徒然に不思議なこと

神無月 風

第1話 曾祖母、夢枕に立つ

私の父方の曾祖母は私が23歳の年に亡くなった。

両親が自営業の共働きで忙しく、初曾孫で初孫の私はとても可愛がられて、赤ちゃんの時から預けられていたらしい。父そっくりの私は曾祖母と祖母に溺愛されていて、3歳下の私の妹は「嫁似で可愛げがない」と子どもの目にもあからさまに疎んじられていて、その代わり、たくましく育った。

私が6歳の時に亡くなった曾祖父は檀家寺の僧侶で、私はもうほとんど記憶がないが、やはり私をとても可愛がってくれたらしい。曾祖父は囲碁をたしなむ人で、碁石をいたずらに並べたり、なめらかな感触を楽しんでいた私を見つめていたのを、かすかに覚えている。あの時、石の感触を楽しむのではなく、打ち方の教えを曾祖父に乞うていたら良かったと今は後悔している。

曾祖母は曾祖父亡き後、跡を継いだ長男である大伯父と共に、お寺を切り盛りしていた。大伯父は男子二人に恵まれたが、女の子が欲しかったらしく、お寺へ私が遊びに行くと、いつもとても可愛がってくれた。

両親が教育に悪いと、私たち子どもからテレビを取り上げてしまいこんでしまった時、どうしても「スプーンおばさん」のアニメが見たかった私は、こっそりお寺へ遊びに行って、お寺のテレビで「スプーンおばさん」を見ていた。その時、いつも大伯父が隣の椅子へ座って「スプーンおばさん」を見ていたのが不思議と記憶に残っている。


私が小学4年生の年に両親のさまざまな思惑で、隣の市に転校してから、歩いて遊びに行ける距離だった曾祖母の寺へは行けなくなって、少しずつ曾祖母や祖母とは疎遠になってしまった。


曾祖母は亡くなる数年前までかくしゃくとしていて、痴呆の様子が出始めても、亡くなる年の正月にも「風と妹にお年玉をあげないと。五百円でいいだろうか」と祖母に話して、祖母は「お母さん、風はもう22歳ですよ。五百円は少ないでしょう」と笑って、金額を増やしてくれたと聞いたけれど、私は曾祖母が私のことを忘れないでいてくれたのがお年玉の額よりも嬉しかった。


曾祖母が亡くなった翌年、私と妹は一週間、海外旅行へ行く準備をしていた。

すると、出発まであと数日という晩、私の夢に曾祖母が現れ、大伯父が僧侶の正装をして、北枕の布団の脇で微笑んでおり、祖母や他の親族もいて、みんな、通夜の準備をしていた。

そして、しきりに誰かが私に「旅行に行ったらあかん。葬式に出られんようになる」と繰り返していた。


翌朝、目が覚めた私は飛行機が落ちる予兆ではないかと怯え、両親に夢の内容を話したが、一笑に付され、旅行へ行った。

ところが帰国して、両親から真顔で迎えられ、旅行中に大伯父が亡くなって葬儀があったと聞かされた。

実は大伯父は末期がんで入院していたのだが、妻である大伯母が、不仲だった夫の親族に内緒にしていたのだった。なので、誰も大伯父が危篤だと知らなかった。私は曾祖母が大伯父を迎えに来たついでに、私に会いに来てくれたのだと思った。


今から8年前だが、危篤で入院していた祖母が亡くなる前日にも、曾祖母が祖母と一緒にいる夢を見た。


私は自分が亡くなる時には、きっと大好きな曾祖母が迎えに来てくれて、再会できるのだと、ひそかに楽しみにしている。

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