第23話中国宗教集団爆発事件

「初めに言っておいた通りうちに特に目新しいものも面白そうなものもないでしょ」


「確かに面白そうなものは何もありませんね」


もしかしたら家に来ればお父さんとお母さんについて何か分かる思い出の物が見つかるかとも期待していたがそううまくはいかないようだ。


「あのここの近くにある図書館に行ってみませんか?」


「あなたがそうしたいなら私は別に構わないけど」


「私の家で調べたいことはもう何もないってことでいいのかしら?」


「もしかしたらと思って念のために連れてきてもらっておいて言うのもあれなんですけど特に何もなさそうなので」


推理小説とかドラマの世界だともっと細かいところまで調べておくべきなんだろうが俺は探偵でもなければ刑事でもない。


しかも赤の他人というほどの知らない間柄でもなければかと言ってそこまで仲がいいわけでもない。


この微妙な距離感の相手に家の中を探られるのは嫌だろう。


だがこれは俺の勝手なイメージだが無月の場合調べていいかと尋ねたら普通にいいと言ってきそうだがここは自主的にやめておこう。


それから俺たちはそのアパートを出て図書館に向かった。


情報を調べたいだけだったらスマホを使えばすぐに出てくるのは分かっているのだが少しの気分転換に図書館に行くのもいいだろう。



気分転換に図書館に来たというのはあるが何か宗教のことについて調べようと思ったのも事実。


なんとなく図書館の本棚に並べられている本の中から宗教に関連しそうな本を探してみる。


「宗教に関する本とかはありませんかね?」


「歴史に関する本のコーナーに行けばあるにはあると思うけど私たちが探し求めてる情報が書いてあるかは分からない」


「…まあでもそういうところを探していくしかないか」


それから歴史の本がメインで置いてあるコーナーに向かい1つ1つ本のタイトルを見ていく。


関係ありそうなものは本棚から引っ張り出し2人で中身を確認するというのをしばらく続けた。



確かに歴史の本の中に宗教に関する本はあったが主に宗教に関する説明の本ばかりで事件とはなんの関係もなさそうだ。


勇輝が家に来た時図書館から借りてきた30年前の事件に関する新聞を持ってきたことをふと思い出す。


「これって!」


前に見せてもらった新聞とは少し違うが見出しの部分に大きく中国宗教集団爆発事件と書かれていたので手に取って確認する。


その新聞を膝の上に置き周りにいる人たちとぶつからないように気をつけながら図書館の中にあるテーブルに着く。


テーブルの上に新聞を置き広げる。


そこに書かれていた内容は前に3人で新聞を見ながら確認した内容とほぼ一緒だった。


あの時新聞に書かれていた表面の部分の情報は一通り確認したが裏に書かれている情報は一切見ていないことを思い出す。


新聞の裏の部分を見る。


するとそこに乗っていたのはその時宗教メンバーだった人たちの顔写真だけだ。


「お父さんとお母さんがもし直接じゃなくても30年前の事件に関わってたんだとしたら…」


「30年前には2人とも出会ってることになりますけど」


「お父さんとお母さんは歳いくつぐらいなんですか?」


「確か今は40前半だったと思うけど?」


曖昧な口調で言う。


「その情報を踏まえた上で考えるとこの事件が起こったぐらいの時はちょうど10歳ぐらい」


「子供の時にこの事件に直接関与しているとは考えにくい」


「この爆発が何かの実験の失敗による爆発だったとしても子供に実験をやらせるなんて言うむしろ失敗のリスクを上げるようなことをするとも思えない」


「これは私が昔聞いた話なんだけど出会ったのは2人が24ぐらいの時って言ってたから少なくともその事件に2人で関与してるなんてことはないんじゃないかしら」


その情報を踏まえた上で再び色々と考えてみたが特に納得のいく答えは導き出せなかった。


「2人が出会った時の馴れ初めとかって聞いたことないんですか?」


「私が物心ついた時にはもうどっぷりとはまってたからそれを聞くっていう考えすら思い浮かばなかったわね」


「それでも別の人から聞いたとかなかったんですか?」


「それが2人が24の時に出会ったって話、近所の人から聞いたの」


そんな会話をしながらその新聞の裏に載っている顔写真を見ていくと1人の男の子の写真が目に止まる。


爆発事故に巻き込まれてしまったのかその男の子の頭の部分に火傷の跡がある。


写真の下にはその男の子の名前が書かれている。


張俊。ちょうしゅん


まだ数分しかここにいないがいろいろなことを調べて今にも頭から湯気が立ちそうだ。


「今日は朝から色々な所に行ってたし少し休んだら」


「それもそうですね」


俺は読んでいた新聞を元の場所に戻しその図書館を出る。


「ここの近くに結構広くてこの時間人があまりいない喫茶店があるんだけど行ってみる?」


無月からそういう提案をされたことがあまりなかったので少し驚いてしまう。


「それじゃあ行ってみます」


特に断る理由もないので後をついていく。



お店の中に入って見ると確かにお昼時の時間帯にしては人が少なく店の中も広い。


お昼時と言ってもまだ少し早いが。


店員に咳に案内してもらい座る。


今まで湯気が立ちそうなぐらい考え込んでいた俺にとっては店の中の温度は涼しくちょうどいいぐらいの温度だった。


「あなた何か頼む?」


「俺はまだそこまでお腹空いてないのでコーヒーだけで」


「カフェラテトブラックどっちがいい?」


「ブラックで」


おそらく俺に気を使ってここに誘ってくれたんだろう。


俺がそう言うとテーブルの横に置かれている呼び出ボタンを押す。


自分が何を頼むのか考えなくてよかったのかと思ったがどうやらその必要はなかったらしい。


「すいませんブラックコーヒー2つお願いします」


それからしばらくするとブラックコーヒーがテーブルに届く。


「シュレディンガーの猫ってどういう観測理論なの?」


「どうしたんですか藪から棒に!」


「前からシュレディンガーの猫っていうのが観測理論の話だってことは分かってたんだけど」


「それが具体的にどういうものなのかわからなくて」


「あなただったらそのことについて知ってるでしょう」


なんでそんな断定的なんだ。


「確かに知ってはいますけど人に説明できるほど具体的に知ってるかって言われたら曖昧なとこです」


俺は目の前に置かれたブラックコーヒーを一口飲んだ後説明を始める。


「分かりやすく説明すると1匹の猫が入った箱の中に毒ガスを発生させる機械を入れそれで箱の蓋を閉め」


「20分ほど経ったところで猫が死んでいるか生きているかは箱を開けてみないと分からない 」


「簡単に説明するとこんな感じです」


「箱を開けて観測するまで生きているか死んでいるかの確率は50%」


「俺も昔にネットで少し調べた程度の知識なのでそんなに自信はありませんけど」


「なるほどつまり実際に見てみるまではどっちか分からないってことね」


「でもなんでいきなりそんなことを思い出したんですか?」


「思い出したっていうより少し考えてたの」


「考えてた、何をですか?」


「別の角度から事件のことを考えてみると新しい事実が見えてくるかなと思ったんだけどなかなかそういうわけじゃないのね」


「ただ単純にまだ十分な情報が揃ってないからっていうことなのかもしれませんけどね」


「まあ最初の時と比べるとずいぶん真実には近づいてると思うけど」


「ええ、そうですね」


なぜシュレディンガーの猫のことについて思い出したのかいまいちわからないが 今まで調べてきたものと全く違う真実が分かり全ての情報が最初から調べ直しになる結果は避けたい。


とは言っても何度も自分に言い聞かせていることではあるが今回は事件を解決することがゴールではなく無月の心を軽くすることがゴールだ。

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