第8話

約束の日までの私は、イアン少年に持っていくと約束したガラスを何枚か用意して、自分の習作の仕上げをして、店番をして、所謂手持ち無沙汰に過ごしていた。

何も手伝えない事が申し訳なくて、夕飯が手の込んだものになっていった。

クレメンテ様はきっと気づいているけど、微笑んで全て美味しいと平らげてくれる。

優しさに感謝しながら、やっと約束の日までこぎ着けた。


「エリアーデ様!見てください!形になりましたよ!」

挨拶もそこそこに、イアン少年は大ハシャギの様子で私の手を引いて部屋の中を進んでいく。

「サイオン様、お世話になりますわ。今日もよろしくお願いいたしますわ」

手を引かれて別室に移動しながらの挨拶になってしまって、申し訳なさが募る。

「エリアーデ様、こちらこそ、申し訳ありません。あなたがお見えになるのを、あの子は今か今かと待ち構えておりまして…申し訳ありません…」

「お気になさらず」

「エリアーデ様、これです!名付けて、シュバット君初号機です。改良の余地はあるかと思いますが、なかなかの出来です。お役に立てるはずです」

「すごい…本当に3日で形にしてしまうなんて…(名前は、まぁ…良しとしましょうか…)」

「はい。頑張りました。なかなか楽しい時間でしたよ。使い方を説明しますね。あ、ガラスはお持ちいただけました?」


持ってきたガラスを渡しながら、使い方の説明を受けた。

さっぱり原理などは理解できなかったけれど、とにかく高圧の水でシュバッとくり抜けるようだった。

「角度の調整できますし、この薄さなら2枚まとめていけますね。ある程度までの大きさまでは、くり抜く型さえあればどんな形でも行けますよ。一辺が中指くらいの大きさまでなら、たぶん?形を絵に描いて、大きさを言ってもらえれば、いくらでもお作りしますよ」

「すごいわ…違う素材でも2枚なら重ねて抜けるの?例えば、銀板とガラスとか」

「できますよ。素材は、関係なく抜けます。あとは、このつなぎ目だけは無くせないので、ここだけプチッと指でお願いします。その際に残るデコボコは、やすりをかけてもらえれば良いかと思います。いかがでしょう?」

「すごいわ。作業時間の効率化には、充分よ。ありがとう。どう言えばこの感動が伝わるかはわからいけれど、感動しているわ。本当に、ありがとう」

「どういたしまして。また面白そうな話があったら、聞かせてくだい」

「サイオン様も、ありがとうございます。本当に助かりますわ。彼は、すごい魔道具師です」

「エリアーデ様、こちらこそ、ありがとうございます」

何度か一緒に練習をしてから、形と大きさを示す絵を原寸大で書いて送ることを約束して、私は早々に二人と別れて家に急いだ。

少々かさばるけれど、作業台において使える大きさであるのも嬉しいし、何よりやっと作業できる。

クレメンテ様に絵を書いてもらったらすぐに作ってもらって、イアン少年は2日程度あればできると言っていたから、作業の準備をしなくちゃ。


「クレメンテ様、ただいま戻りました」

「おかえり、エリア。どうだった?って、大荷物だね。これが言ってた魔道具かい?」

「はい。送っていただきましたから、大丈夫です。見た目ほどは、重たくはありませんよ。イアン少年は、すごい才能をお持ちでした。練習してきましたから、早速お見せしますね」

ガラス1枚、ガラス2枚重ね、銀板とガラス1枚ずつ、銀板2枚重ねと順番にくり抜いて見せると、くり抜くたびにクレメンテ様の目がキラキラと輝いて、楽しそうだった。

「これは、すごいね!これで、エリアは発狂しなくてもよさそうだね。よかった」

「はい。ですから、クレメンテ様。原寸大で、くり抜く形の絵を描いてくださいませ。くり抜き用の型を作ってもらうのに必要なんです。私じゃ、まだ上手には描けませんから…」

「わかったよ。すぐに用意しよう」

「ありがとうございます。しばらく、鬱々とした時間でしたから、やっと作業できると思うと嬉しいです。記念に今日は、外に食べに行きませんか?今日だけ、少しだけ、贅沢がしたい気分なのです。だめですか?」

「はは。いいよ、食べに行こう。毎日、作ってくれてるから、たまには楽してもらいたいと思っていたんだ」

「ありがとうございます。私、着替えてきます」


クレメンテ様が選んだのは、自家製のワインとチーズが自慢の食堂だった。

貴族街を出ると安くておいしいお店は結構あって、王宮での食事とは全く違う料理に私は興味津々な顔をしていたらしい。

「エリアは、外で食事をすると、本当に楽しそうだよね。ずっとニコニコしてる」

「だって、楽しいですよ?いろいろな匂いや音がして。王宮の料理長が作る料理は、もちろんおいしいのですけど、街に出ればもっとたくさんのいろいろな料理に出会えますもの。簡単にお家で作れそうなものは、帰ってから練習しようと思っていますしね」

「研究熱心で何より。エリアの研究で、家でもおいしい料理が食べれるのは嬉しいから、たまにはまたこうして外に食べに来よう」

「はいっ」

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