第34話「いざ中間テスト!」

 


「ではぁ、みなさん〜〜……机の上を筆記用具のみに……してくださ〜〜い!」


 ハナチャンの掛け声でクラスメイトたちが一斉に教材を片付け始める。あたしも同様に、金髪からもらった資料を鞄の中にしまい込む。


 心臓の鼓動がドキドキと加速していた。

 緊張感が一気に高まり、軽く胃の奥が痛みを帯びてくる。


 あぁ……ついに始まってしまう……!

 運命の中間テストが!!!


 今日は中間テストの1日目。

 これから4日かけて試験がおこなわれる


 まず今日の科目は地理、現代文、数学2の3科目。


 あたし的に現代文と数学2は完璧なる捨て科目だ。

 もはや少しも勉強していない。


 だから地理!!!

 お前だけは頼むぞ!!!

 簡単な問題ばっか出てくれぇ!!


「それではテスト用紙をぉ……くばりま〜〜す……」


 ハナチャンがゆったりとしたテンポでテストを配り始める。

 やがて地理のテスト用紙があたしの元に届く。


「すぅー……はぁ…………すぅー……はぁ……」


 あたしは深呼吸をして緊張を収めようとする。


 大丈夫だ。

 やれる事はやった……。

 この2週間で、今までの人生でやってきた勉強以上の時間を勉強した。

 休日は朝から晩まで。

 学校にいる時も休み時間は勉強した。


 いける……頭にも良い感じに入ってる。いけるぞ!!!


「それではぁ…………スタ〜〜ト!!」


 ハナチャンの掛け声であたしたちは一斉にプリントを裏返した。


 まず解答用紙に名前を書き(もう名前を書き忘れる事はしねぇ)、すぐさま問題の方へと目を通していく。


 1問目は…………あ、これ!



 金髪の資料でやった問題だ!!!



 これもだ!

 あいつの資料すげー!!



 感心したぜ金髪!

 お前の事は大嫌いだけどな!!


 でも……いけそうだ!


 あ……うぐぅ……漢字忘れた……

 これもなんだっけな……出そうなんだけどなぁ……。


 よし、こっちは分かるぞ!


 さて……次の問題は…………。



 そんなこんなで集中する事60分。


 試験はいつの間にか終わっていた。


 テストを目が覚めた状態で終えるだなんて、人生で初めての経験だ。

 しかもこんなに集中したのも初めて。


 でも地理は多分30は普通に超えてるはずだ。

 ひとまず安心だな。






 それからテスト期間が過ぎていき。



 とうとう4日目の最後の科目、古典のテストが終了した。


 やれる事はやった。

 全部出し切った。


 正直……めっちゃ微妙なとこだ。

 行けた気もするし、なんか無理な気もする。


 だがもう結果は動かない。


 あとは明後日のテスト返却日までの時間で、覚悟を決めるだけだ。




 ※ ※ ※




 テスト返却日。


 教卓には紫ロングヘアーの美人教師ロッテンマイヤーが立っていた。


「神田さん」

「……」

「神田さん!」

「……」


「ミズキさん……呼ばれていますよ……?」

「え、あ……どうしよう琴音!!?」


 あたしは不安で押しつぶされそうになっていた。

 もうやばい……くそ……まさか化学を落としちまうなんて……!!


 助けを求めるかあたしの言葉に、琴音も不安そうながら優しく微笑んで言葉を返してくれる。


「大丈夫です。ミズキさん……あんなに頑張っていましたから」

「うぅ……分かったぁ……行ってくるぅぅ…………」


 あたしは重たい足取りで教卓までテストをとりにいく。

 そんなあたしを心配そうな様子で、琴音、金髪、七瀬が見つめていた。


 あたしは今……すでに4つの赤点が確定している。

 テストはもう9科目返却されており、この数学のテストは運命を決める最後の一手だ。


 ちなみに返却されたテストの点数は


 現代文:5点

 古典:42点

 数学2:0点

 英語文法:37点

 英語読解:15点

 地理:40点

 世界史:38点

 化学:28点

 生物:52点


 という感じだ。


 やばい……まじでやばい!!

 本来化学は30点以上取らないといけない科目だったんだ!!

 でも落としちまったぁぁぁぁ!!!


 元々がギリギリの戦い。

 1つでも予定と狂った瞬間に、あたしの退学コースは一気に現実味を帯びてくる。


 あと返却が残っているのは数学1。ロッテンマイヤーの科目だ。

 数学1は一応の保険で勉強させられた科目。もし予定と狂って暗記科目を落としてしまった時のために勉強していた。


 だが……正直自信は皆無だ。


 教卓ではロッテンマイヤーが静かにあたしを待っている。

 その鋭い紫紺の瞳に一切の濁りはない。


 ロッテンマイヤーの目の前に立ち、あたしは深呼吸をした。


 もう覚悟を決めろ……何が起きても受け入れる覚悟を……!!


 あたしは顔を上げて、ロッテンマイヤーから差し出された用紙を手に取った。

 用紙は裏面だ。


「神田さん」

「な、なんすか……?」

「あなたの経歴は知っています。その上で言いましょう。……よく、頑張りましたね」

「え、ちょ、それって!!!」


 あたしは大慌てで数学のテストを裏返す。


 するとそこには


【34点】


 という数字が記されていた。


 34…………ってことは……!!!!!!!!


「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っしゃあぁぁあっぁぁ!!!!! 退・学・回・避ぃぃぃッ!!!!」


 あたしは全力で拳を天へと突き立てた。


 その瞬間、クラス中から拍手が巻き起こる。


「おっ、おお?」


 自分に向けられる拍手の雨。お嬢様たちの優しい視線。


 その光景にあたしは泣きそうになる。

 うぅ……みんなぁ……!!


 あまり関わりがないクラスメイトたちも、あたしの状況は知っていたようで、毎日学校に残って勉強するあたしを見てくれていたらしい。


 まぁ、それに???

 あのスポーツテスト以来ちょっと一目置かれてるし?


 あたしこのクラスの人気者じゃん!!!


 だーははははは!!

 いやぁ今日は人生の中でも最高の日だぜ!!!


 あたしは改めてクラスを見渡した。


 琴音が嬉しそうに微笑んでいた。

 金髪は仏頂面だがほっとしたように息を吐いていた。

 七瀬は……鼻水を垂らしながら大号泣していた。


 こいつらにもお世話になったな。

 またいつか礼をしないと。


 特に金髪にはな!!!

 あいつには絶対借りを返す!


「さぁ席に戻りなさい」

「ああ! 今まで悪かったなロッテンマイヤー! これからは真面目に授業聞く!!」

「だから……あなたはその口調をどうにかしなさ――いえ、待ちなさい。あなた今私をロッテンマイヤーと呼びましたか???」

「あ、やべっ!!!!」


 あたしは興奮のあまり口を滑らせてしまったことに気づく。


 血の気がサーっと引いてくのと同時、ロッテンマイヤーの表情がみるみるうちに氷の女帝へと変貌していく。


 ゴゴゴという迫力のある効果音が背景に見えた


「あなたには一度指導が必要なようですね。教師にタメ口を使う挙句、そんなあだ名で私を呼んでいるとは」

「あ、ち、違う、ですます……これは、そのぉ…………!!」

「神田さん。放課後職員室に来なさい。今日はテスト返却日で時間もあるので、たっぷりお話しましょう」


「ぐぁあああ〜〜!! 最後の最後でやらかしちまったぁぁぁ!!!!」



 そんなこんなで。

 あたしの運命をかけた中間テストは、なんとか退学回避という形で幕を下ろしたのだった。

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