上司にバレたらサヨウナラ

 俺は車を路肩に寄せて電話を取る。

 シスター・メリッサからだ。電話に出た場合と出なかった場合の面倒事を天秤にかけ、仕方なく応答した。


「ケーン司祭です」

「クズの方ですか、バカの方ですか」

「クズの方」

「祓いは成功したのですか」

「勿論」

「最近悪魔は力を増しています。お前たちで祓い切れるか不安だったのですが、よろしい。バカの方を出しなさい」

「バカは疲れて死人みたいに眠ってます」


 シスター・メリッサは何か感じたのか、深い溜息をついた。

「何か隠していないでしょうね」

「悪魔と関わる際の三箇条は覚えていますか」

「一、悪魔は祓うのみ。二、会話は情報を引き出す最低限。三、利益の出る取引は一切しない」

「よろしい。悪魔はひとの弱みに漬け込みます。一度誘惑に負けたお前は尚更危険です。だから、監視役として彼をつけたのですよ」

「逆でしょう、俺が殆ど奴の面倒見てますよ」

「エリアス、お前は優秀ですが人格が終わっていて、テオフィルスは慈悲深いものの知能が終わっています。互いの不足を補いなさい」


 電話が切れた。俺と奴をバディにしたのは不正解だ。現状を見てみろ。クズでバカなコンビになっただけだ。



 後部座席の悪魔が笑う。

「その女の言う通りだ。一度悪魔と契約しかけたお前なら二度も変わらないだろう」

 俺は無視してアクセルを踏む。悪魔が座席に角を打ち付けた。ざまあみろと思ったが、シートに穴が空いた、くそ。


 問題は山積みだ。

 テオの死がバレたらシスター・メリッサが俺をただじゃおかない。つまり、教会に助力は望めない。

 かと言って、悪魔と利益の出る取引はできない。


 だが、テオが生き返るのは利益か?


 自分で呼んだ悪魔に殺されかけたゴミクズを助けたテオが全治一ヶ月の重傷を負い、その間俺に全ての仕事が回されたこともある。

 訳のわからない呪物を買ったボンクラに泣きつかれたテオが軽率に貰い受けたせいで、夜明けまで鴉の群れに追い回されたこともある。


 湧き上がりかけた怒りを抑えた。

 冷静になれ。テオが生き返っても俺にメリットはないが、死んだ場合のデメリットはある。

 バディが死んだら、真っ先に俺が疑われる。過去のあれこれのせいだ。


 不本意だが、見捨てられそうもない。

 取引をしないとなると、テオを悪魔の生贄に捧げた諸悪の根源を捕まえてぶちのめすのが最善だ。


 とにかく最近、悪魔祓いで関わった奴らを片っ端から洗うしかない。

 最悪な夜になりそうだ。

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