第4話 施設で学んだこと

施設内にある訓練場の隅に11567はいた。

もう夕闇が迫り、辺りは暗くなり始めていた。


「こんな所にいたのか!」


ルシュターは驚きながら11567に駆け寄り、

顔色を一つ変えずにただ立っている11567に

驚くような、相変わらずだなと思うような

不思議な気持ちであった。


ルシュターが来た事に対して何の反応も見せない

11567だったが、ルシュターは構わず問い掛けた


「お前、騙されているって気付いてないのか?」


そこでようやく11567は視線をルシュターに

向けた。



11567は何時だって人の言葉を聞いていない

わけではない。むしろ耳に入る全ての音を

拾い、理解していた。


反応するのは自分にとって必要な物事だけと

自分でも意識しないで決めているのだった。


「騙す?私を?何のために?」


たどたどしく11567は聞き返してきた。


「何のためって、嫌がらせだろ」


こいつ、そんなことも分からないのかと

ルシュターは呆れた。


「嫌がらせ………相手が嫌だと思うことを敢えて行い、困らせたり不快な思いをさせたりすること」


11567は辞書で調べたような意味を述べる。

ルシュターは「はあ?」と思ったが、


「私が嫌だと思ったり、困ることで利益を得る

者がいるのか……」


「利益ってか、いじめや嫌がらせって

相手のそういう反応を楽しんだりおもしろがったりすることだろ?」


11567は少しハッとしたようにルシュターを見た

「なるほど……人にはそういった感情と思考が

あるのか、今思えばアレもそうだったな……」


『アレってなんだよ』

ルシュターは思いながら、11567であれば

このような経験が何度あっても不思議では

ないと思った。


「とにかく、早く戻ろうぜ。夕飯を逃すと

今夜何も食べれないからな。」


ルシュターは時間を気にして11567を促した。


「新しい学びがあった。

11691、感謝する。」


11567はそう答えた。



夕飯にはギリギリ間に合った。


教官はやや訝しんでいたが、11567を嘘で

呼び出した者達が上手く話をして

誤魔化したのだ。


11567に遅れた理由を尋ねられると

自分達の所業がバレて罰が与えられのを

防ぐためだった。


「ルシュターのやつ、余計なことを」


11567が一晩中帰って来なければいいと思っての

行動であった。


11567だけでは状況を上手く伝えられないだろうし

自分達の方が弁が立つ。


そして明日の工作活動試験に悪い影響を

与えたかったのだ。


「邪魔なんだよな、アイツ」


11567をことさらウザく思っている入設者がいた。

番号11599。名をヴェガといった。


誰よりも体格に恵まれ運動能力も高く、知恵も

回った。だがプライドが高く、短慮でもあった。


ヴェガを敵に回したくなくて彼に従う者は

多かった。


実力では誰にも負けていない。


ヴェガの自負は並々ならぬものであったが、

どの試験を通しても11567が評価された。


「必ず潰してやる」


彼の中で生まれた小さな妬みは、時間の経過と共に憎しみとなり、時には抑え難い憎悪となって心を支配するのであった。

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