第5話 死神と荒くれ者

ラビの服装と出で立ちは死神時代のものであった。


ブーツも手袋もそのまま人をやれるほどの

硬さと重みをもっていたが

羽織っている外套は細かい金属の繊維が編み込まれ

斜めに切り払えれば銃弾を弾くように

払うことも可能だった。


その為彼女は被弾を恐れない。

元々彼女は死を恐れてはいないが……


彼女は指令とは全うするものだと

理解していた。


やれるかやれないかではなく

やるものである。


そしてやり切るために最善の策をとる。


そこに特に疑問はなかった。


彼女が命令違反をしたのは一度だけ。

そのたった一回が、

この国の全てを変えてしまった。


ーーーーー


ラビから蹴りをくらった男は

声を出すこともなく倒れ込み、息を絶えた。


「っ!?ターク!?おいっ!やられたのか!?」


仲間が倒れたことに気付き、そちらに銃を向けるが

ラビは再び闇に消える。


「うおおっ何処だ!やつは何処だ!?」


残りの男達は怒りと恐怖で闇雲に闇に向かって

撃ち続けたが、手応えはなかった。


「待て、闇雲に撃つな、何処に潜んだか

探れない!」


そう声を掛けた男の3メートルほど先の

焚き火の側にいる男に

至近距離から拳大の岩が投げつけられ、

頭部に直撃した。


致命傷にはならなかったが、

一瞬意識が遠のいた。


その隙をつきラビは男の銃を拾い、

銃を3発撃った。


男は直ぐに意識を回復したが、

周りは静かになっていた。


「え、おい、どうなって…」


騒ぎで目を覚ました仲間達が駆け付けてきた。


「どうした!?何があった!?」


「敵に襲われた……」


「相手は何人だ!?」


「一人……」


「はあっ!?たった一人だと!?」


会話が終わる前に銃声が響く。


3発分。


そして3人が倒れ込む。


「敵だ!敵がいる!」


銃声の方向に一斉に銃弾を撃ち込むが

別方向からまた銃を撃たれた。


「そっちじゃない、あっちだ!」


見えない敵に統率が乱れる。


「うわあああ!」


焦って仲間を撃ってしまうも者も出た。


「落ち着け、こちらも暗闇に隠れよう。」


「間違って仲間を撃たないか?」


「うっ、だが……」


残りは六人になっていた。


ふらりと炎の先にに黒い影が写る。


「うわあ!」


慌ててそちらに銃を撃つが、

すでに影は無い。


また暗闇から銃声が鳴り、

それと同時に「ぐうっ」と唸って

男が二人倒れ込んだ。


「何だよこれ、どうなってるんだ……」


焦り、恐れる残された男達。


「死神だ。死神が出たんだ!」


一人の男が叫び声を上げ、その場から逃げ出した。


「ひいいっ、殺される!」


他の二人もそれに続いた。


彼らの言う『死神』が暗殺者を指すのか

概念的な死神なのかは分からない。

だがこの国において『死神』という言葉は

とても恐ろしいものであった。


「おいっ待て!」


止めるのも聞かず三人は逃げ去った。

一人残った男は、判断を迷った……


「嘘だろ…、まさか全滅なんて……」


「さて……」


ゆっくりと闇からラビが姿を現した。


「君はどうするのかな?」




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