第41話「インスター・ウォーズ! 後編」


 翌朝


「だーはははははははは!!! 愚民パズルめ!! あたしのインスタフォロワーを見たかーー!!!」


「あなた一体何をしたんですのよ!!?」


 学校に到着するや否や、あたしは勝ち誇ったような顔で金髪を見下していた。

 その周囲では琴音と七瀬が小さな笑みを浮かべている。


 そして金髪は困惑と怒りで顔を歪めさせていた。


「あなたフォロワーを買ったんじゃありませんわよね!!?」

「言いがかりはよし子ちゃ〜〜ん。あれ、お前のフォロワー数って……え、まだ190人なの……!!! あ、あ……あ、あたしは580だけど」

「きぃ〜〜〜〜!!! なんですのこいつ!? 信じられないくらい腹が立ちますわ!!!」


 金髪が髪の毛を掻き毟って動乱する。


 けへへへ! 

 久しぶりにこいつが狂う姿を見れたな!!

 

 さいっこうの気分だぜ!!!


「でも実際さ、ミズキちゃん何をしたのー?」

「わたくしもすごく気になります! 今はわたくしが最下位ですし『なぜか』あまりフォロワー数が増えないので、是非とも攻略法を教えてください!」


 七瀬と琴音が興味ありげに尋ねてくる。

 いや琴音は多分根本から方針を見直したほうがいい気もするが。

 こいつの趣味はあまりにもニッチ過ぎるからな。


 まぁいいか。

 昨日の夜あたしのフォロワーが急増した理由。


 その答えは一つだ。


「いやぁ、実はな。あたしのダチにフォロワー2万人超えの奴がいるんだけどさ、そいつにフォローしてもらったら、なんかフォロワー爆増したわ」


 その言葉を聞いても七瀬はピンときてない感じだったが、琴音と金髪はあたしのフォロワー爆増の理由に納得したようだった。


「そういうことですのね……!! くっ、あなたそれは反則ですわよ!!」

「別に禁止ルールなんてなかったじゃねぇか。あたしは自分が持てる人脈を、正当に使っただけだもんね〜! べろべろば〜!」

「くぅ〜〜〜〜!!」


「え、あの、どゆこと!? ぜんぜん分からないんだけど!!」


 1人置いてけぼりにされている七瀬が涙目になっていた。

 そんな七瀬に琴音が優しく説明してあげる。


「おそらくですが、SNSでフォロワーを増やす方法として、すでに有名な人物に認知されるという方法があるのではないでしょうか。有名な人にフォローされれば、その人のファン達が興味を持って一気に押し寄せる。そのような構造になっているのだと思われます」

「ふぉぉ、なるほど!!」


 琴音の説明で七瀬も納得したようだ。


 実際琴音の言う通りだ。

 あたしのフォロワーのほとんどは、元々カナのアカウントをフォローしていた奴ら。

 カナがしたのはあたしのアカウントをフォローする事だ。しかも軽い呼びかけもしてくれたらしい。


 そうする事でカナのファンがあたしに興味を持ち、あたしのアカウントをフォローしにやってきた。


 それだけの構造だ。


「ミズキさんにも大きな差を着けられてしまいました……このままではわたくしが最下位です……罰ゲームは一体なんでしょうか…………」

「まぁ……でもなんか……これはさ……」

「七瀬さん? どうかされましたか?」

「う〜ん……ううん、まぁ良いのかなぁ……」


 琴音と七瀬が会話するよそで。


 1人歯噛みしていた金髪だったが、突如ニヤリと口角を上げた。


「ふふふ」

「あ? なんだテメー、急に笑い出して。気色悪いな」

「やはりあなたは低脳ゴリラ蛮族ですわね……本当におバカですわ」

「はぁ!!? んだテメェ!! ぶっ飛ばされてぇのか!!」

「あなた私の本来のアカウントをお忘れで?」


「………………はッ!!!」


 そうだ!!

 こいつだって160万人のアカウントを持ってんじゃねーか!!

 

 ま、まさかこいつ……!!


「そう、IQが4しかないあなたの頭脳でも理解できたようですわね。私の本来のアカウントで私自身をフォローすれば、あなた以上にフォロワーを増やせますわ!!」

「なっ、てめー!!! それは卑怯だぞ!!」

「あなただって同じことをしたではありませんか! うふふっ、あなたはこの作戦を最終日に実行すべきでしたわね。そうすれば私に対策される時間もなく、このゲームはタイムアップでしたわ」

「くっ……確かに!!!」


 くそ〜〜めっちゃ忘れてた〜〜!!

 こいつだって160万フォロワーっていうすげぇの抱えてるんじゃねぇか!


 やべぇ……このままじゃ……!!


「では本来のアカウントでフォローしますわよ。見ていなさい」

「ま、待て!! やめてくれぇぇ!」

「おーほほほほ!!! 跪きなさい、このゴリラ蛮族!! これが格の違いというやつですわ〜〜〜!!」

「ぐあああぁぁぁぁああ!!」


 そして次の瞬間。

 金髪のフォロワーがみるみるうちに伸びていき、あっという間に600人にまで達した。


「くそぉ……くそッ!!!!!」

「これであなたは超えましたわね。まぁもっと伸びていくでしょう。アカウントのパワーがあなたの友人とは桁違いですもの」

「この卑怯者め!!」

「どの口が!? まぁ良いですわ。次は琴音様をフォローして……! ご安心ください琴音様!! 琴音様を最下位にはさせませんわ! むしろ1位へ!!」


 金髪がスマホをいじった瞬間、今度は琴音のフォロワーが爆増を始めた。

 それは先ほどの金髪の比ではない。


 あっという間に1000人を超え、その勢いは止まることなく数が増え続けていく。


「す、すごく増えています!! フォロワー数がすごいです!!!! で、ですが……これは良いのでしょうか……?」


 琴音が困惑と興奮と不安でおかしな感情になっているようだ。

 

「もちろんですわ! 琴音様には頂点以外は似合いませんもの!! そして私が二番手に……! 琴音様とのワンツーフィニッシュですわ!!」

「くそがぁぁ!!」


「…………」


 ふと。


 あたしは七瀬が静かになっていることに気づいた。

 また金髪も気づいたようで、あたしと金髪は七瀬の方に視線を向ける。


 すると七瀬は呆れたような、情けないものを見るような目を浮かべていた。


「な、七瀬? どうした?」

「姫さん?」


「いや……あのさ」


 七瀬がため息を吐きながら後に言った。


「醜いなぁ……」


「「ーーっ!!?」」


「最初は楽しむつもりで始めたのにさ、なんか数字にばっか拘るようになって、そんな外野の力とかまで使ってさ……そんなので勝って何が良いのかなって……それインスタの本来の楽しみ方じゃないよね……他人を負かす事ばっか考えて、正攻法も使わずに……なんか今のミズキちゃんと静流ちゃんは……あまり好きじゃないタイプの人間かも……」



 ガーーーーーーン!!!!!×2


 あたしと金髪は、七瀬から告げられた真っ直ぐな批判に心を打ち砕かれ、その場にがくりと膝を着いてしまう。



「あ、あっ、あぁ……! ひ、姫さんに、そんな事を言われるなんて……こ、心が、死にそうですわ……っ!」

「分かるぞ……七瀬にこういうこと言われると……ダメージくるよな……しかもこいつ、言葉を全然オブラートに包んでくれないから…………ガハっ!!」


「あ、べ、別に2人のことが嫌いなわけじゃないからね!! ただ、今回のことはあんま良くないなーって思うだけで!!」


 七瀬の言葉に、琴音も感じる部分があったようだ。


「……七瀬さんの言う通りですね。静流さん、フォロワーを増やすために手を貸してくれた事はすごく嬉しかったです。でも……わたくしも自分のやり方で、楽しみながらやっていきたいです」


「こ、琴音様ぁ……やはり琴音様は心が澄んでいてお美しいです……さすがですわ……!」


 こいつ落ち込みながらも琴音への愛はすげぇ表現するんだな。



 でも、本当に七瀬の言う通りかもな。

 みんなで楽しむっつーのが本来の目的だったのに。


 この勝負だってそうだ。

 勝つためより、そういうゲームをみんなで楽しむための催し。


 目的は見失っちゃダメだよな。


「……悪かったな。せっかくの勝負に水刺すようなことして」

「私も思慮に欠けていましたわ……申し訳ありません」


「う、ううん! 謝らなくてもいいよぉ…………いや、まって」


 瞬間、七瀬が何かを思いついたように言葉を途切れさせた。

 そしてあたしと金髪の顔を見遣って、にやっと微笑んだ。


 え、なに?


「ねぇねぇ西条さん。ちょっと良いかな」

「はい、なんでしょうか?」

「えっとね……」ゴニョゴニョ


 七瀬が琴音に耳打ちをする。

 すると琴音も顔を輝かせた。


「名案だと思います! 七瀬さんは天才です!」

「でしょー!!」


「「???」」


 置いてけぼりにされているあたしと金髪は顔を見合わせた。

 え、なに。めっちゃ怖いんだけど


 七瀬のやつ、何を考えて……。


 七瀬と琴音が笑顔でこちらを振り向いた。


「ねぇねぇ、2人とも。今回はさ、2人に罰ゲームしてもらおうかなって」


 待って。

 七瀬のやつ、なんか笑顔で嫌なこと言わなかった?


「ま、待て! 罰ゲームは最下位のやつだろ! それならもう一回最初からやり直すべきだ!!」

「そうですわ!! 流石にそれは不当な」


「え、2人ともそんな事言える立場?」


「「すみませんでした」」


 くそぉ……今回ばかりはマジで反抗できねぇ……。

 卑怯な手で楽しいはずのゲームを台無しにしたんだ。


 金髪も相当の負い目を感じているのか、素直な様子を見せている。


「でも大丈夫ですよ! ミズキさん、静流さん! 罰ゲームはお二人の絆が深まるようなものですから!!」


「「え……」」


 琴音の楽しそうな言葉に、あたしと金髪の表情がサーッと青ざめていく。

 そして互いに顔を見合わせた。


 絆が、深まる……?

 え、マジで最悪な気がするんだが……。


「じゃあ西条さん! 2人に発表を……うへへへ、妄想が……じゅるり…………!」



「では発表します! ミズキさんと静流さんには……2人きりで【肝試し】をしてもらいます!!」



 琴音から告げられた言葉に、あたしの思考は完璧に停止した。

 耳から三人の会話が入ってくる。


「肝試し、ですの……!?」

「はいっ! 夏も近いですし、罰ゲームとしてはちょうど良いかと! わたくしの家の裏に、肝試しにうってつけの林があるので近いうちにそこで罰ゲームを実施しましょう」

「……っ!! ま、まぁ所詮は肝試しですわ!! 雰囲気が怖いだけ……そんなもの……別に怖がる必要なんて…………っ。蛮族!! あなたも何か言いなさい!!」



「………………やだっ」



「は?」


「うぅ〜〜! お化けだけはぁ…………!! いやだぁぁああ!!!!!」


「「「……えぇっ」」」


 あたしが頭を抱えながらあげた情けない叫び声と共に、3人の困惑した声がぽつりと落ちた。





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後書きです!

これからしばらくは毎週月曜投稿とさせていただきます!!


今回も最後までお読み頂きありがとうございました!

更新忘れないようにだけ気をつけます!!


では!

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