幕間 君で慰める

「はあ、はぁ、はあっ。相生くん、相生くん‼」


 吐息混じりのそんな声が、私、重叶愛純の口から漏れ出ていた。


「相生くん好きっ。大好き大好き大好きっ」


 暗がりに染まった部屋で、私は気持ち良くなりながら愛を叫ぶ。


 しかし、どれだけ愛を叫んだところで、その声が相生くん本人に直接届くことはない。


 何故なら、暗がりに染まったこの部屋には、相生くん本人はいないから。


 私は部屋で一人、自分のことを慰めていた。


 この行為は私にとって、何も特別なことじゃない。


 相生くんのことを考えながら自分を慰めるのは、もはや私の習慣になっていた。


「はあ、相生くんっ! 今日の君は、私が見てきた中で史上最高に可愛かったよっ!」


 私の左手は、下半身に伸ばされている。そして、右手に持つのはスマホ。


 私はスマホの画面を見つめながら、必死に左手を動かす。


 スマホには、盗撮した相生くんの横顔が映っている。


 私のスマホには、何枚もの相生くん盗撮写真が保存されている。


「うへへぇ。これからは、合法で君の写真が撮り放題なんだね……♡」


 私はスマホをスワイプして、次々に写真を切り替えていく。やがて、数時間前に撮影したばかりの写真が、画面に映し出される。


 その写真は、今日の図書室デートの時に撮影したもの。


 帰り際、「付き合った記念」と称して、私と相生くんのツーショット写真を撮ることに成功した。


 私と相生くんが腕を組み、二人の身体が充分に密着した状態で撮影されている。


 女性慣れしていない相生くんの照れたような顔が、一段と可愛い。


 この写真は私にとって、永久保存版だ。何があっても紛失しないよう、既に複数の媒体でバックアップを取ってある。


「ああ、可愛いよぉ。好き、好き、好きっ」


 相生くんのあまりの可愛さに、私の左手を動かす勢いが激しくなっていく。


「もう絶対に離さないっ。このまま添い遂げるっ」


 そのために、必死に彼が好きそうな女性を演じ、付き合うとこまでこぎ着けたのだから。


 手放すつもりは一切ない。


「はあ、はぁ、はぁ。明日からはもっと、楽しいことをしようね♪ あぁ‼」


 明日からのことを想像しただけで、限界が近くなる。


「~~~~~~~~ッ‼」


 彼との輝かしい未来を想像し、私は果てた。


「……はあ、はあ、はあ」


 荒れた息を整えるように、ゆっくりと息を吸って、吐いてを繰り返す。


 しばらくの放心状態の後に、私は再び、下半身に左手を伸ばした。


「はあ、はあ、はあ……。はあ、はあ、はあ」


 ――そうして、私の夜は更けていく。

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