第24話怖いこと

カフェでお茶をし帰ってきて家の中にある時計を見てみると思っていたよりも時間が経っていた。


「思ってたより時間立ってたみたいね」


「でもいいんじゃないですか涼んでゆっくりできましたし」


「それもそうね」


「先によるご飯の支度をしとかないと」


言いながら冷蔵庫を開ける。


「…夜ご飯を作るための材料を買っておくの忘れてた」


特に焦った口調でもなくいつも通りの無機質な口調で言う。


「ああ、俺もすいませんすっかり忘れてました」


「そこの近くのスーパーですぐ買ってくるからちょっと待ってて」 


「それなら一緒に俺も行きますよ」


「平気よ買い物ぐらいだったら私1人で大丈夫だし」


「毎回無月さん1人にご飯の買い出しをさせるのも悪いですしたまには俺も一緒に行きますよ」


その俺の言葉には何も返さず靴を履き立ち上がる。


俺も何も言わずに後ろについていく。


「いつもどこの店でご飯の買い出ししてくれてるんですか?」



「家から一番近いスーパーしか使ってないけど」


うちから一番近いスーパーで足を止めその中へと入る。


「なんかここのスーパーに来たの久しぶりのような気がします」


「私があなたの家に居候するまではちょこちょこここに来てたんじゃないの?」


「基本的には俺わざわざこういうところに買いに来るの面倒なタイプなんでネットで頼んじゃったり勇輝に頼んだりとか」


「もちろんその時のお金は俺が自分で出してますよ」


「別に疑ってない」


「そういえばあなたって私が料理を作るまでは食生活どうしてたの?」


「カップ麺とかお弁当とかサンドイッチとかおにぎりとかそんな感じですかね」


「そんなものばっかり食べてたら体壊すわよ」 


「それは自分でもわかってるつもりなんですけどそれ以外に自分で生きていく方法がなくて」


生きていく方法がないとオーバーに行っているが実際のところはただ料理をするのが面倒なだけだ。


「その時に自分で自炊をしようと思わなかったのかしら」


「俺が自分で料理を作ろうとしたら必ず珍事件が起こりますよおそらく」


学校の家庭科の授業で何かしらの料理をしたことはあっても自分の家で料理をしたことは一度もない。


「でも勇輝に身の回りの介護とか料理とか作ってもらってるんでなんとかなってますけど」


「ところで今日は何が食べたい?」


俺の話がひと段落ついたところで何気ない自然な口調で尋ねてくる。


「特に食べたいものはないですね無月さんが作ってくれたものだったら何でも食べます」


「それならいい」


それでも何か食べたいものを考えてくれと言われるかとも思ったがそんなことはなく、目の前に並んでいる食材を一通り見ていく。


無月がかごに入れて行った食材は豚肉もやしとその他の野菜とアボカド。


それからもいくつかのものをかごに入れて行った。


レジに並びキャッシュレスで買い物を済ませ家へ戻る。



「ご飯もう少ししたら作るからこの袋キッチンの上に置いておいていいかしら?」


「ええ大丈夫ですよ」


無月は炊飯器の普通と書いてあるボタンを押しセットする。

 

俺はテーブルの横につきそのご飯が炊き上がるのをまつ。


「あなたって怖いものとかある?」


椅子に座り俺に尋ねてくる。


「まんじゅう怖い」


「それで本当は…」


本当にどうでもいいと言わんばかりの一切感情がこもっていない言葉を返してくる。


「この気の利いた小粋な返しのどこに不満があると」


「別に不満があるわけじゃないけどわざわざ落語の流用りゅうようで話をそらす必要はあったのかと思って?」


「別に話をはぐらかしたつもりはありませんよただちょっと言葉遊びをしたくなっただけです」


「冗談はこれぐらいにしておくとして俺が怖いのは人から助けてもらえなくなった時ですかね」


「と言うと?」


続きの言葉を促してくる。


「俺が生まれ持ったこの体は客観視してみても人の助けが必要なのは明白です」


「もちろん普通の健常者の人も誰かしらの助けがないと生きていけないのは変わりませんけど」


「俺は倍それを必要とするでしょう」


「あなたの場合は普通の人の倍以上助けが必要なのは確かに明白ね」


「これは単純に私の好奇心から来る質問だけど今までいろんな人と出会ってきた中で変な人とかいなかったの?」


「たくさんいましたよっていうか変な人なんて小石を投げたら当たるぐらいうじゃうじゃいますよ」


「最初は良かったんですけどだんだんそれに耐えられなくなってきたから今この状態っていう部分もあるんですけどね」


「しばらくしたら何か仕事を始めようとは思っていて、たまにネットで色々調べてはいるんですけどどういうのに向いてるんですかね俺」


「さあまだあなたと出会ってそんなに長い時間一緒にいるわけじゃないからわかんないけど」


「なんとなくだけどあなたは探偵に向いてると思う」


「俺そんなに頭がいい方じゃありませんよ」


「あなたの場合は頭の良さよりも人間観察の能力の方が圧倒的に優れてるからそこを活かせばうまくいくんじゃないかしら」


「探偵だったらここの家を拠点にしても問題ないし」


「探偵の仕事もいいと思うんですけど俺の場合考えることはできても自分1人でなかなか動くことができないので誰か助手が必要なんですよね」


「勇輝さんにでも頼んでみたら」


「なんとなくだけど正義感が強そうだしお互いの信頼関係もそれなりにあるから結構いいコンビになると思うけど」


「確かに頼めば引き受けてくれそうではありますけどね」


「もしそうなったとしても今の状態とあまり変わらないから問題はなさそうだけど」


「俺が頭で考えて稼いで勇輝に足で稼いでもらうってことを考えると今と変わりませんね」


「しかも勇輝さんの場合はその情報集めをした分の給料とあなたの介護の分の給料があるから今よりも良くなるんじゃない?」 


「1日でかなりのお金が飛んでいきそうですけどね」


でもその仕事を続けていくためにはその上で利益を出さないといけないというのだからかなり大変だ。


「まあでもこの自分の家を拠点にして動くかどうかは悩みどころですけどアイデアとしてはいいですね」


「過去にあなたに依頼をしてきた人がいきなり怒り狂った形相でこの家に乗り込んできてさしてくるかもしれないけどね」


「非現実的なようでリアルなことを言うのはやめてください」


「とある一軒家に住む1人の19歳の男性が覆面をかぶった何者かに刺され死亡」


「新聞の見出しみたいにするのやめてもらっていいですか」


「大丈夫新聞の編集は勇輝さんメインでやってもらうから安心して」


「安心できる要素1個もないんですけど」


愛も変わらず無表情のままなのでどういう風に考えているのかは分からないが確実に俺で遊んでいる。



一度一息ついた後こう尋ねる。


「逆に無月さんは何か怖いものとかあるんですか?」


「お茶が怖い」


まだその落語の小粋な返し続いてたのか。


俺が最初に始めたことなのでそれには何も突っ込めない。


「最初の方は怖いっていう感情もあったのかもしれないけど途中から何が怖いのかもう自分でわからなくなってた」


「考えなくていいように自分の心を守れるように防衛本能が働きかけてくれたのかもしれないけど」



少し間を開け何かを言おうとしたその時炊飯器がご飯が炊き上がったことを音で教えてくれる。


「さてご飯にしましょうか」


一瞬何を言おうとしていたのか尋ねようとも思ったがわざわざ聞くことでもないかと思い俺はただその言葉に頷く。


それに今ここで何を言おうとしていたんですかと言葉を投げかけたとしても正直に答えてくれるとは思えない。


なら本人が話してくれるまでじっと待つだけだ。

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