第12話
坪田教授の推理に、課長までも口を開けていた。しばらくして、課長はかすれた声でゆっくりと、
「
「ほう、一般的な赤でなくて、白色ですか。これはやっぱり選んでいますね。なあに、白の彼岸花の花言葉は『あなただけを
「エッ!」
そんな馬鹿なことがあるのだろうか。でも、もしや――。
「実際、僕は恵を高橋と呼びたくない。どういうわけかは知りませんが、すでに自分と玉木の子ができていたからですよ。だって、恵は僕に向かって『息子が隠れて生き物を殺している』と最初の頃にいったのです。安田道夫が一人暮らしをしているのに、ですよ。大体、記憶は曖昧なもので、こんなに簡単な答えを出すのにかなり時間がかかった。でも、いつわりの高橋家におじゃまさせていただいたさい、僕は置いてあった二台の自転車と正木警部の高橋家訪問から、ようやくそのことを思い出したのです。なんにせよ、自転車の内、一台は『Shimada』とラベルの貼られていたのが、とても興味深いです」
周囲の人がざわめいた。さらに坪田教授は、
「恐ろしい話です。もしも舞が安田と同じく、あのような道楽にふけっているのだとしたら。そして、二人にはさまれた荒井は、刻々と心理が感染するか、あるいは頭がおかしくなってしまうでしょう。でも、もはやこれは憶測でもありません。というわけで、証人となる島田文彦君を連れてきました。島田君、挨拶はいいから話してほしい」
島田はこの世のすべてをわすれるかのように、自分の存在、教授の存在、警察の存在を考えずに話しはじめた。
「僕は、一応高橋恵と別れた夫の子です。けれど、二人はかなり仲がわるかったと思います。父は、おそらく恵さんに
「西村君はやはり荒井君につけて、高橋家がどこにあるか知っていたのかもしれないね」
「はい、おそらくは。それで、僕は警察に……」
警部がまさかと島田を見た。そうしていると、警部は彼の顔に既視感を覚えたのである。 にらむような眼光に、島田は思わずうろたえた。
「あんた、もしかして大学で会わなかったか」
「そうです。僕がやったんです。西村さんの録音した声を流して」
「なぜ大学の公衆電話を選んだのだ。危険性が高いというのに」
島田は一気にしゃべってしまおうと思った。
「指示されたからです。たぶん僕を警察に逮捕させたかったのかもしれません。彼女が、ああいうことをするようになったのは、計画的でもなんでもない。あの二人に嫉妬したからですよ。それでも、自分のやろうとしていることが、本当に正当な行為かよくわからなくなって、おかしなメッセージになったんです。でも、現実はなかなか上手くいかなくて、だからやり切れぬ気持を僕に向けたのだろうと思います。なぜなら、今までの僕の弱みは、恵さんとの秘密を隠して曖昧な関係でいたからです。坪田教授の推理については、まったくの事実です」
正木警部だけは、坪田教授のつぶやきを聞き逃さなかった。
「玉木の妻は糸子じゃなくて、いとこの恵さんだったんだ」
心理遺伝 朔之玖溟(さくの きゅうめい) @cnw
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます