第33話「定期テストの攻略法!」
「「「…………」」」
あたしと琴音、七瀬そして金髪の4人は放課後の教室に残って勉強会を開いていた。4人が向かい合って座れるように、4つの机を移動させてくっつけている状態だ。
それぞれが教材とノートを机の上に広げている。
そして今。
あたしの眼前では3人が信じられないものを見る目を浮かべていた。
「み、ミズキちゃん……これは…………」
「あなた……冗談きついですわよ…………」
「わ、わたくしも……流石にこれ程とは想像もしていませんでした……」
「いや……だから言ったろ……勉強嫌いだって」
「嫌いの次元を越えてますわ!! あなた……! 小学校の内容すら頭に入ってないじゃありませんか!!?」
金髪の大声が教室に弾けた。
まずはあたしの現時点の学力を知るために、みんなが色々と問題を出してくれていたのだが……どうやらあたしの今の学力は。
「小学校5年生くらいですね……」
「ミズキちゃん…………ぐすっ! ざようなら…………っっ!!」
「おい七瀬ぇぇ!!! お前諦めんなよぉぉ!!」
「でも明日は我が身だし!! わたしだってどうなるか……!!」
「いや、お前グレーステストは真ん中くらいだったじゃねぇか……大丈夫だろ……」
「あれは主要5科目以外で稼いだの!! 入試だってそうで……わたし特に英語と数学はやばくて……うわぁぁあん!!!」
七瀬は情緒不安定になったように大粒の涙を流していた。
くそぉ……あたしも泣きたくなってきた……!
七瀬よろしく、あたしも軽く諦めつつあるのは確かだ。ここはただでさえ日本最高峰の偏差値を誇る高校。そんな高校の中間テスト。その難易度が他の高校に比べて高いのは言うまでもないだろう。
「琴音様」
金髪が琴音に声をかける。
「率直にどう思いますか?」
「そうですね……確かに厳しいですが、中間試験で赤点を回避する事自体は不可能ではないと思います」
「「え!!?」」
琴音の救いのある言葉に、あたしと七瀬は顔を見合わせて瞳に活力を取り戻した。
いやでもあたしのこの現状を考えるとほぼ無理じゃないのか……?
小学生レベルなんだぞ。
だがどうやら金髪も同意見であるらしい。
「わたくしもそう思いますわ。良いですか蛮族。耳くそが詰まりに詰まったその汚い耳穴をかっぽじってよくお聞きなさい」
「詰まってねーよ!! お前ぶっとばすぞ!!!」
失敬な事を言う金髪に言葉を返しつつ。
金髪がどこかからメガネを取り出して装着していた。
なんでメガネ?
まぁ、いいか。こういうのはだいたい雰囲気だ。
金髪がこほんと咳払いをした
「まずこの学校における赤点とは【30点未満】を指しますの。つまりあなたは……姫さんも一応。30点以上を取れば赤点回避ですわ」
「そ、そうなの!? 平均点で考えられると思ってた……うん、30点ならなんとかなるかも……!!」
「いやあたしはマジで無理だぞ!!! 30点なんて高得点取った事ねぇもん!!」
「それは勉強の方法を間違えているからですわ。琴音様!! ご解説をお願いしても!?」
「はいっ」
金髪は琴音に解説をパスした。
「ミズキさん、七瀬さん。学力を上げる事と定期試験で得点を取る事は、同じようですが微妙に違っています」
「「……?」」
あたしと七瀬は顔を見合わせて頭にハテナを浮かべた。
どういう事?
賢くなれば点数が上がるってだけの話じゃねーの?
「学力の向上には単元に対する理解と長期記憶、この双方が必要です。ですが定期試験であれば、出題範囲の短期記憶、これだけで得点はマークできますよ」
「あ……そっか、確かに……! 言いたいこと分かってきたかも……!」
「え??? なになに!? なんも分からん!!」
「つまりですわ!!」
金髪がバンと机を叩いた。
「もはや今からあなたが科目の基礎を理解する事は不可能!! ですが定期テストは適切な箇所を重点的に【暗記】さえすれば、赤点回避は余裕ですのよ! 蛮族、あなたは何も理解しなくて良いですわ。ただ、覚えなさい! それくらいはできますわよね!」
「ただ覚える……いやでも暗記すりゃいいって……それが難しくねーか……?」
「適切なタイミングで復習しないからですわ。暗記のコツはとにかく繰り返しインプットし、そして適時にアウトプットする事。それに今回あなたは4科目まで赤点が許されています。数学1・2と現代文、英語読解を捨てれば可能性はありますわ!」
な、なんかすごい迫力だな……。
こいつの真剣さは一体なんだ。
あたしに勉強教えるのは乗り気じゃなかったろうに。
でも今のこいつ……なんか会社の経営者みたいだな。
もう目が事業家っぽい感じ。
さしずめ、あたしという倒産寸前の事業を立て直そうとしてる感じだろうか。
それにこいつの説明も正直分かってない部分もあるが……様子を見ている限りはあたしにも可能性が十分あるという事だろう。
「結局あたしは……何をすれば良いんだ?」
「単元が独立しており、理解がなくてもある程度なんとかなる暗記科目、生物、化学、地理、世界史、古典、英語文法。あなたにはこれから2週間、この6つを死ぬ気で詰め込んで頂きますわ。保険で数学1もやって頂きますが」
「確かに数学とかは基礎がめちゃくちゃいるもんね……うぅ……わたしは1個しか落とせないのかぁ……数学が心配だ……」
「大丈夫ですよ七瀬さん。数学でもある程度の基礎があれば、単元ごとの問題形式暗記で定期試験は乗り切れますからっ。わたくしも協力します!」
「さ、西條さぁん……!!」
とにかく。
金髪と琴音のおかげで活路は見出せた。
これからみんなと一緒に毎日勉強の日々だ…………。
うあぁぁあぁ…………もうめっちゃ嫌だぁぁぁ。
勉強したくねぇぇ……
……でも。
だけど。
まだ、もっとこいつらと一緒にいたい。
あたしはまだまだ高校生活を楽しんでねぇ。
あたしは青春な高校生活を送るために、ここに来たんだ。
ここで終わるわけにはいかねぇだろ。
やってやる……!!
うぉおおお!! 嫌だけど頑張るぞぉぉぉ!!
あたしが決意するのと同時。
金髪がまるで剣を抜いたかのように、シャキーンとペンを握った。
「さぁ! 始めますわよ!!」
金髪の声と共に、勉強会が幕を開けた。
※ ※ ※
1週間後。
「I have been playng piano……for three hours……な〜〜に言ってんだマジで」
あたしはメモ帳に書かれた文字を見ながら、トイレから教室に戻るため廊下を歩き進めていた。
今は放課後。今日も4人で勉強会をしている。
テストまであと1週間。
すでに勉強を開始して1週間が経っている。
正直何度も心が折れそうになり、誘惑に負けかけたが、環境が良かった。
学校にいる間は金髪と琴音が。
そして寮では子供マザーが常に監視してくれていた。
そのため、サボる事なく知識を頭に詰め込み続けられているというわけだ。
これだけ勉強したのは人生で初だが……意外と自分の頭に知識が定着しつつあるのは実感していた。
暗記って……意外とできるもんだな。
でも考えりゃ当然かもしれない。
別にあたしだって好きな漫画のキャラやそのセリフは鮮明に覚えている。
それは何度も繰り返し読んでいるからだ。
興味のあるなしってだけで、記憶できる能力自体は誰にでもあるのだろう。
繰り返し見てりゃ、いやでも頭に染み付いてくる。
今やっているこの英語。
ハブビーンほにゃほにゃ……みたいなのは【げんざいかんりょーしんこーけー】と言うらしい。
げんざいかんりょーが何かはなーんにも分からない。
だがこの形がそのままテストに出ると、先生が言っていた。
だから形と日本語訳を丸暗記している。
なんでもこの学校のテストは、超基礎10点・基礎30点・応用30点・高難易度問題30点、の配分で問題を作成するらしく、あたしが狙うのは超基礎と基礎の合わせて40点の内で30点。超基礎は本当の点取り問題で、基礎問題の中にも簡単なものが多いらしい。
流石に学校側もあまり退学者は出したくないようで、内実的にはサービス問題もかなりあるそうだ。
あと少しで教室に着きそうな時、金髪がカバンを持って教室から出てきた。
「んっ、なんだよお前、もう帰んのか?」
「私は忙しいんですのよ。あなたと違って」
「あーーすいやせんね、暇人で」
「まったく。あ、そうですわ……」
金髪はそう言いながら、スクールバッグから資料の束を取り出した。そしてそれをあたしに手渡してくる。
「ん? なんだこれ」
「過去の中間テストを分析して特に出題率が高かった部分、先生がテストに出すと言っていた部分、そのほか重要論点を簡潔にまとめてあります。暗記科目はそれを完璧にすれば40点以上は狙えますわ」
「ま、まじで!?」
あたしはパラパラと資料をめくった。
それは約6科目分の資料。
量は多いがめっちゃ分かりやすい。見やすさも完璧だ。
こいつ……本当に優秀なんだな。
「お、おまえ……忙しいんじゃなかったのかよ……?」
「忙しいですわよ!! 使用人にも手伝わせましたわ!!!」
金髪はどこか不機嫌そうに言うと、小さく息を吐いてあたしから視線を逸らした。
「別に何も感謝しなくて良いですわ。あなたに感謝されるなど虫唾が走りますもの」
「どういう言い分だそりゃ!!」
「全ては琴音様のためだと言っているんですの!! 断じてあなたの為ではありませんわ! 気色の悪い勘違いはやめなさい!!」
「くぁ〜〜〜〜こんのクソパズルが〜〜!! でもさんきゅーな!! これはありがたく使わせてもらう! さっさと帰りやがれ!! ありがとう!! ば〜〜かあほマヌケ〜〜!!!」
「あなたどんだけ子供ですの!?」
あたしは荒々しく礼を告げる。
ちっ……複雑な気分だぜ。
資料を作ってくれた事は嬉しいが、それは別にあたしの為じゃない。
どう受け取るのが正解なんだこれは!
こうなったら死んでも赤点回避してやる。
あたしが教室に入ろうと歩き出したのを受けて金髪も歩き出す。
「あなた。私の手をここまで煩わせておいて退学になんてなったら……一生許しませんわよ」
「分かってら。お前に借りは作らねぇ。しっかり赤点回避して、この借りは必ずいつか返す」
「当然ですわ」
すれ違いざまに言葉を交わして、金髪は廊下の向こうへと歩いて行った。
ったく、相変わらずムカつく野郎だ。
だが……意外と色々なことをしてくれてるのは事実。
この借りは死んでも返す。
まぁこの資料は分かりやす過ぎるから、全力で利用させてもらうがな!!
「おい七瀬〜〜すげぇ良いもんゲットしたぞ〜〜!」
「え、なになにー?」
あたしは教室内にいる七瀬と琴音の元へと向かった。
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