幕間 アタシだけを見て

 物心ついた時から、アタシ、相生あいおい姫奈ひめなは、お兄ちゃんのことが好きだった。もちろん、家族としてではなく、異性として好きだった。


 アタシは小学生の頃から何人もの男の子に告白され、好意を向けられてきたけど、正直全く彼らを魅力的だと思わなかった。だって、アタシの一番は、ずっとお兄ちゃんだけだから。


 血が繋がってるとかそんなの関係ない。お兄ちゃんが好き。それだけがアタシにとっての全て。


 アタシと違って、お兄ちゃんは女の子に全くモテない。だから、お兄ちゃんは絶対にアタシのものになると、そう安堵していた。油断していた。


 兄妹だから結婚は無理でも、将来は独身のお兄ちゃんとアタシで二人暮らしする。そんな未来を思い描いていた。


 だけど、そんな未来を確信していたアタシに、予想外の絶望が降りかかってきた。


 ――お兄ちゃんに、彼女が出来た。


 その瞬間、アタシの人生は終わった。もう死ぬしかないと思った。


 病んだ。完全に病んだ。リスカする? いやそんな勇気はない。死ぬ勇気も実際ない。


 どうすればいい? アタシは考えた。結論はすぐに出た。あの女とお兄ちゃんを別れさせるしかない。


 あの女を一目見て、アタシと『同類』だと思った。アイツは、アタシと同じでお兄ちゃんに異常な執着を見せている。


 負けない。絶対に渡さない。


 ごめんね、お兄ちゃん。アタシ、お兄ちゃんに一つ、謝らなければならないことがあるみたい。


 お兄ちゃんはアタシに、「いつも通りに戻ってくれ」と望んだ。お兄ちゃんを悲しませたくなかったアタシは、その要望に応え、「いつも通り」に戻ったかのように演技した。


 でも、無理だよお兄ちゃん。もう、前みたいに戻るなんて無理だよ。


 ――お兄ちゃんには悪いけど、アタシは絶対に、あの女をお兄ちゃんから引き剥がす。


 そこに関しては、お兄ちゃんの意思に反してでも成し遂げてみせる。


「はぁ~~~~っ! お兄ちゃん好きぃ。だいしゅきぃ。アタシだけを見てよぉ。あんな女、早くポイって捨ててよぉ……」


 登校中、我慢できなくなったアタシは、通学路の途中にある公園のトイレで致す。


 幸い、まだあの女にお兄ちゃんの貞操は奪われていない。奪われる前に、絶対に別れさせる。


「待っててお兄ちゃん。アタシが、守るからぁ! ~~~~ッ‼ ……はあ、はあ」


 アタシは学生鞄からお兄ちゃんのパンツを取り出して、匂いを嗅ぐ。


「あぁん、ダメ。こんなじゃ満たされない……。切ない。切ないよぉ」


 ――お兄ちゃん、お兄ちゃん。


 アタシは何度も呼びかける。


 ――お兄ちゃん、お兄ちゃん。


 どうか。どうか。


「アタシだけを、見て……」


 朝っぱらから何度も何度も致し、疲れ切った状態でアタシは学校へと向かった。

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