第2話

ひとまず情報を集めるため、俺は人が住む階層である第0層を目指すことにした。フィールドのどこかに転移門があるはずだ。


(いや、そういえば帰還の羽でも戻れるんだったな。たったの100Gしかしないアイテムだし、使ってもいいか)


俺はメニューを開くと、アイテムボックスから帰還の羽を見つけて出すよう念じる。すると手に帰還の羽が現れた。


「アイテムを出したいときも同じように念じればいいのか……」


アイテムを使う時は、プレイヤーは右手を上に掲げる。それに倣って俺も右手を掲げると、全身が光に包まれた。


光が晴れると、目の前に大きな門がある。ここは確か……王都アルベルンだったな。拠点設定してあるからここに転移したみたいだ。入国の列ができているため、俺もそこに並ぶ。しばらくすると順番がきた。


「身分証は?」

「あ、えと、ありません」


そうだった。ゲームと違って普通国に入るには必要なんだよな……。


「そうか、ギルドカードもないってことだな。なら、仮身分証を発行するには25000Gが必要だ」

「あ、じゃあそれお願いします」


俺は所持金を確認する。ゲームでいらない魔物の素材を売りまくってたこともあり1億Gほどあった。俺はそこから25000Gを出すよう念じると、アイテムボックスから出てきたので門番に渡す。ちなみにGの見た目はゲームだと金色のコインだったんだが、なんか実際に出したら銀貨や金貨みたいな形になっていた。渡す時に金貨2枚と銀貨5枚が現れてたので、恐らく価値的には金貨が10000Gで銀貨が1000Gなのだろう。


「なっ、どこから……まぁいい。これが仮の身分証になる。紛失しないよう気をつけろ」

「はい」


(アイテムボックスは普通じゃないのか?ちょっと気をつけるか)


門番に通されて門を潜ると、活気のある通りに出る。家族連れっぽい人や冒険者のような人など多くの人が闊歩していた。


(おー、ゲームでは見慣れててもこうして見ると海外旅行にきたみたいだな)


俺は新鮮な光景にキョロキョロしていると、通りすがりの人に話しかけられる。


「あら坊や、ここは初めてかい?」

「えっ、まぁ、どちらかといえばそう、です」


突然話しかけられたことでキョドリながら返事をする。その人は買い物バッグを下げてる40代ほどの女性だった。


「そうなの、なら楽しんでらっしゃいね!おすすめは広場にある女神の噴水だよ」


そう言うと歩き去っていく。俺とは桁違いのコミュ力の高さだ。


「ふぅ……」


胸を撫で下ろすと俺は再び歩き始めた。ゲームで見た通りの街並みだけど、リアルな人の営み、そしてガヤガヤと賑やかな活気があるのはゲームとは違う点だ。俺はキョロキョロと街を見渡しながら、メニューで色々なことを確認する。所持アイテムや装備品など、基本的にはゲームの頃と変わっていないようだった。なのでひとまず安心する。特に装備が健在なのは助かった。


俺が今着ている装備は神聖なローブ、神聖なネックレス、神聖な腕輪、神聖なブーツ。いわゆる神聖シリーズと呼ばれるこの一式は、能力値が非常に優れている。ヒーラーをやる者ならば、喉から手が出るほど手に入れたい装備といえるだろう。


アヴァロンオンラインの装備にはC、B、A、Sの4段階のレア度があり、神聖シリーズは最高レアのSにあたる。こいつを当てるためにバイトしてガチャに課金しまくったのは記憶に根強い。


それだけの価値がこの神聖シリーズにはあり、セット効果で回復効果+30%、各装備には知力+20%、防御・魔法防御+20%という馬鹿げた効果がある。


「まずはギルドに行くか。門番が身分証の話でギルドカードって話してたし」


この仮身分証には期限がある。だから正式に身分証を手に入れておいた方がいいはずだ。それに、階層移動にはギルドへの登録が必須になる。


(場所は確か……)


記憶を頼りに歩いていくとギルドが見えてくる。二階建ての大きな木造建築だ。俺はその扉を開くと、飲んだくれる男やクエストボードを吟味する男たちが目に入ってくる。


「酒臭い……」


ちょっと眉を顰めながら受付に行き、受付嬢に話しかける。


「あの……」

「冒険者ギルドへようこそ。なんのご用でしょうか」

「冒険者登録、お願いします」

「え?申し訳ございません、冒険者は命の危険があるため18歳未満の登録は規定により認められていないんです」

「あ……」


俺はそこで思い出す。自分の使ってる操作キャラクター、ぼっちヒーラーの容姿のことを。ぼっちヒーラーは中性的な顔立ちに真っ白な髪と肌、そして黄色と水色のオッドアイが特徴的な美少年だ。


なぜこんな見た目にしたのか、それは彼がショタコンであったことに起因する。アヴァロンオンラインではキャラクターを3人まで作成できるのだが、その残り2人のキャラクターもショタであり彼の性癖の酷さが伺えるだろう。だが安心して欲しい。彼はあくまで愛でるだけで行動には移さない紳士なショタコンなのだ。


「あ、と、俺、いや私は19歳です」

「いや、無理があります。そこまで言うのなら、5000G使って鑑定石でも使いますか?」

「はい、お願いします」


そう言って俺はポケットから取り出す振りをして5000Gをアイテムボックスから出すと差し出す。


「確かに受け取りました。それではこの石に手全体を乗せてください」

言われるがままに石板に触れると、ピカッと光る。

「はい、大丈夫ですよ」


そこで手を離すと、石板には俺のステータス情報が文字になって浮かび上がる。


ーーーーーー

名前:ぼっちヒーラー

種族:人

年齢:19

レベル:99

体力:12300

防御:11200

魔法防御:13200

俊敏:6500

魔力:7200

知力:13400

筋力:3200

メイン職:大聖者

サブ職:陰陽師

サブ職:神威巫者

EX技能:《大天使の加護》《陰陽結界》《神域繋鎖 》

上位技能:《リジェネレーション》《ホーリーツインレーザー》《クリスタルウォール》《シャボンヒール》

通常技能:《ホーリーレイ》《リンクヒール》《ヒールボール》《ホーリーレイン》

パッシブ:《大聖者の慈悲》《治癒士の心構え》

ーーーーーー


「どれどれ……!?」


受付嬢は石のように固まる。そして数秒後には動き出した。


「いくら年齢を誤魔化したいからって、これは少しやりすぎですよ。レベル99なんて人間が到達できるレベルではありません。そもそも何ですかこの名前、意味がわかりません」

「いや、本当です。偽装とかじゃないですっ」


俺は抗議するが、受け入れてもらえないようだ。するとカウンターの後ろの扉が開いて筋骨隆々のおっさんが登場してきた。


「話は聞かせてもらったぜ。俺の名前はゴウキ。すげー強そうな気を感じたから来てみたら、こんなガキとは驚いたな」

「ギルドマスター、引っ込んでてください」


すかさず受付嬢にハゲ散らかした頭を叩かれている。ギルドの上下関係はだいぶ緩いようだ。


「いいだろミラちゃんよぉ。こんだけの気を放ってるやつを逃す手なんかあるか。試験での特別措置があんだろ。受けさせてやれよ」

「それは……まぁ、受けさせるぐらいならいいと思いますが」

「なら決まりだな!ついてこい坊主!ミラちゃんも立ち合い人として頼む」

「え、あ、はい」


俺は唐突な展開に戸惑いながらも素直に頷くと、ギルドマスターと呼ばれる男についていくのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ぼっちヒーラー、ゲームの世界に転生する 〜ただのコミュ障なんだけど、どうしてこうなった?〜 @271act

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ