許嫁と昼食

昼休みになるとほとんどの学生が学食や購買に行った。


1時間目から4時間目までの授業で分かったのがこの学校のレベルがそこまで高くないということだ。


何なら俺の通っていた高校と学力が大して変わらないぐらいだ。

まぁ俺にしては好都合だ。


「だけど主人公の学校が底辺高ってエロゲのNG設定だろ」


やっぱりこのエロゲは普通のエロゲとは一味違うな。


そういえばギャルゲーには欠かせない好感度というものはこのエロゲにはあるのだろうか。

いくらオープンワールド型といってもさすがに好感度がなきゃギャルゲは成立しない。


「そもそもこのゲームのヒロインって何人いるんだ?」


今のところ登場しているヒロインとしては


メイドである芯珠、妹である夜崎神楽、許嫁である七桜栄那


この3人だけだ。

まぁヒロインが3人のエロゲもあるっちゃあるが。


というかこのゲームは逆NTRっていうのがメインだったはず。


ということはヒロインの誰かが栄那から俺を逆NTRするってことか?

よくわからんな。


このゲームの詳細についてはまだまだ分からないことがある、まぁ発売日まだ未定であるため本当に完成しているかも定かではない。


「...いろいろ考えても現状はなんもわからんな」


そんなことを考え込んでいると


「なんだお前、まだ教室残ってんのか」


また後ろから不良少年設定であろう俺の唯一?の友達である長谷川蓮が話しかけてきた。


「いつもみたいに栄那ちゃんと昼ごはん食べなくて大丈夫なのかよ?」


「あ!?」


そうだった。

確か俺はいつも校庭で栄那と一生に昼ごはんたべてるっていう設定だったはず。


「...お前まさか忘れてたんか?」


「そのまさかだ」


まずいぞ、確か栄那は芯珠の手料理に嫉妬するほど嫉妬深かったはず。


「まぁとりあえず急げや。早くしないと栄那ちゃんのファンクラブが校庭を独占しちまうぞ」


そんなファンクラブの人数多いの!?


「分かった、ありがとな長谷川。また後で」


「おおう、それとあんま大胆にあーんなんてしてもらうんじゃねぇぞ」


流石にそんなことは...ないとは言い切れないが。


校庭に向かう途中でこのゲームにおける重要なことを思い出した。


確かハッシュタグに逆NTR以外にヤンデレとか書いてあったことだ。


そうだ、だから俺はこのゲームに惹かれたんだった。

ヤンデレ好きであるこの俺が見逃すわけないよな。


ハッシュタグにヤンデレと書いてあった以上ヒロインの誰かが、もしくは全員がヤンデレということになる。


栄那はおそらく嫉妬深いし完全にヤンデレキャラであろう。

だが芯珠と神楽はそうは見えないな。


いや、いきなり豹変する可能性もある。

表変形ヤンデレのシチュエーションも好きだが。


「お、見えた。あのでかいパラソルのところだな」


しかしまたあのパラソルも高そうだな。

それに俺と栄那だけには大きすぎね?


「すまん栄那、少し遅れちまった」


「...”少し”ですの?」


なんか今一瞬鳥肌立った。


「零未矢さん、今何分かご存知でして?」


「...12時50分です」


「そうですよね?もう約束の時間から10分も過ぎている...もう一度お聞きしますけれど、これが”少し”ですの?」


「いえ、だいぶの間違えでした」


「まぁ分かればよろしんですのよ。ただもしあと一分でも遅かったりしたら...わたくし、少し暴れているところでしてよ?」


暴れる!?

なんか栄那が言うと冗談ですまない気がする。


「それでは澪未矢さん、こちらが今日のお弁当ですわ」


「お、おお」


どうせまた高級料理か何かだろうと思っていたが、渡されたのはずいぶん可愛らしい女の子っぽさが伝わってくるような弁当箱だった。


中を開けてみると、これはまた俺の好物のおにぎり弁当だった。


「わたくしの手作りでしてよ。どうぞ召し上がりくださいな」


なんか感心した。

失礼だが、栄那は全部執事に丸投げしているわがままお嬢さまだとばかり思っていたが、こういうところはしっかりと自分で作るんだな。

ヤンデレはヤンデレでもしっかりと努力するヤンデレだったとは。


「どうかなさいまして、澪未矢さん?」


「い、いや何でも」


「あ!もしかして私に食べさせてほしいとかでして?」


「え」


返事をする前に栄那が橋でおにぎりを掴み俺の方に向けてきた。


「はい、あ~ん」


「あ」


断るわけにはいかず、そのままなすがままになり、唐揚げを口に含む。


「......」


「!?」


何だ今の。

あらゆる場所から殺気がこもった目を向けられた気が...


「澪未矢さん、どうですかご味は?」


「ああ、とても美味であります」


唐揚げをまずいと感じる男はいないだろう。


「それじゃわたくしにもお願いしますわ」


そう言って自信の弁当を俺に向ける栄那。


「えーっと」


つまり俺にあ~んさせてほしいと。


「...ん」


もう栄那は目をつむって準備満タンみたいだ。

というかこれじゃまるでキスするみたいだな。


後ろや横からの目線にビビりつつも栄那のこちにご飯を運ぶ。


「ん~~!我ながらおいしいですわ!いや、わたくし許嫁である澪未矢さんがあ~んしてくださったからこその味でしてよ!」


あのー、わざとらしく大きな声で言うのやめてもらいますかね?


「さ、もう一回しましょう。はい、あ~ん」


こうして俺はいつ刺されるかおびえながら昼休みを過ごした。

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