないか不定期検診をしている」


「そして研究職をよりよくする為に、他国から貴賤で排除されている人たちを集めた」


「他もそう、全部国とルカード様の為」


「貴方達のような吸血鬼の為では無いわ」


「で、でばなぜ吸血鬼になっだのだ⁈」

 溺れかけながら吸血鬼の一人が問いかける。

「知れたこと、ルカード様と居るためよ。あの方を一人にしないようにするため」

「フィミア!」

「ルカード様」

「無事か⁈」

「ええ、無事ですとも」

 私はヒールをカツンと鳴らし水魔法を解除する。

「この者達を連れていけ! 全員処刑だ!」

「ルカード様、そこまでしなくても良いのですよ」

「だが……」

「家を取り潰してしまえばいいのです、それだけで十分ですわ」

 私はにっこりと微笑む。

「フィミア……」

「私はルカード様とこの国の為に身を捧げると誓いましたからあの日」

「……有り難う」

 ルカード様はそう言って私を抱きしめました。


 しばらくして、まだ子どもを作らない私達に、いえ、ルカード様に側妃としてうちの娘をというのが来るようになりました。

 ルカード様は激怒し、一喝。

 御真祖様も、激怒し、一喝。

 そのようなのは来るのは激減しました。

 が、それでも寄越してくるおバカさんはいらっしゃいます。

「またか……」

「ルカード様、ならいっそ子作りをしませんか」

 そう言うと、ルカード様は飲んでいた紅茶を吹き出しました。

「な、何を言うんだフィミア!」

「その覚悟は出来てますわ」

 私はルカード様に抱きつきます。

「言ったでしょう、ルカード様にこの身を捧げる覚悟はできていると」

 そう言って、その夜、私達は抱き合いました──



 二ヶ月後──

「妊娠しておられますね」

「まぁ」

 透視魔法で検査をした結果、私の妊娠が発覚しました。

「フィミア、有り難う、有り難う!」

 ルカード様は涙を流して喜びました。

 御真祖様も、涙を流し喜んでくださいました。


 そして一年ほど経過して、漸く赤ん坊が生まれました。

 綺麗な金髪に金色の目の赤ん坊です。

「ルカード様、貴方そっくり」

「本当だ」

「名前を何にしましょう」

「男の子だからな……アルスというのはどうだろう」

「良い名前ですわ」

 私は我が子に話しかけます。

「アルス、私の可愛い子」


 それからまもなく、事件が起きます。

 とある貴族の娘がルカード様との子を妊娠し、産んだと言い出したのです。


「私は君以外とそのような行為はしていない、だから私の子ではない、安心してくれ」

 ルカード様は真実の石を持って私に言いました。

 石は割れずに光ったまま、その貴族の娘の子がルカード様の子ではないと証明されました。


 私は御真祖様に問いかけます。

「御真祖様、ルカード様と瓜二つの男性に心あたりはありませんか?」

「……ある」

 それはルカード様の母親である王妃と双子の側妃が産んだルカード様の弟だということが分かりました。

 ルカード様は聡明に育ちましたが、側妃が産んだ弟君は我が儘放題でこのままでは国を滅ぼすと、王籍を除籍処分にしとある公爵夫妻に預けたそうです。

 ですが、その弟君が一年前から行方不明になったと公爵夫妻から連絡があり、もしやと思ったのです。

「どうしたものか……」

「ところでどうして王妃と側妃を両方娶られたのですか?」

「本当は姉である王妃だけを迎えるはずだったが、侯爵が姉は容量が悪い、妹を是非と言われてな、私はそうは思わなかったが此奴等の考えを探るべく両方娶ったのだ」

「そしてどういうことが分かりましたか?」

「奴らは姉を虐げていた、だからそれをバレないように妹に監視させていたのだ、バラしたらお前の息子に危害を加えると脅してな。それが分かった私はその侯爵一家を処刑、側妃は日の塔へと幽閉する罰を与えた」

「時間がかかったのですね」

「奴らはなかなか尻尾をださなかったのでな、そして今回の件、一体どうするべきか……」

「真祖様私を町に出させてください、護衛やルカード様を隠して」

「何?」

「考えがあるのです」


 私は我が子を真祖様に任せて、夜の町へと繰り出しました。

 一人ひっそり歩いていると、貴族服のルカード様──そっくりの吸血鬼が現れました。

「やぁ、我が妃フィミアよ! こんなところでなにを?」

 私は笑い出しました。

「何がおかしいんだい?」

「だって、我が妃なんてルカード様は呼ばないもの」

 本当のことを言ってヒールをカツンと鳴らし、水魔法で、彼の動きを拘束します。

「くそ!」

「まさかお前が犯人だったとはな、愚弟フォルスよ」

 ルカード様が険しい表情でそっくりの吸血鬼──異母弟であるフォルスを見ます。

「ルカード! 何故お前なんだ! 何故俺じゃないんだ!」

「お前は昔から欲しがりだった、何でも奪いたがった、お前の母親同様にな。側妃がお前が公爵に預けられてから日の塔へと幽閉されたのを知っているだろう。私の母である王妃を害なして大怪我をさせたからだ」

「俺の母親の罪は俺の罪だってか⁈ ふざけるな‼」

「おだまりなさい」

 私はフォルスを睨み付けます。

「国を混乱させる為だけに、一人の娘をだまし妊娠させ、子どもを産ませたのです。それだけで貴方にはこの国にいる資格がないのが分かります」

「その通りだ、フォルス」

「父上⁈」

「御真祖様⁈」

「父上! どうしてなんだ、なんで俺じゃだめなんだよ!」

 御真祖様は我が子を抱きながら言った。

「お前ではこの国は任せられぬのだ、此度のような事件を引き起こし、幼い頃には母親にそそのかされてルカードを殺そうとしたこともあったであろう」

 初めて知る事実に私は驚愕します。

「ああ、父上達とあの屋敷に行ったとき湖に突き落とされた事か……やはりわざとだったのだな、しかもお前の母に言われて!」

「だって、母さんが彼奴さえいなければ俺が王様になれるって!」

「馬鹿者!」

 御真祖様の怒声に我が子が目覚め泣き出した。

「御真祖様」

 私は御真祖さまに近寄り、我が子を抱きしめなだめる。

「フィミア様、私があやしておきます」

「メリーお願い」

「はい!」

 メリーと護衛が少し離れた場所に居ると、御真祖様は息を吐き出し、じろりとフォルスを見つめた。

「お前も母親と同じように日の塔へ送る」

「な⁈ おい、そんな事をしていいのかよ‼」

「そしてお前が産ませた子はお前を預けた公爵夫妻に預ける、ルカードそっくりの別人だったということを報告させた上でな」

「っ……」

「金のない子爵家の娘をだまして、もし問題があったら子爵家に全ての責任を擦り付けようとしたのは明白だ」

「そうですわね、子爵家の方々は本当にルカード様と思っていらしたものね、育てる金もないからどうか助けて欲しい責任を取って欲しいと言われた時は驚きましたが……」

「近衛兵、このものを連れて行け! お前はもはや他人、遠慮はせん!」

「父上、そんな、あんまりだ!」

「あんまり?」

 私は彼の頬をひっぱたきました。

「公爵夫妻の元でおとなしくしていれば何も問題は起きなかったのに、貴方は問題を起こしたのです! 弱い立場の方を利用して、自分の都合の良いように行かないと子どものようにだだをこねて! ルカード様が何故選ばれた? そんなの選ばれて当然です、母親のいいなりになって異母兄を殺そうとしたり、何でも欲しがって奪うなど略奪癖と、他害癖があり、殺しを命ずるような母親のいいなりになるような男に国を任せられますか!」

「う、ぐ、ああ」

 フォルスはボロボロと泣き出しました。

「……連れて行け」

 子どものこころのまま大人になり、自分の都合のよい空間を作り出そうとした結果、フォルスは全てを失うことになりました。


 そして件の生まれた子は引き取られ、公爵夫妻の元で育てられているそうですが、王籍からは除籍されているそうです。


「別人にだまされたとは言え、ルカード様の名誉を傷つけてしまい申し訳ない」


 とその子爵からは謝罪がありました。

「やれやれ、波瀾万丈になりそうですわね、これからも」

 私はふぅとため息をつく。

「国の為悪女をやるのも辛いですわね」

「だから君は悪女じゃない」

 我が子をあやしながら言う私に、ルカード様がおっしゃりました。

「君は美しい、人じゃなくなっても、変わらずに美しいままだ」

「有り難うございます、ルカード様」


 その後私は子宝にも恵まれ、御真祖様が公から退いた後、国王となったルカード様を生涯ささえ続けました。

 薔薇の期間と呼ばれ、国は大いに発展していきました。


 その間に私の父母は死去、妹は人間の夫を迎え子を成し、家を紡ぎましたが、老衰で亡くなりました。

 私の侍女のメリーも亡くなりました。


「フィミア様……」

「メリー今までよく本当に仕えてくれました……本当に」

 年老いたメリーの手を掴む。

「フィミア様はいつまでもお美しいです……心も、お姿も……どうかそのままで……」

 そう言ってメリーは目を閉じました。

「メリー?」

 医師の診断で死亡が確認され、私はつぅと涙を流しました。


 私が父母と妹、メリーが亡くなった時が私が私情で涙を流した時でした。

 悪女と言われた私でも、愛しい家族の死は堪えました。

 その後の私の侍女はメリーの娘が引き継ぐことになりました。

 彼女は──


「母を幸せにしてくださった貴方様に私達一族はお仕え続けます」


 といいました、そんな彼女もいずれ見送ることになるのでしょう。


 人間で無くなった事で後悔したのは大切な人間を見送る側にばかりなってしまうことでした。


 でもそれ以外はありませんでした。


 ルカード様はそんな私をいつまでも愛してくれて、国王を退いてからは二人でゆっくりと長い余生を過ごすことにしました。

「ルカード様」

「なんだい、フィミア」

「愛しています」

「私もだよ」

 抱き合い口づけをします、月夜の下で幾度も、幾度も──







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悪女と呼ばれた私は吸血鬼の国に嫁ぐ~嫁いだからって黙ってると思ったら大間違いですわよ~ ことはゆう(元藤咲一弥) @scarlet02

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