第44話


第44話


「遶ケ闃ア蜈郁シゥ縲√↑繧薙〒諤昴>蜃コ縺励■繧?≧繧薙〒縺吶°」


既に彼女の言葉は言葉の形を成していなかった。


10年前の藤先生の懸念は適当だった。


ただでさえ不安定な一高ワン子は、目の前で大好きな沙夜子の死を見た。


しかもその原因の一端は、一高ワン子自身にある。


その精神的ショックで、彼女の夢術は暴走を始めたのだ。


夢術管理協会に着くのと、彼女が人間でなくなってしまったのはどちらが早かったか。


少なくとも一高ワン子自身ですら制御が効かなくなったのだ。


暴走を始めた彼女の夢術は、精巧な世界を創り上げることで上手く自己消費していた。


そしてそれに取り込まれたのが俺と藤先生だ。


眠っている間の俺たちは、彼女に五感を握られている。

いや、記憶や思考さえも握られているのかもしれない。


彼女の作る精巧な世界の中で、俺たちは幸せな世界を繰り返していた。


何回も。


何回も何回も。


そうやって、俺たちは“夢”を見せられていた。


そんな“幸せ”に耐えきれなくなった藤先生が自ら死に走ったのが、ほんの4年前。


それでも終わらない“夢”が、今俺の前にある。


一高ワン子


俺は彼女の名前を呼ぶ。


「帰ろう」


先程までより、自分の声が随分低く感じる。


そりゃあそうか。


俺が15歳の少年だったのは、10年も前だもんな。


「縺ァ繧ゅ?∝?霈ゥ縺ッ螟「陦鍋ョ。逅?鵠莨壹?莠コ縺ェ繧薙〒縺励g」


黒い渦がその闇を増す。


「……そうだよ」


俺は苦々しく返した。


そうだよ、俺はお前が一番憎んでいるような人間になったんだよ。


今の俺は25歳で、しかも夢術管理協会の職員だ。


「蟶ー繧九o縺代′辟。縺??縺?繧医?ょ?霈ゥ縺ッ繝懊け縺ィ縺壹▲縺ィ荳?邱偵↑縺ョ縺?繧」


ドロリ。


黒い液体だったそれが、あからさまな悪意を持ってその手を伸ばす。


殺意だ。


肌がピリリと泡だった。


俺は階段をあとずさった。

いつの間にか沙夜子の死体は消えている。


俺は階段を駆け降りる。


……どこまでが現実で、どこまでが夢だ?


その境界は分からない。


だけど今彼女に殺されたなら、確かに“俺”が死ぬ事だけは本能で分かった。


黒い手が後ろに迫る事を感じながら、俺はスーツで階段を駆け降りる。


螺旋状の階段を全て降りると、俺は体育館の扉を開いた。


……逃げちゃ駄目だ。


俺は一高ワン子と向き合わなくちゃいけない。


10年間、逃げてきた。


やっと向き合えるんだ。


やっと、やっと。


「……っ」


背中からひどい衝撃が襲う。


俺の体は体育館の床を転がった。


痛覚さえも彼女の手中なのか、本物のような痛みが走る。


「怒ってるよな、流石に」


10年もほったらかしにして。


「驕輔≧縲√◎縺?§繧?↑縺上※」


彼女がまた何かを鳴く。


もう一度、その腕が俺に振り下ろされた。


痛い。


これが全部夢なのかもしれないけれど、これが全部現実なのかもしれない。


誰か。


「縺企。倥>縲∝勧縺代※」


お願い、助けて。


その瞬間、俺の脳裏に浮かんだのはタバコの匂いだった。


“君が声を上げてくれれば私は駆けつけるよ”。


その声が。


「……北条先輩!」


俺は叫ぶ。


その次の瞬間だった。


「はーぁい」


黒い飛沫が上がって、俺に振り下ろされる手が弾け飛んだ。


体育館のドアの方から銃声が聞こえたのは、それと同時で。


「悪いけどは、今を生きてるんで……君にあげれないんだ」


先輩が、銃を掲げた。


俺は床に無様に転がったまま、ため息をつく。


来てくれた。


俺は腰から銃を抜く。


「ごめんな、一高ワン子


俺は。


「俺はもう竹花先輩じゃねえんだよ」


俺は竹花楽都。

25歳の夢術管理協会の職員で、獏を殺しに来たんだ。

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