潜窟の月虹

「もうそろそろ寝るか。これ以上は明日に響く」

「うん」

 彼の言葉に、わたしは読んでいた本をぱたりと閉じた。それを確認した彼が、枕元のランプにすっと手を伸ばす。

 電気もない。車もない。言葉も、文化も、何もかも異なるこの世界に、突然わたしは飛ばされた。

 彼を、警醒させる存在として。

 彼は、忌子として生まれたらしい。彼の中に潜む〝何か〟が、この世界に災いをもたらすらしい。

 出会うべきじゃなかったのかもしれない。けれど、出会ってしまったから。

 愛して、しまったから。

「おやすみなさい」

「ああ。おやすみ」

 決めたのだ。ふたりで。

 運命を壊そうと。


 未来を、作ろうと。

 

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