第18話 幼馴染を異性として意識してるわけないよね?

「今日からこのクラスに転校してきました、紫鳥純恋です! 小学校卒業と同時にこの町を引っ越して、約三年ぶりに帰ってきました! 改めて、皆さん仲良くしてくださいっ!」


「純恋~、久しぶり~!」


 朝礼にて、純恋が転校生としてクラスメイト達に自己紹介していた。今日から僕たちのクラスに、純恋が在籍することになるようだ。


 僕の通う高校は、横の繋がりが非常に強い。クラスメイトの中には、小学生の頃から今までずっと学校が同じだという人が何人もいる。


「みんな~! 久しぶり~‼」


 だからこそ、このクラスには純恋のことを知っている人が何人もいる。そのおかげで、彼女は転校生でありながら、既にクラスメイト達と馴染んでいた。


「紫鳥の席は、相生の後ろだ」


 担任教師の指示に従って、純恋は僕の後ろの席に着席した。今までは僕が窓際一番後ろの席だったのだが、これからは純恋が一番後ろの席ということになるようだ。


 後ろに座る純恋が、僕の背中をつんつんと突いてくる。鬱陶しいと思いながら、僕が後ろを振り向くと、


「隣に人がいなくて寂しいから、ムーちゃんがわたしのこと構ってね?」


「断る」


「え~、なんで~!? 構ってくれないなら、ムーちゃんが過呼吸起こすくらいくすぐりまくるけどいいの? ムーちゃんが脇弱いことくらい知ってるんだからね?」


「くっ……。姑息なことを……」


 そんな風に言われてしまったら、僕は純恋に構ってやるしかなくなる。


 これからの高校生活は、面倒なことになりそうだ。



 ◇



 朝礼後、さっそく純恋と話をしようとするクラスメイト達が、彼女の席の周りに集まってくる。前の席の僕は居心地が悪くなり、一人トイレに向かう。


 トイレの中で、僕は未だ学校に来ていない愛純にLINEを送る。


【学校来ないの?】


 すぐに既読がつき、返信がくる。


【今日は休む】


 言うまでもなく、今朝のことが原因だろう。


【放課後、お見舞いに行くよ。その時に、今朝のことをちゃんと謝りたい】


 僕がそう送ると、既読はすぐついたのだが、返信がこない。三分ほど待つと、ようやくメッセージが返ってくる。


【私も、放課後までに色々考えて、望とちゃんと話したい。放課後私の家に来て。幼馴染のあの子は連れてこないで。一人で来て、絶対。連れてきたら浮気って判断するから】


【わかった。絶対に一人で行くよ】


 その後、愛純から自宅の位置情報が送られてくる。この位置情報を参考に、愛純の家まで向かえばいいのだろう。


 愛純とのやり取りを済ませ、授業開始直前に教室に戻ってくると、純恋の周りにごった返していたクラスメイト達はいなくなっていた。


 ほっと安堵して、僕は自分の席に着く。すると、


「もう、ど~こ行ってたんだよっ」


 ぼす、と何の躊躇いもなく、純恋が僕の膝の上に座ってくる。


「ちょっ!? おい、何やってんだよ!?」


 純恋がいきなり大胆な行動を取ってきたことで、クラスメイト達の視線が突き刺さる。


「みんな見てるって……!」


「え~? わたしとムーちゃんが幼馴染なことは周知の事実だし、別に気にしなくてもいいんじゃない? ほら、小学生の時はよくやってたし、気にしない気にしない」


「あの頃とはもう違うだろ! 僕には彼女がいるって何度も……!」


 僕が純恋を引き剥がそうとしても、彼女はびくともしない。


「彼女がいるとかいないとか関係ないって。わたし達はお互い、異性として意識してるわけじゃないから問題ない。そうでしょ?」


「そうでしょって……。そんなわけ……!」


「ん~? それとも、ムーちゃんはわたしのこと女として意識してんの~? エロエロな目線でわたしのこと見てるんか~? うりうり」


 からかうように笑いながら、純恋は腰をくねくね動かし、僕の股間にふっくらとしたお尻を押し付けてくる。


(い、意識するに決まってんだろ!? いくら幼馴染とは言え、こんなことされたら誰だって意識するだろ!?)


 小学生の頃は、純恋に対して女を感じたことはなかった。しかし今は、誰もが目を惹かれるその可愛らしい顔や、鼻孔をくすぐる香り、たわわに実った胸やお尻に、否が応でも女を意識させられてしまう。


「や、やめろって……」


 僕は血流の流れが股間部に集まるのを感じながらも、アソコが大きくなってしまわないように必死に耐える。ここでそれを大きくしてしまえば、意識していることを認めることになってしまう。彼女がいる身で、そんなことは許されない。


「ふふ、我慢してるのバレバレだよ? すっごい情けない顔してる。まあ、そういう顔のムーちゃんも、可愛くて好きだけど」


「や、やめてくれって……」


「やめない♡」


 僕を誘惑するように、純恋は腰をふりふりと動かす。彼女は僕の両手を恋人繋ぎのように握り締めてきて、


「我慢しなくてもいいよ? トイレ行きたくなったらちゃんと言うんだよ?」


 その言葉で、僕はもう限界だった。


 必死に我慢してきたけれど、遂に僕の大切な部分は大きく育ってしまった。


(最悪だ……。最低だ……)


 僕の心は、愛純に対する罪悪感で満たされた。


「あ~、やっちゃったね? ふふん♪ わたしのこと意識しちゃった?」


「違う。断じて違う……」


 それでも僕は、否定する。否定することでしか、この罪悪感を溶かすことは出来なかった。


「もう、身体はこんなにも素直なのに、その口は嘘つきだね? 幼馴染のわたしに嘘吐いちゃダメなんだぞ~?」


 純恋は僕の唇に人差し指をちゅっと当ててくる。その後、その人差し指を自分の唇に当てて、


「とりあえず、朝のノルマは達成~。もうチャイムなるから、戻るね?」


 そう言って、僕の膝から離れ、後ろの席に戻った。そのタイミングで、丁度授業の始まりを告げるチャイムが鳴った。


「あの二人、付き合ってるのかな?」


「そうっぽくない? あの二人、小学生の頃から仲良かったし」


「もしかして、純恋がこんなタイミングで帰ってきたのも、相生くんと同じ高校に通いたいからって理由だったりして!」


「それ、あるかもね。じゃないと、こんな変な時期に転校してこないだろうし」


 近くの席に座る女子の会話が、僕の耳に入ってくる。僕と愛純が付き合っているということはクラスメイトのほとんどが知らないし、今の僕と純恋のやり取りを見れば、そう勘違いされるのも無理はないか……。


 だが、その勘違いが噂として広まるとまずい。僕と愛純の間に、新たな亀裂が入りかねない。


「よーし、授業始めるぞ~」


 一限目の教師が教室に入ってくると、周りの生徒たちの会話も収まる。日直が「起立」と言うと、クラスメイトが続々と席を立つ。そんな中、僕はまだアソコの大きさが戻っていなかったため、立つのを躊躇ってしまう。しかし、ここで座ったままだと余計僕に注目が集まってしまう。


 僕は恐る恐る、前屈みになりながら席を立った。


(よし、これで周りにバレずに済む……)


「しっかり起立しなよ、ムーちゃん」


 しかし、後ろの純恋が余計なことを言ったせいで、僕の完璧な作戦は崩れてしまった。


 お前のせいだろ、という恨みを込めた視線で純恋を睨む。


「もしかしてムーちゃん、前屈みにならなくちゃいけない理由でもあるのかな?」


「お、お前なぁ……!」


 などと言葉を交わしているうちに日直の号令は終わり、全員で「お願いします」と言ってからそれぞれ着席する。


 その間も、純恋はくすくすと僕をからかうように笑い続けていた。


(く、屈辱だ……!)


 その後しばらく、僕の股間は彼女のお尻の感触を忘れられず、ギンギンなままだった。

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