報告書



 D級に昇格した翌日、例の如く3人で朝食を摂っていると、レオが興奮した様子で口を開く。


「母ちゃん!にーちゃんの腕輪見てよ!もうD級だよ!」


「えぇ、すごいわね!こんなに早く…まだ、登録して一月も経っていないですよね?」


「まぁ、はい。」


「にーちゃんなら本当にすぐにS級になっちゃうかも!!」


 昨日は諸事情で俺の帰りが遅くなり、顔を合わせなかった為か、朝に俺の部屋に来て腕輪を確認して以降、レオはずっとこの調子だ。


 レオもこの様子だと少しは見直してくれた事だろう…ようやく、結果を示せて俺も一安心だ。


 レオとオリビアさんに褒められ、つい頬が緩みそうになるが、それを感じさせないよう毅然と振る舞う。


「まだD級だし、S級迄は程遠いよ。」


「いや、にーちゃんならきっとすぐだよ!!うわ〜、いつC級に上がるかな〜。」


 レオは俺のD級昇格が余程嬉しかったのか、期待値をどんどん高めていく。


 もしかしたら早くも、自分が世界中を冒険する想像をしているのかもしれない。


 だが、オリビアさんはそれを嗜めるように口を開く。


「レオ、喜ぶ気持ちは分かるけど、あまりシュウさんを焦らせちゃダメよ。焦って無茶をしたら危険でしょ?それに、ただでさえ最近帰りが遅かったんだから、これ以上シュウさんが忙しくなったら一緒にご飯も食べられなくなるわよ?」


 以前は一緒に夕食も食べようと帰りが遅くなっても二人は待ってくれていたのだが、待たせるのも悪いと思い、今は一定時間が過ぎたら先に食べてもらうようにしてもらっている。


 朝は一緒に食べれるしな。


「た、確かに…ごめん、にーちゃん。俺待てるから!ゆっくりでいいから!」


 オリビアさんの言う事に一理あるとすぐに考え直すレオ。


 相変わらず素直だ。


 すぐにでもランクを上げるプランは既に考えてあるが、これはサプライズの方がレオは喜ぶだろうし、ここは頷いておくとする。


「あぁ、程々にがんばるよ。オリビアさんもありがとうございます。」


「いえいえ、無理は禁物ですので。でも、私もレオも誰よりも応援していますので!」


「はい!頑張ります!」


 こう言われるとつい無茶したくなるが、ここは大人しく従っておこう。


 俺のランクの話にひと段落付くと、オリビアさんが「そういえば!」と唐突に何かを思い出して一度席を外す。


 トイレか?と思ったが、その後一分と掛からずオリビアさんは戻ってきた。


 その手には一通の手紙らしき物が握られている。


「これ、シュウさん宛にです。昨晩ウチに届いたのですが、シュウさんが不在だったので預かって置いたんです。」


「ありがとうございます。」


 そう言って、手紙を受け取り差出人を確認すると無記名だった。


 それを確認した俺は、差出人が誰かすぐに予測がついた…多分この手紙はアンスリウムからの報告書だ。


 あのポンコツには、俺が城を出て以降もずっと勇者達の様子やポーションの情報などの進展について定期報告させている。


 でもおかしい…まだ前の定期報告から一週間程しか経っていない。


 基本的に二週間おき位を目安にしていた筈だが、何か進展でもあったのだろうか?


 俺が手紙を開封せずに考えを巡らせていると、オリビアさんが不思議そうに喋り始める。


「差出人が書かれていなかったので、イタズラかとも思ったんですけど、シュウさんの名前はしっかり記載されていたので、一応取っておいたんです。やっぱり、イタズラでしたか?」


「いえ…一応、一応知り合いです。」


 あいつと知り合いと思われるのは大変不服だが、ここは断腸の思いで我慢しておこう。


 オリビアさんやレオの前で「奴隷からの定期報告です!」なんて言ったらどんな顔をされるのかなんて想像したくもないしな。


 この二人には俺の事をあくまでクリーンなイメージで居てもらいたい。


「知り合いの方だったんですね!よかったです!」


「それと、オリビアさんには悪いんですが、多分こんな手紙が今後も届く事があると思うので俺が居ない時はまた預かって置いて貰えますか?」


「分かりました、任せて下さい!」


 俺からの頼み事が嬉しいのか、両手でガッツポーズをしてやる気を見せるオリビアさん。


 こんなに可愛い未亡人がいても良いのだろうか?


 食事中の二人に一言断りを入れて、早速手紙の中身を確認する。


〔敬愛してやまないご主人…


 ビリッ


 おっと、ついふざけた書き出しに手紙をちょっと破ってしまった。


「にーちゃん大丈夫?」


「あぁ、大丈夫だ。」


 レオにまで心配されてしまった…あのクソ女許すまじ。


「ふぅー」


 軽く息を吐いて落ち着きを取り戻す。


 今度こそ大丈夫だ。


 どんなふざけた文章だって読み切ってやる。


 もう一度手紙を広げ目を通し始める。






〔敬愛してやまないご主人様へ〕


 先日、定期報告を行ったばかりだと言うのに、度々のご連絡失礼致します。


 ですが、火急の要件だと私なりに判断致しましたので、ご報告させて頂きます。


 内容は他でもない勇者様方の件です。


 只今、勇者様方は大変不安定な状態に陥っております。


 ほんの一週間前まではそうでも無かったのですが、ここ数日は特に強く外の世界への興味を示しておられ、固有スキルをご学友に試された方までいらっしゃいます。


 幸い、シズク様の神聖魔法で大事にはなりませんでしたが、一歩間違えたら大事故に繋がっておりました。


 陣内様曰く、「皆、基礎的な訓練やこの世界の常識を履修し終えたから、早く自分の力を試してみたいんだよ。確かに最近は、僕もここは窮屈だと感じてきた所だしね」とのことです…


 その為、可及的速やかに対処しなければならないと判断致しました。


 本来であれば召喚から三ヶ月は、王城の敷地内にある施設での訓練の予定だったのですが、この度の事態を鑑みて、その予定を変更しようと考えています。


 つきましてはご主人様には、召喚から丁度二ヶ月の経つ六日後に、勇者様方のお披露目を王都で行う事を許可して欲しいのです。


 そして、その後勇者様方がボーク大森林でのレベル上げをする事も許可して頂きたいです。


 ご主人様が冒険者として活動している今、勇者様方にボーク大森林を使わせるのは、大変心苦しいのですが…どうか、どうかよろしくお願い致します。


 ほんのひと月程で、勇者様方はイヴェール王国の各領土内を回る予定ですので、その後は好きに使って下さって構いません。


 これは、ご主人様の目的を邪魔するような事にはなり得ません…むしろ、手助けになるかと愚行致します。


 勇者様方が王国の領土を回るのは、魔族領へ向かう為の物資集めや顔見せも兼ねております。


 その際に、ポーションの情報を探れば、現物や情報を持っている貴族もいるかも知れません。


 どうか、魔王や魔族に苦しめられる人々の為にご英断をお願い致します。


 ご連絡をお待ちしております。



〔ご主人様のアンリより〕



 グシャッ


 手紙を読み終えると同時に握り潰す。


 色々とツッコミ所はあるが、一先ず置いておこう。


 手紙には何やら長ったらしく書いてあったが、要はクラスメイト達が早く異世界で俺つえぇぇしたくて暴れてるから、王城の外に出す許可をくれって事だな。


 その辺はまぁ良い。


 そうなるのも無理はないしな。


 魔力にスキル…元の世界に存在しなかったものを、二ヶ月も訓練させられればその能力を試してみたくもなるだろう。


 敵か味方かも定かじゃない魔王やら魔族とやらの討伐の為にどうか励んでくれ。


 だが、この手紙どうも引っかかる。


 あいつはこの手紙から察するに、魔王を倒しても元の世界に帰れない事を未だクラスメイト達に言っていない。


 もし仮に勇者達に魔王を討伐されて帰れない事を知られたら、間違いなくその矛先はアンスリウムに向かう筈だ。


 いくら、ポンコツと言えどそれくらい分かるだろう。


 なのに何故、魔王討伐を進めようとするんだ?


 今のままでも十分イヴェール王国は繁栄しているし、このまま勇者達を成長させずに、その事を有耶無耶にした方がいい筈だ。


 今暴れている勇者達だって適当に遊ばせてやれば幾分落ち着くだろう。


 手紙を読み終わった後も、しばらく思考を続けあらゆる可能性を模索する。


 レオとオリビアさんは、喋らずその様子をじっと見守っている。


 数分その状態が続き、俺はある推測に行き着く。


 ニヤッ


 その可能性に思わず笑みが溢れてしまう。



「にーちゃん?」


「ん?あぁ、ごめんな。ちょっと考え込んでてさ。」


「笑ってたけど、なんか嬉しい事でも書いてあったの??」


「んー、そうだなぁ。嬉しいってか楽しみな事が出来たんだ。」


「そっかー!よかったね!」


「あぁ。」

 















 あのクソ奴隷、勇者達を育てて俺を始末する気だ。





_____________________

あとがき

すみません。

誠に勝手ながら毎日投稿を一時お休みさせて頂きます。


ストックが切れたわけでは無いのですが、もう少し今後の展開を詰めたり、これまでの話の修正などに時間を割きたいので。


毎日投稿したいが為に焦っているせいか、最近粗が出始めています。


毎日投稿を優先して、内容が中途半端になるのは本末転倒なので頑張ります。


決して投稿を止めるわけでは無いので、フォローなどはどうかそのままに!!!








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