第36話「ああ、6月!」
「あちぃ……じめじめするぅ……」
七瀬と共に学校までの道のりを歩きながら、あたしは気候への愚痴をこぼしていた。
「ねぇー……梅雨に入っちゃったもんねぇ……」
すでに6月に入っており、早めの梅雨入りにあたし達は不快感を味合わされている。
今日の天気は曇りだ。昨日は雨だった。
「でも夏服着れるのは嬉しいよねっ。ここの夏服かわいいもん!」
七瀬が女子らしく表情を輝かせてくるりと回ってみせる。
夏服はワンピーススタイルで、全身白色にお腹の部分に紺色のベルト。襟元は水色で彩られていて、高貴さと涼しさ、そして可愛らしさを兼ね備えたものだった。
「あたしは涼しけりゃなんでも良い……」
「ミズキちゃんらしいけどぉ……え、待って。それは裸でも良いってこと!!?」
「んなわけねーだろ…………」
もはや勢いよくツッコむ元気もないので、あたしは適当に言葉を返しておく。
にしてもあちぃ……夏は嫌いだぁ…………。
あたしと七瀬はじめじめとした熱気の中、なんとか学校に到着してそのまま校舎へと直行する。
校舎に入った瞬間、冷気が全身を包み込んだ。
「「はぁ〜〜〜生き返る〜〜〜!」」
あたしと七瀬は幸福に表情を染め上げた。
うん〜〜まじでお嬢様学校最高だわ〜〜。
教室じゃなくて校舎内全部に冷房が行き届いてるのだ。
「「気持ちいい〜〜!」」
「汗が引いてくね〜〜〜」
「極楽浄土〜〜〜」
一通り冷気を堪能したあたしたちは、そのまま教室へと歩いていく。
学校にさえ着いちまえばこっちのもんだ。
この校舎を出ない限りはパラダイスヘブン。
教室に到着して扉を開くと、琴音と金髪はすでに登校していて、二人だけの会話を楽しんでいたようだった。
琴音と金髪もワンピーススタイルの可愛らしい夏服に身を包んでいた。
あたしと七瀬は真っ直ぐ二人の元へと向かう。
「ごきげんよう。ミズキさん、七瀬さん」
「おはようですわ」
「うぃっす〜」
「おはよー」
いつものように挨拶を交わして、あたしは自分の席に座り込んだ。
右隣には琴音が座っていて、あたしと琴音の席の近くに金髪と七瀬が立っている
琴音が穏やかな微笑みで口を開いた。
「今年は梅雨入りが早いですね」
「6月って一番しんどい気がするよぉ……暑いし雨降るし休みないし……」
「6月良いとこ0だな。なんかイベントとかねーのか」
「今月は球技大会がありますわね。まぁ……それだけですが」
「なに!? 球技大会だと!?」
あたしは金髪の言葉に大きく反応した。
それはあたしの求めていた高校青春イベント!!
「おい!! 種目はなんだ!?」
「あぁ、もう! 暑苦しいですわね。無駄にテンションを上げるんじゃありませんわ!」
「だって球技大会だぜ! それは血湧き肉躍る激闘!! 激しくぶつかり合う闘士と闘志!! 己が全てをボールに託した命の獲り合いの末に……どっちが相手をひれ伏せさせるか!!! つまり球技大会は戦争だ!!!」
「どんな世紀末球技大会ですの。まったく、そんな蛮族のイベントじゃありませんわよ」
「でもそうじゃねぇか!!! お前だってやるなら本気だろ!!」
「そこは同意ですわね。やるからには優勝以外はありえませんわ」
「球技大会…………わたし一人が下手なせいで表彰台を逃した中学の頃のバレーボール……おぇぇぇえ……は、吐きそう……ッ」
「…………球技大会は全員参加が義務なのですか?」
運動神経良くない組の顔色が見るからに悪くなっていた。
七瀬は過去のトラウマを刺激されて吐き気を覚え。
そして琴音はもはや参加拒否しようとしている。
不安気な琴音に金髪が自信のある笑顔で詰め寄った。
「問題はありませんわ琴音様!! 相手がどれだけ強かろうと、琴音様の麗しさと美しさで相手の正気を狂わせ、琴音様には一切逆らうことのできないマリオネットにしてしまえば勝てますわ!!!」
「それはお前が琴音の対戦相手の時に限る戦法だろうが」
「対戦相手をマリオネットに……なるほど! それなら勝てますねっ!!!」
「勝てるわけねーだろ!! 正気に戻れ琴音!!」
琴音のやつ……球技大会が嫌すぎて冷静な思考力を失ってんな。
「……ッツォ……」
七瀬が何かをぶつぶつ言っている。
「マリオネット……美味しいお菓子のマリトッツォ…………対戦相手に寮母さんが作った激うまマリトッツォを渡してその味で買収してマリオネットにする……これぞマリオネッツォ作戦……ふへへっ、これで勝てる……!」
「おい七瀬! お前も正気に戻……いやお前はいつもそんなんだな」
にしても。
運動神経が良くない奴らにしてみりゃ、こういう系のイベントって正気を失うほどのものなのか。
つーか気になるのは。
「そんで、競技って何があるんだよ」
「1年生はバスケか卓球ですわね」
「おぉ! んじゃバスケにみんなで出て――」
「卓球以外にありえない!」
「七瀬さんのいう通りです!」
「団体競技は無理無理怖い怖いダメ絶対!!」
「七瀬さんの言う通りです!!」
「バスケなんて死んでも出ないからッ!!!!!」
「七瀬さんの言う通りですッ!!!!」
「う、おぉ……わ、わかったから……落ち着けお前ら……」
七瀬と琴音のあまりの覇気にあたしは押し切られてしまう。
そ、そんなに嫌なのか……あたしは団体競技の方が絶対に楽しいと思うが、人って色々いるなほんと。
そして琴音が卓球を所望ということはつまり。
「琴音様! 共に卓球を頑張りましょう!!! 私も最初から卓球以外ありえないと思っていたんですの!! そもそもバスケなどというのはお手玉の劣化に過ぎぬ愚スポーツ!! バスケを選ぶ=蛮族の証ですわ!!!」
「全国のバスケ部に今すぐ土下座してこいお前」
琴音教信者の金髪は当然卓球を選ぶに決まってる。
まじでバスケ部の人たちごめん。
あたしはバスケ派だからな。
この金髪アホだからほんと許してやってくれ。
「そういう訳ですから」
金髪がこちらを向いた。
それに合わせるように琴音と七瀬もあたしに視線を向ける。
「あなたも卓球にしますわよね?」
「まぁ……1人で知らない奴らとバスケやってもあれだしな……卓球も好きだし、いいぜ。みんなで卓球にするかっ!」
あたしが笑顔を浮かべて言うと、七瀬と琴音の表情がパァと輝いた。
それから2人は両手を組み合わせて嬉しそうに笑い合う。
「ミズキさんが一緒なら百人力ですね、七瀬さんっ!」
「うん! みんな一緒なら何も怖くない!! それに卓球は団体戦も個人戦みたいなものだし負けても責められないよ!! むしろわたし達の負けをカバーできない他の人が悪い!!」
「なるほど! 卓球は精神に優しい素晴らしいスポーツなんですね!」
るんるんるん♪と楽しそうな2人。
こいつら……どんだけ球技大会と運動に嫌な思い出が……
まぁ、でも楽しけりゃなんでもいいな。
死んでも勝ちたいが、それ以上に楽しむことがいちばん大事だ。
勝つのはみんなで楽しんでから。
なんてことを思うあたしの側で、金髪が悔しそうに頭を抱えていた
「ひ、姫さん〜〜〜!!! 琴音様と手を絡み合わせるのは裏切り行為ですわ!! 私だってまだ手を繋いだ事ないのに〜〜〜っ!!」
「あっ、ちなみにあたしも琴音と手を繋いだことあるぞ」
「きぃ〜〜〜!! 余計な情報追加で脳の破壊が加速しますわッ!!!」
あたしの一言で金髪の脳が更に破壊されていく。
だが七瀬には金髪が動乱する声は聞こえてないのか。
また自分が百合とやらの一部になっている事にも気づかず。
「あはははー!」
「ふふっ!」
七瀬と琴音はバスケを回避できた喜びに浸っていた。
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